第86話 獣人魔王の策略
◇◇◇アルムガンド王宮要塞◇◇◇
漆黒の壁。星光りが差し込む大窓。そして、黒塗りの床。
獣人の国アルムガンドの王宮要塞。玉座に座る一人の男。
頭には三本の角。そして、長く伸びた灰色の髪。
獣人の国を統べる魔王、アラン・リゼルタスは、その鋭い眼光を水晶に向けていた。
「メウス・リーファ……」
彼が見ていたのは、今異国の乗り物を動かしている一人の少年だった。
直近では、人族の魔王リザーク・ヴェルムを救ったのだとか。
しかし、気に食わないのか。他の場所に目をやる。
「この娘。もしや聖女か?」
次にアランが目をつけたのは、銀髪金眼の少女。
この組み合わせを産むのは、人族のみで他の種族では生まれない。
しかし、一つ例外がある。それは、エルフ族が稀に聖女を授かるというものだ。
「アラン様。もうそろそろ、就寝なされては?」
鹿の角を生やした女性が、アランを催促する。
彼女の名前はリフナ。世間ではリフナ夫人と呼ばれている。
「リフナ。ここと人族の国の時差は長い。使い魔の噂によれば、彼らは今年の秋。グラーシア領へ向かうらしい」
「はい」
獣人族は昔から鳥などの小型動物を使い魔にしていた。
古くから動物との親和性が高く、動物を通して世界を知る。
「グラーシア領と言えば、こちらとも親交が深い」
「はい」
「そこでだ。今私は、このメウス・リーファに目を付けた。彼を生贄とし、我が国をさらに上のステージに昇格させる」
「ほほう……。金儲けですか。いやはや」
「それだけではない。これを見てくれ」
アランは水晶をリフナ夫人に見せる。そこには、金色の液体を振りまくメウスが映っていた。
「これを見て、おかしいと思わないか?」
「ええ。気づきましたとも。彼は普通の人ではない。異色の血を持つ者は、神に値すると言われております。まごうことなき、彼は神。それも、上位存在と見てもよいでしょう」
「ああ。そして、あの血の色。純度が非常に高い。大量に抽出し加工すれば、高値で取引されるはずだ」
「その目利き。非常にお見事でございます」
「早速、グラーシア領に住む氷の戦女神に通達しろ。彼女なら協力してくれるはずだ」
「かしこまりました。即日手配させていただきます」
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
「今日は楽しかったねー!」
「はい。まさか、ミリアさんが僕と対等に戦えるとは思いませんでしたが……」
「それよりさー。エレンくん。体調崩してたのによくあんな量食べられるよねー」
「ふっふっふ。それはですねー。ごにょごにょ……」
エレンとミリアが話をしている。今回の昼食をほとんど片づけた二人組。
エレンは顔をミリアの身体に寄せて、耳元でつぶやいている。
何を隠し事しているのか気になり、魔法で聴覚を強化した。
「それですね。僕は体調を壊している方が沢山食べられるのです。ふっふっふ。すごいでしょー」
なんだ。そういうことか。私は聞かなくてもいいことを聞いてしまった。
いい加減な隠し事は嫌い。だけど、彼は回復速度が段違いだった。
スポーツドリンクを数回口に入れただけ。少し休ませただけで目を覚ました。
日々の鍛錬が実ったのか、身体は頑丈らしい。
「エレンって、体調不良の方が食べるんだねー」
「ちょっと、メウス!?」
「なんてね。ぼくとは大違いだ」
「そーいうメウスだって。病み上がり後の梅干しご飯五杯食べてぶっ倒れていましたよね!」
「うぅ……」
懐かしい。私がベルンライト公爵家でお世話になっていた時。
メウスはエレンと張り合った結果、ご飯を五杯も食べていた。
アダムが『毒が盛られたのか!』とパニックになっているところは、今でも笑い話にできる。
それだけ、アダムはメウスのことを心配しているのだろう。
「そろそろ到着するよー」
メウスがそう言うと、ブライアント公爵家が見えてきた。
外はまだ明るい。夏という言葉が似合うくらいに、太陽が私たちを照らす。
車が公爵家の前に停まり、私たちは降りた。
「ただいま」
「あ、お姉ちゃん! おかえりー!」
「ただいまティア。いい子にしてた?」
「うん!」
庭で遊んでいたらしいティアに出迎えてもらったあと、私は自分の部屋へ移動した。
バッグから綺麗で柔らかい布を取り出す。
「ティア。身体拭くよ」
「えー」
「ティア!」
「はーい……」
ティアが銃の姿になる。彼女はお風呂には入れない。だから、私が綺麗に磨いている。
キュッキュという音が響くと、彼女の身体が温かくなった。
「きもちー!」
「よかった。それと、ティアに見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
磨き終えたティアは、髪型もしっかり整っていた。
そんな彼女に見せたいもの。それは、メウスから受け取ったガトリングガン。
「これ、いずれ弟か妹になる銃。ティア、お姉ちゃんになりたいんでしょ?」
「うん! なりたい!」
「じゃあ、ティア。これに触れてみて」
ティアがガトリングガンを撫でる。すると、一瞬だけ銃身が温かくなった。
もしかしたら、可能性はゼロではないかもしれない。
「もう一度」
「うん」
再び彼女が触れる。すると、銃身がドクンと波打った。
だけど、少しだけ重い。いや、重くなった? もう一度と言いたいところだけど、諦めた。
なぜなら、誰かが扉をノックしたから。
「はいってどうぞ」
「ああ。ミカエラ」
「お父様?」
「いや……。夕食ができたから来てくれ。それと、メウスさんから何かあるらしいんだ」
私は『わかりました』と答え、ティアを連れて部屋を出た。
メウスが何かを言う時、それは重要なことが多い。
アルバス国王を救った時も、本人は毒に侵されながらも真実を語ろうとした。
今回のことは、絶対聞いた方がいい。そんな気がした。
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