第88話 ハゲはやめろ!
翌朝、私は乾いたばかりのワンピースに着替えた。王都の洋服店で買った、お気に入り。
だけど、今日はちょっとだけ違った。全体的にデコレーションがされていて、可愛さが倍以上になっている。
月光の月三日。今日は何もない日。だけど、それでも大事な日。
「ミカエラ。準備できた?」
「はい!」
私は急いで部屋を出る。すると、後ろからガタガタと音がした。
「オレとアネキも連れていけよな」
「そうだよ! お姉ちゃん!」
声の主はレイとティア。二人は人の姿で歩いてくる。
改めてレイを見ると、ものすごくイケメンだった。髪は灰色で肩よりも下まで長く、瞳もグレーで目じりが鋭い。
メウスともエレンとも違う。身長はティアよりも低いのに存在感はすごかった。
「なんだよ。行かないのかよ」
「いや、行くって……。ただ、車乗れるかな?」
「は? あの神とか言う野郎がなんとかしてくれるだろうよ。オレは知らね」
やっぱりメウスは自慢したんだ。それとも、ティアが?
私は二人を連れて玄関に向かった。そこには、なぜかアダムとリザークの姿。
車も一台だったのが二台になっている。どうやら、大所帯で出かけるようだ。
「ミカエラ。早く乗って!」
「わかりました! ティア。レイ。行くよ!」
私はメウスが運転する車に乗った。もう一台はどうやらリザークが担当らしい。
これから向かう場所は、お母様の姉ミレスのお墓。この時期になると、死者が戻ってくるらしい。
この風習は前世でも聞いたことがあった。夜に骸骨のペイントをして練り歩き、死者を迎える祭りが……。
「では、しゅっぱーつ!」
メウスの車を先頭にし、墓へ向けて動き出す。
空は快晴。そして、隣に座るレイ。彼の長い髪が、雑に揺れた。
なんで、銃の人型は長髪が多いのだろうか。
「レイは、その長い髪好き?」
「あんまりだな……。けど、あの神の解釈的には、見た目は使用者に似るらしい」
「なら、切ってあげるけど……」
「本当か?」
私は席を立ち、メウスからナイフを受け取る。戻ると、レイの髪を手に取った。
どれくらいの長さが似合うだろうか。前世の弟だと思って、刃を入れる。
「耳が見えている方がいいよね?」
「な。そんなに切るのかよ……」
「じゃあ、耳隠す?」
私はレイを茶化しながら、自分の髪でナイフの切れ味を確認する。
ザクリ、ザクリと、長く伸びた前髪を整えた。
「いや、全部切ってくれ」
「丸ハゲにしようか」
「ハゲはやめろーーー!」
レイはバタバタと暴れ始める。それをティアが必死に止めてくれた。
ちょっと丸ハゲはやりすぎたか。私は言ったそばから後悔した。
「さすがにハゲはしないよ。じゃあ、切るね」
私は耳が半分見える長さで、手前に向けて斜めになるよう切った。
すっきりしたレイは、よりかっこよさが際立つ。
「ど、どうなった……」
「レイ! かっこよくなってるよ!」
「あ、ああ……あ……え……う……うぅ……」
どうやらレイは褒めなれていないようだ。それもそのはず、彼は昨日人の姿になったのだから。
私は下に落ちた髪を片付けた。そうして全部が終わると外の風景が変っていることに気づく。
「もうすぐで着くよ!」
メウスが報告をする。近くに座るティアとレイはどうやら手遊びをしているようだ。
「お母様」
「なにミカエラ」
「お母様から見てミレスさんはどんな人だったんですか?」
「そうね……」
お母様は車窓を見ながら話し始めた。
「お姉様は、ものすごく器用で、優しくて、とても正義感の強い人だったわ」
「器用で、優しくて、正義感の強い……」
「ええ」
すると、後方を走っていたもう一台の車が横並びになる。
そこから見えたのは、セシルとミリアだった。そして、見慣れない女性も乗っている。
髪はパステルブルー。瞳はパステルグリーン。もしかしてこの人は。
「メリンさんですか?」
「はいはーい。そうですよ。実を言うと、ミリアとは双子なのだー!」
なんだこのキャラは……。私はこの濃さについていけそうにない。
メリンはパステルオレンジのドレスを着ていた。
「もう。メリンったら。ミカエラちゃんに失礼だよー」
「えー。ミリアこそ、ミカエラの瞳を狙ってたって」
「それはそれなのー。もう。掘り返さないで!」
姉妹喧嘩が始まってしまった。彼女らの近くでは、レイラとお父様が乗っている。
二人は、喧嘩をするメリンとミリアを前に苦笑していた。
「ミカエラはミレスに会いたかったのですか?」
「え、いや、違います。ただ、気になっただけで……」
セシルが私に聞いてきたので、すかさず返答した。
「そう……」
そう言って彼女は反対側を見る。やはり、このブライアント公爵家で銀髪金眼は異質らしい。
だけど、その条件に合う私を迎え入れてくれたのは、彼女たちの考えが少しだけ変化したからだろう。
車は山道を進んでいく。周囲には花が沢山飾られていて、異世界らしい風景が広がる。
「到着。みんな降りて」
メウスが車を停めると、リザークの車も止まった。
全員が下りたが、まだここは山の中。だけど、先の道は車が通れる幅もない。
「ここから歩きなんかよ……ダル……」
「レーイー。あたしはちゃんと歩くからレイも歩くの!」
「やだね」
「むっきー!」
ここもここで喧嘩らしい。二か所で喧嘩が始めると、これからが心配になりすぎる。
ということで、アダムがミリアを抱え、リザークがメリンを抱え。
私はティアとレイを強制的に銃へ戻し、レイをメウスに預けた。
「これでよし。行こう!」
私たちは森の中を歩き始める。しばらくすると、森が開けた。
墓碑が地面に並んでいて、まるで外国のよう。西洋系の場所だった。
「お姉様のお墓はこちらです!」
少し興奮気味のお母様。これからここで、三食を共にする。
死者と一緒に一日を過ごす。これが、この世界での墓参りだった。
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