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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる【サブストーリー更新中】  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第85話 この食べっぷり本当に元体調不良者ですか?

「エレン。そこまでにしたら?」


 湖畔での昼食。空が真っ青に染まり、そよ風が気持ちいい中で、エレンだけが食べていた。


 これが、熱中症から回復したばかりとは思えない。


 むしろ、食べる量が増えた気もする。


「まだ入ります……!」


「それは……」


 私はそんな彼が不安で仕方ない。こんなに食べた後で、嘔吐をされたら困る。


 しかし、元の白肌に戻った彼は、素早い動きで出来立ての焼き魚をキャッチしていく。


「本当に食べるんだねー!」


「そうね……。ところで、ミリアはもう終わりなのかしら?」


 レイラがミリアに問いかける。すると彼女は、刺身を一枚取って口に入れた。


「自分は十分食べたよー。アハハ! これでもかなり小食なんだー」


「ミリア。嘘は言わないでください」


 お母様が割って入る。嘘をついているとはどういうことなのだろうか。


 疑問に思った私は、お母様に聞いてみた。


「どうして、ミリアさんは嘘を?」


「うふふ。あれでもいじけてるのよ。エレンさんがたくさん食べるから、弱いフリをしているだけ」


「そ、そうなんですか……」


 直後、火元に立てかけておいた魚が消える。取ったのはエレンではなくミリアだった。


「じゃ、いただきまーす!」


「あー。僕の魚が……」


「早い者勝ちよ。は・や・い・も・ん・が・ち!」


 そう言って、ミリアは手に持った五本の串を口に突っ込んだ。


 一気に飲みこむと、豪快にゲフンと汚い音を出す。これならメウスの方が行儀いい。


「ミーリーアー!」


「うげッ!? 自分まずいことした?」


 ミリアは令嬢らしからぬ声を出して身じろぐ。


「子供たちの前でゲップをしないで頂戴。変な癖を身に着けさせたくないの!」


「ご。ごめんなさい……妹に怒られるなんて……」


 お母様強し。ミリアは両目に涙を浮かべている。


 現在火元を見ているのはお父様だけ。ちなみにメウスはというと……。


「うーーー。食べ過ぎた……。エレン強すぎー。体調不良で勝ち目あったのにー!」


 どうやら、今回も張り合っていたらしい。彼は芝生の上で横になっていた。


 私が『寝る時は右を下にするといいよ』とアドバイスをしているので、問題はないと思う。


 そして、メウスは時折右目に手を当てていた。きっと、眼が治り始めているのだろう。


「メウス。もしかして……」


「う、うん。急にね。あ、いったかも」


 メウスは右目を開ける。そこには、左眼と同じ深紅の瞳が輝いていた。


「視力はー。問題ないね。よし、完全復活!」


「『お、おー』」


「なんで、ぼくの時だけしらけるの! うーーーくやしーー!」


 メウスは重そうに身体を起こすと、『魔法練習してくる』と言ってどこかに消えた。


 私は気づかれないように追いかける。メウスは、湖畔近くの洞窟にいた。


「ライゼルク!」


 中から詠唱の言葉が聞こえてきて、直後視界がフラッシュする。


「ちょっとメウス!」


「あ、いたんだ……」


「最初から見ていたよ。その、ライ……」


「ライゼルクね。ちょっと待って」


 メウスはポケットから魔法紙を取り出した。そこに数字の羅列を記入していく。


 見せられた途端、魔法の術式が頭に入っていった。


 ライゼルクの術式はライティスに似ている。ということはもしかして……。


「ライティスの上位互換?」


「大正解。最近完成したばかりなんだ」


「ライゼルク!」


 私は早速唱えてみる。魔力量の調整。威力の調整。全てを最適化させて。


 手がほんのり白くなる。そして、洞窟を照らした。


「なんで、上手くいくの! ぼくが作った魔法なのにー!」


「多分数値の関係じゃないかな?」


「え?」


 私は彼にもう一度術式を書いてもらった。そして、私が手を加えていく。


 魔法は数字でできている。私にはこの数値がどういう役割をしているのかわからない。


 だけど、メウスが書く術式は簡単で分かりやすい。それが彼の得意分野だからだと思う。


「ここの数字を減らして。ここの数字を二つ増やして」


「う、うん……」


「違う。この十五番目の数字を増やすの!」


「は、はぁ……」


 私に言われるがまま、メウスが術式を書き換えていく。


 すると、綺麗な数字の羅列が完成した。これで魔法の不具合がなくなったはず……多分。


「ライゼルク!」


 メウスが唱える。すると、魔法は正しく機能した。


 こんな簡単な数式にも気づかないなんて、やはり年齢の関係もあるのだろうか。


「できた……。ミカエラ。ありがとう」


「どういたしまして」


 なんとか形になったようでよかった。私はメウスを連れてみんなのところへ戻ろうと向きを変える。


 すると、シャンという空間を開く音がした。振り返るとメウスが銃を持っている。


「これ。誕生日から半年経っちゃったけど。ぼくからの誕生日プレゼント」


「ガトリングガン?」


「うん。この前セリンが部品を調達してくれてね。作ったんだ。ちゃんと初回メンテナンス済みだよ」


「いや、いいよ。私の誕生日はものすごく盛り上がったし、メウスからはもらってばかりだし」


 彼からはヘカートをもらった。暗殺者と聖女の力をもらった。大切な仲間をもらった。


 だけど、私は彼を一回助けただけ。何も恩返しができていない。


 そんな私が、こんな新品のガトリングガンなんて受け取れない。


「いいから持ってみてよ。もしこの銃がティアみたいになったら、ティアも喜ぶと思うよ」


 そう言われて気付く。ティアも少し前から、お姉さんぶるようになっていた。


 このお出かけについてこなかったのも、きっと自分が大人になったことをアピールするため。


 前世の私の弟もそんな感じで、特に次男の翔輝は我が強くてしっかり者だった。


「わかった。大切にする」


 私はそう言ってガトリングガンを受け取った。銃身は魂が目覚めていないのか冷たい。


 二人で洞窟を出る。この洞窟はみんながいる場所から三時の方向にあった。


 徒歩での移動は大変なので、メウスに運んでもらう。


「お待たせ」


「おお。ミカエラ。メウスさん。どこに行ってたんだ?」


 お父様が質問をしてくる。私はごまかし混じりで『食休みの散歩に』と答えた。


「ふぅー。お腹いっぱい!」


 ようやく食べ終えたらしいエレン。彼のお腹は少しだけ膨れていた。


「負けましたー。うえーん!」


 こちらも、張り合っていたらしいミリア。四十代目前という彼女にしては、自由人すぎる。


 ってことは、お母様は今何歳なのだろうか。聞きたい気持ちはあったが、諦めることにした。


「では、ブライアント公爵家に戻りましょうか」


 お母様が言う。それに全員が頷いた。私は満腹状態のエレンを車に運ぶ。


 ゴミの処理と火元の処理は全てメウスがしてくれたらしい。


 全員が車に乗ると、ブライアント公爵家に向けて出発した。

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ぜひ第1話からご覧ください!!!!


次回更新は明日20時!

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― 新着の感想 ―
エレンさん、熱中症から回復したばかりとは思えない食べっぷりでしたね(笑) ミリアさんまで張り合い始めて、魚の争奪戦がとても賑やかでした!
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