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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる【サブストーリー更新中】  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第82話 エレンの異変

 メウスが作った車に乗り、お母様の実家を出た私たち。


 家族に加えて、経過観察中のミリアも一緒だった。


 今のところ眼に違和感はないようで、順調みたいだ。


「ミリア。もし具合が悪くなったらぼくに言ってね」


 メウスがそう言う。ミリアは外の景色に夢中で、話を聞いているのかわからない。


「メウスこそ、体調は大丈夫なの? 眼の方は……」


「大丈夫。もう少しで完治するかな?」


「そう……なんだ……」


 メウスはまだ片目を瞑っている。それはミリアに与えるため潰した右目だった。


 彼の利き手はたしか右。つまり、不自由が多いはずなのに。


 車はコースを外れることなく、真っすぐ進んでいく。


「メウス。朝から片目を閉じたままですけど」


「まあねー。ちょっと自分の身体で実験してた」


「実験って……」


 エレンやほかの人たちには、そう言い訳をしているようだ。


 そもそも、自分の眼を潰すのは、自分で不自由にさせているということ。


 それすらも、神には通用しない。私は気持ちを切り替えて、外を眺めた。


「ミカエラちゃん。外綺麗だね」


「そうだね……。ミリアさんは眼が痛くなったりとかしてないの?」


「今はだいじょうブイ! 遠くもしっかり見えてるし、問題ナッシング!」


「ならよかった……」


 それよりも、私たちはどこへ向かっているのだろうか。


 弁当は持ってきていない。となれば、車で数十分ほどの近場なんだろうけど……。


「お母様。私たちはどこへ向かっているのですか?」


「そうね」


 周囲には、牛の群れ。豚も放し飼いされている。


 さすがは酪農が盛んな領地だ。車はしばらくして、大きな家に到着した。


「ちょっと、聞いてきますね」


 お母様が一足先に降りる。中では床をつつく音が聞こえてくる。


 そして、少し鼻につく家畜の臭いがしてきた。


「入っていいそうです!」


 許可が下りたタイミングで下車。建物に入ると、ニワトリが沢山いた。


 だけど、前世の養鶏場とは違う。テレビで出る養鶏場は設備がしっかりしているイメージが強い。


 しかし、ここは完全放し飼い。ここにいる人は今タマゴを回収中らしい。


「叔父様! 連れてきました!」


「ほう」


 奥から長く白髭を伸ばした老人がやってくる。


「フラン、よく来たな」


「はい、バルト叔父様」


 バルトという老人は、骨ばった身体をしていた。


 見た目が歳をとらないメウスと違い、いかにもご老人ですという風貌。


 にも関わらず、動きに無駄がない。


「叔父様はいつも走っているんです。今でも現役よ」


「現役とはなんだ。こちとら死に際もいいとこじゃい」


「あはは」


 バルトは、身体の向きを変えてニワトリの群れへ飛び込む。


 タマゴを産む場所からニワトリを追い出し、素早い動きで回収。


 とれたて新鮮なタマゴを触らせてもらう。


「まだ温かい……」


「ミカエラさん。本当ですか?」


「うん」


 私は手に持つタマゴをエレンに渡す。彼も『本当だ』と言ってメウスに渡した。


「温かいね……。うーん。じゃあこれをこうして……」


「メウス何してるの?」


「いいこと思いついたんだ」


 するとメウスの手のひらが青紫色に輝く。しばらくすると、殻を割った。


 中から出てきたのはゆで卵。だけど、少し塩っぽい香りがする。


「よし。バルトさん。人数分タマゴ用意してくれるかな?」


「良いのだが……それはなにかね?」


「これは食べてからのお楽しみだよ」


 お母様の叔父様は、すぐに人数分を用意してくれた。


 そして、メウスが何回も青紫の光を放つ。


 全部で九個。それぞれで割って口に入れた。


「何これ。美味しい……」


 そう言ったのは、ミリアだった。彼女はある種の食マニアなのかもしれない。


「ぼく特製の煮卵だね。温泉卵もつくれるよ」


「『おんせんたまご?』」


 ちょっと、そこで日本の知識を持ってこないでよ。と言いたいところだが、美味しすぎて口が塞がっていた。


 味の状態もちょうどいい。醤油の味もそうだし、出汁もきいている。


 全員が食べ終わると、色々体験させてもらえることになった。


「ミカエラさんと、エレンさん。レイラさんは、右側一帯のタマゴを回収してくれんかね?」


「『はい!』」


「メウスさんと、フラン。ミリアは、私と一緒に作業してもらいたい。エルヴィンは餌場から餌と取ってきておくれ」


 バルトの指示で三つに分かれる。私はエレンと協力して、タマゴをかごに入れていった。


 上下する上半身。タマゴを守ろうとするニワトリ。


 新たな命の塊なのに、食用だから難しい。だけど、これも大事な仕事なんだ。


「エレン。そっち終わった?」


 目につくところから回収し終わった私は、エレンに声をかけた。


 彼は汗を大量にかいていて、足元もふらふらしている。


 これはヤバイ兆候かもしれない。この世界には暖房になるものはあるが、冷房になるものがない。


「バルトさん!」


「どうした?」


「エレンが……、もしかしたら熱中症かもしれないです」


「熱中症じゃと?」


 直後。バタン。エレンが倒れた。早く手当をしなければ。


 私はすぐメウスにも伝えた。彼はエレンを片手で抱きかかえ、建物の影に移動させる。


 私も、使い慣れていない氷魔法で患部を冷やす。メウスも追加の氷を用意してくれた。


「脇の下と首のサイドを冷やしていきます。バルトさん。お母様を呼んできてください!」


「りょ、了解した……!」


 バルトが駆け足でお母様を呼びに行く。二人となって戻ってきた時、荒れていたエレンの呼吸は落ち着いていた。


「お母様、水に砂糖と塩を混ぜたものを用意してください」


「なぜ?」


「スポーツドリンクの代用です。熱中症には最適な飲み物になります」


「わ、わかったわ……」


 お母様は、近くの家に入っていく。きっとあそこが、バルト叔父様の家なのだろう。


 少しすると、コップを持ってきた。先に私が味見をして、濃度を確かめる。


 それにしてもさすがはお母様だ。分量がしっかりできていた。


「これを、スプーンで少しずつ与えます。急にたくさん飲ませると、むせて肺炎になりかねないので」


「は、はい……!」


 コップを受け取ると、お母様がスプーンを取りに行った。


 エレンはまだ意識がはっきりしていないのか、ぐったりしている。


 ただ、嘔吐をしていないことが幸いだった。


「持ってきたわ」


「ありがとうございます」


 私はスプーンで即席スポーツドリンクを掬い、エレンに与える。


 顔色はまだ戻り切っていない。ここではまだ暑いのだろうか。


 しかし、部屋の中の方がきっと暑い。


「メウス。ドライアイスくらい冷えた氷出せる?」


「可能だけど……」


「じゃあ、すぐに用意して」


「わ、わかった」


 メウスは魔法を唱え、今までで一番冷たい氷を生み出す。


 それを、砕いて、エレンの額に乗せた。


 真っ赤に染まった彼の顔は、だんだん白くなっていく。ちょうどいいところで氷を外した。


「これで、軽く休ませれば大丈夫です。協力ありがとう」


「いえいえ」


「まあねー」


 けれども、熱中症はこの世界でもあるんだなと、私は感じてしまった。


 しっかり水分補給と塩分補給をしないと、エレンみたいにはなりたくない。


 体調不良者が出たので、作業は中断。近くの湖畔へ行くことになった。

読んでくださりありがとうございます


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主人公の活躍がみたい方は!!!!!


ぜひ第1話からご覧ください!!!!

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― 新着の感想 ―
エレンが倒れた場面にはヒヤッとしましたが……首や脇を冷やし、即席のスポーツドリンクを少しずつ飲ませるミカエラさんの冷静な対応が頼もしかったです。 前世の知識が異世界でも誰かを救う力になっているのが素…
感想一覧
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