表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる【サブストーリー更新中】  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/87

第83話 初めての味

 ◇◇◇エレン目線◇◇◇


「僕は……」


 見える世界が全て炭の色に染まっている。


 少し前、僕はニワトリに囲まれて作業をしていた。


「だけど……。直前の記憶がない……」


 意識があやふやになって。ぐちゃくちゃになって。


 強風にでも煽られたように横倒しになって。そこから先がわからない。


 この感覚。この感情。結びつくとしたら――孤独。


「あれ、身体が動かない……なんで。なんで……!」


 瞼も開かない。身体の感覚がしない。


 こんな世界は初めてだった。少しだけ、気持ちが悪い。


 全身がほてっている。ものすごく、熱い。


「ミカエラさん! メウス! フランさん!」


 僕が放った言葉は、頭の中で反響するだけ。


 早く、目を覚まさないと……。こんなところで……。


 まだ、勇者になったばかりなのに、ここで終わるなんてできない。


「エルヴィンさん! レイラさん! バルトおじいさん! ミリアさん!」


 名前を呼んでも。呼んでも届かない。瞬間、首筋が急激に冷たくなる。


 ひんやりと気持ちがいい。そして、身体全体が冷えていく。


 熱が奪われていく。これは現実なのかはたまた錯覚なのか。


「もしかして……」


 不自然に口が開かれる。渇いた喉に流れたのは、あまじょっぱい何かだった。


 少しずつ、少しずつ運ばれていく。その度に意識が引き戻されようとする。


 この世界には、このような飲み物は存在しない。


 こういう物を思いつくことができるのは、僕が知る限り一人しかいなかった。


「ミカエラさん……」


 もっと、もっと……! 僕を引っ張り出してほしい。


 ずっと、ずっと……! ミカエラさんとメウスといたい。


 きっと、もっと、ずっと……!


『エレン! エレン!』


 誰かの声が耳に入った。凛とした、さわやかで優しい声。


 重い瞼をゆっくり開ける。そこには木目の天井と、ミカエラさんとメウスの顔があった。


「やっと目を覚ました。体調どう?」


「う、うん……。まだ万全ではないですが……」


 僕は静かに身体を起こす。


「よかった……」


 僕の横で座っているミカエラさんが立ち上がり、コップを持ってきてくれた。


「これ、飲んで」


 半透明の液体が入ったコップ。水のように見えるけど、不思議な匂いがする。


「いただきます」


 疑心暗鬼になりながらも飲む。すると、暗闇で感じたあまじょっぱい味だった。


 なのに、身体がこの飲み物を欲している。


「ミカエラさん。これは?」


「即席で作ったスポーツドリンク」


「すぽーつどりんく?」


「うん。水に砂糖と塩を混ぜたものだけどね」


 たったそれだけの材料で……。


 僕はそのスポーツドリンクというものを飲み干す。


 だけど、身体が満足しきれていないのか、おかわりをしてしまう。


「どうやら、完全な塩分と糖分。水分の不足だね」


「だね」


「え、えーと……」


 僕だけが理解できていない。この状況が何かわからない。


「中等から重度の熱中症。エレン朝飲み物飲まなかったでしょ?」


「は、はい……」


「それで、身体を冷やす機能が落ちてしまった」


 ミカエラさんが僕の症状の詳細を教えてくれる。


 つまり僕は暑さに耐えきれず倒れてしまったらしい。


「その……。でも、なんでこんな飲み物を用意してくれたんですか?」


「私が焦ったからかな? なるほど、スポーツドリンクってこの世界にはないんだ……」


「ないですね。僕も初耳です」


 それを見たフランさんが、追加の飲み物を用意してくれた。


 他のみんなも飲んでいる。


「ミカエラがいなかったら、エレンは助かってなかったわ」


 レイラさんがそう言った。これは本当だ。彼女がいなかったら僕は……。


「それと、本人は焦ってって言ってるけど、一番冷静だったのはミカエラよ。彼女の機転の早さはさすがね」


「それはそうだな。ミカエラは本当にすごい。よくやった!」


「ちょっとお父様褒めすぎです……」


 僕は自分の手を見る。まだ力が入りにくい。


 身体の重だるさはそのままだった。


 すると、不自然に身体が浮く。周囲を見回すと、メウスが僕を持ち上げていた。


「これからここより涼しいっていう湖畔にいくよ!」


「本当ですか?」


「みたいだよ」


 僕は車の中に入れられる。ベルトを締めてもらうと、車内全体が冷えてきた。


 こんな涼しい空間も初めてだ。今日はみんなに助けられている。


「湖畔に向けてレッツゴー!」


 メウスが運転する。流れていく風景は、不自然に上下していた。


「メウス。どう動かしているんですか?」


「あ、これ? エレンが体調を悪化させないように、風魔法で車体全部浮かしてる」


「なるほど」


 僕はそのまま目を閉じた。これまでの出来事を振り返っていく。


 僕が九歳だった時。僕はミカエラさんと出会った。


 引っ込み思案で、弱虫で、自分の本当の強さを知らなかった僕。


 そんな僕を根柢から変えてくれたのが、ミカエラさんだった。


「もう。あれから三年……」


 メウスとはいつも張り合っていた。というよりは、メウスが勝手に張り合っていた。


 原因は僕にあるかもしれない。沢山食べる度に、彼は僕の真似をする。


 だけど、彼が作る料理も好きだった。彼は食の研究をしているというのが、よくわかる。


「次は何作ってくれるんだろう」


 僕は目を開ける。外を見ると、大きな湖が見えてきた。


「まもなく到着いたしまーす!」


 メウスが大きな声でアナウンスする。


 車が止まると、外に出た。


「すごい……。風が気持ちいいです!」


「よかった。メウス。あれ。準備して!」


「りょーかい。クリエス。トリルアクト!」


 メウスが詠唱をする。すると、少し遠くの木が揺れた。


 ここまで聞こえてくる木が折れる音。そのまま、こちらまで飛んできた。


 同時に紐が括り付けられていく。完成したのは釣り竿で、全部で七本ある。


「みんなで釣り大会しよう!」


「『はい!』」


 僕は釣り竿を受け取り、湖の中に足を入れた。ものすごく冷たい。


 そのまま、水を頭からかぶる。全身が濡れて吹く風が冷やしていく。


 こんな仲間と一緒にいたい。あとでシリル先生にも自慢しよう。


 僕は釣り糸を垂らし、魚が食いつくのを待つことにした。

読んでくださりありがとうございます


いいねは賽銭箱に大事にしまっておきます

リアクションも別の賽銭箱に入れておきます


星は1から5どれでも大丈夫です


下の評価ボタンからぽちっとしちゃってください!


最高の励みになります!


ついでにぜひブクマもお願いします!


主人公の活躍がみたい方は!!!!!


ぜひ第1話からご覧ください!!!!


メウスとフランの里帰り。あと二話でフラン編完結!!!次回明日20時!!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エレンが無事でホッとしました…。 それからメウスや仲間たちと湖畔で釣り大会。危険な状況を乗り越えたからこそ、「これからも一緒にいたい」というエレンの思いが、より温かく感じられました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ