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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第95話 偽りの強者

 リーファ家滞在三日目。もう明日にはシャーロット領に帰ってしまう。


 時間の流れは早い。それはわかっていた。今朝はメウスもベッドで寝ていて、少し安心したのだけど……。


「レイ! 昨日なんで勝手行動をしたの!」


「は? アネキには関係ねぇよ」


「関係ある! それに、一昨日寝てなかったよね!」


 一昨日寝てなかったとはどういうことだろうか。


 たしかに彼は早朝から起きていた。ぶつかった時は正直びっくりしたけど。


 彼はものすごく敏感。私もそれはわかっている。


「一昨日やったことを説明するとな。ここ周辺の地形暗記。書庫を見つけたからそこで全巻の読破。それだけで時間を食った。以上」


「本当にそれだけ? 変なことでもしてたんじゃないでしょうね!」


「いや、して……」


 ここでレイの発言が途切れる。すると部屋のドアが開いた。


「皆さんおはようございま……。メウスまだ寝ているんですか?」


「エレンお兄ちゃん! レイが本当のことを吐かないの! 助けて!」


「え、え……。そんな、急に言われてもですね……」


 エレンが戸惑いの表情を見せる。よく見たら、右手には一冊のノートが握られていた。


「そのノートは?」


「その。書庫で不自然に落ちていたので、拾ったのですが……」


「うん」


 エレンが顔を少し曇らせる。


「このノートには、表紙にアメジスって書いてあるんです。だけど、本人に見せても心当たりがないみたいで……」


「心当たりがない?」


「それだ! ずっと引っかかってたんだよ。アメジスってやつは、酒マイスターらしくてさ」


 酒マイスターってことは、酒にものすごく詳しいってことになる。


 加えて、ここに来てこんなにもスムーズに入れてくれるのもおかしい。


「ブライアント公爵家ではお母様が、ベルンライト公爵家ではエレンが元々住んでいたからすぐに入れてくれた」


「そうですね」


「だけど、リーファ家でアポイントを取ったのは私。ここに住んだこともない」


 そう考えると不自然なことが多かった。


「酒マイスターなら、メウスが飲んだリーディスも問題ないはず……。だけど、彼は……」


「すぐに酔っぱらっていた。加えて、酒の在り処を教えてくれなかった」


「そうそう、ってメウス!」


 いつの間にか起きていたメウスに驚いたが、そこまで観察しているとは思わなかった。


 昨日のメウスは少しだけ体調を崩していたのに、一部に関する記憶力は異常。


 そこがいいところであり、悪いところでもあるんだけど……。


「そして、この家に流れる空気。実はぼく違和感を感じていたんだ」


「え? 私は普通に木の香りがしていいと思うけど……」


「普通の人ならそう思うだろうね。だけど、ちょっと待って」


 メウスは空間を開く。そこから水色の液体を取り出した。


 蓋を開けると、ユリの花の香りが漂い始める。


「この香りは魔族が苦手とする匂い。ちなみに、ぼくの友人であるリザークには効かないけどね」


「それをどうするの?」


 メウスは小声で『エアウィル』と唱える。すると、風に乗ってユリの香りが広がった。


「実を言うと、この香りはリーファ一族が好きな香りでもあるんだ」


 リーファ一族が好きな香りで、魔族が苦手な香り……。


「それに、今いるアメジスさんは魔力を持っている。それも膨大のね」


「でも、彼は魔法の存在を知らなかった……」


「知らなかった素振りを見せてるだけ。あれはかなり強い人だと思う」


 私にはわからなかった。メウスのことを助けるのに必死で……。


「アメジスさんは、ぼくがリーディスと説明して初めて反応したよね?」


「はい」


「酒マイスターであれば、勝手に説明してくれるものだと思わない?」


「言われてみれば……」


 この場にいるメウス以外の全員が『たしかに』と答えた。


 メウスがユリの香水に息を吹きかける。すると、金色の風に変わった。


「あとは、これが道を示してくれる。エレン、聖剣は持った?」


「は、はい! 今すぐ用意します!」


「ティア。レイ。準備いい?」


「もっちろん!」「いつでも出動可能だ」


 私も心の準備は整った。今ここにいるアメジスさんは、もしかすると……。


『ぎゃーーー!』


「『!』」


 廊下からお母様の声が聞こえてくる。同時に、どたどたと走る音が聞こえてきた。


「急ごう!」


 五人で廊下に出る。金色の風は家の奥まで続いていた。


 走る、走る。私たちは猛スピードで移動した。


 途中、金の目印が三方向に分かれる。この家はシャーロット公爵家ほどではないが入り組んだ構造。


 右の道をエレンとレイが、左の道をメウスが。正面を突っ切るように私とティアが走る。


「お母様! お母様!」


「ミカエラお姉ちゃん……」


「大丈夫。魔眼よ。私に未来を見せて……」


 私は一度立ち止まり、眼を閉じる。生まれつきの宝石魔眼は、呼応するように能力を発揮した。


 まず道が見える。それは、外の方向を指していた。


「家の裏手……。お母様はいない?」


 不自然だ。お母様の声は聞こえるのに。その裏手にいるお母様は普段見せないような狂気の笑みを浮かべた。


 ということはつまり。


「ティア。こっち!」


「え? 道戻っちゃうの?」


「うん。この家には、元凶はいない」


 そう。そもそもいないのだ。私はティアを連れて来た道を戻った。


 私は外の方へ出る。家をぐるっと回って、裏手の方へ。


 今頃メウスやエレンたちは行き止まりで立ち尽くしているはず。


 気づいてしまった。この家の不可解な出来事を。


「見つけた……」


「『ミカエラ!』」


 そこには、両親とレイラが手を後ろにした状態で拘束されていた。


 近くにいるのは数人の魔族と、アメジスの姿をした偽物。


 この状況では暗殺なんてできない。すでに見つかってしまっているから。


「ティア。私の指示に従わないで」


「どうして?」


「ここを使うの。ここを!」


 私は自分の頭を指さした。この状況での疑似的暗殺は、私なら理論上可能。


 攻撃手段をティアではなくレイにすればいいだけのことだった。


 ティアは理解してくれた。私は、視覚情報をレイに伝える。


『了解した。暗殺すればいいんだろ?』


『うん』


『これは、オレの手柄じゃねぇ。おめぇの手柄に数えてやる。文句言うんじゃねぇぞ!』


「わかってるよ!」


 私の声に魔族たちがギロリと睨む。怖い。本当は怖いけど、リザークほどじゃない。


「そんな小娘に勝ち目なんざねーよ!」


「やーいやーい! おれっちの大将さすがっすね。簡単に捕まりやしたよ。この小娘も楽勝じゃないっすか?」


 全然怖くない。むしろ、簡単すぎるほど弱い。弱いからこそ強がる。


 弱者は強者のフリをする。そして、本物(・・)をいじめるんだ。


「レイ! 今!」


『あいよ! アセルト! サイレス! ランブル! テュリエス! アクト!』


 私の視界に弾道が見える。しかし、目の前にいる魔族たちには視認する権限がない。


 魔法弾ではない。透明で、すり抜ける実弾。


 それは、家族を襲う魔族の脳天に数発ずつ、左胸に数発ずつ着弾し貫通した。


 暗殺任務完了。私は一切殺していない。協力あっての暗殺だった。


「ミカエラ! 大丈夫?」


「お母様こそ、大丈夫ですか?」


「ええ」


 私は両親とお姉ちゃんの拘束を解いた。三人はゆっくりと立ち上がる。


「それにしても、なんで急に死んだんだ?」


 お父様が質問をする。『種明かしは、もう少ししてから』と私は言った。


「誰か、本物のアメジスさんを知らない?」


「それなら、あそこの小屋から声が聞こえたわ」


 レイラが教えてくれた通り、私は小屋の方へ向かう。


 その中からは、今にも息絶えそうな呼吸の音が微かに聞こえた。

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主人公の活躍がみたい方は!!!!!


ぜひ第1話からご覧ください!!!!

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