第79話 神なら作れるそうです
本日も最大3話更新します
注)自傷描写・残酷描写あり
夜、私は両端にメウスとエレンが寝る中ずっと天井を眺めていた。
「眠れない……」
魔眼商人が実際にいた事実。そして、禁忌の病にさらされたミリア。
私が絶対会うべきではなかった。今日は朝から忙しかった。メウスとティアがいなかったら私は……。
「ちょっと、飲み物飲んでこよ……」
私はメウスとエレンを起こさないように、ベッドから出る。
薄暗い部屋、ピンク色の扉。廊下に出ると、入口の前でミリアが泣いていた。
「ミリアさん?」
恐怖を感じながらも、話しかける。すると、ミリアは光を失った瞳で私を見る。
「メウスさん……怖い……」
ミリアの第一声はそれだった。
「そうかな? 私としては、彼は比較的優しい方だと思うけど……」
「それでも、自分は怖い……」
ミリアはメウスからの罰を受けたあと、自分の行く末に思い悩んでいるようだった。
「実を言うと、私も彼は少しやりすぎな気もしてる。だけどね。それが彼の大事な仕事。普段は自由人だけどね」
「あれ……でも?」
「うん。エレンとはよく張り合っているし。食事も食べ方が下手だし」
「はい……」
「それに、ところどころ矛盾があって。メウスったら、数字を見るのは嫌って思っているにも関わらず。数字に縋りっきりなんだ」
私は、自分の家から持ってきた本を探しに、部屋へ戻る。
すぐに見つけて持っていくと、ミリアは泣き止んでいた。
「これ、メウスが書いた記念すべき一千一冊目の本」
「見せていただいても?」
「どうぞ」
私はミリアに本を渡す。タイトルには異世界語で『ミカエラ考案・異界のアレンジレシピ集』と書かれていた。
これは、私が持っている記憶からリストアップされたものや、私の思い付きのオリジナルレシピが掲載されている。
「何ページあるんですか?」
「え、えーと……」
ガチャリ、後ろの扉が開く。
「247ページだよ。掲載されているレシピは全部で六十あるね」
「メウス!?」
突然起きてきた彼に、身震いをしてしまう。彼は一体いつから聞いていたのだろうか。
「ぼくが書いた本のページ数は全部覚えている。からね」
「す、すごい……ですね……」
ミリアが怖気づくように、言葉を紡ぐ。メウスは私の反対側に座った。
本を三人で読む。この瞬間がとてもいい。眠れない時も、やはり読書に尽きる。
「ミリアさん。今日はごめんね……」
「いえ。自分が犯した罪です。フランには憧れていたけど。それで道を踏み外してしまった」
「うんうん。うーん……」
「メウス?」「メウスさん?」
メウスはしばらく黙り込む。その表情は、ものすごく険しかった。
この状況をどうすればいいか。問題を解決するには。少しして、彼は切り出した。
「ミリアは、やっぱり魔眼ほしい?」
「え?」
「いや。君後天性であれ、魔眼との適応力が高かったからね。ぼくからもなんとかしたいんだ」
たしか、魔眼商人から受け取り埋め込むのは違法だったはず。
だけど、メウスは合法なやり方を模索しているらしい。
「本当は……ほしいです……。だけど、これは自分がやらかしたこと……」
「作れるよ?」
「『え?』」
さっきメウスはなんて言った?
「魔眼。ぼくなら、本物に近いもの作れるけど……」
「それって……」
「簡単に言うと……。ぼくの眼を複製する。魔法を研究してきた結果だね」
やはり、身体を張って行おうとするのかと、私は呆れまじりのため息をつく。
すると、彼は腰から針を取り出した。針先を自身の眼球に向ける。
「これをこうして……。うっ!?」
「メウス!」
次の瞬間。彼の右目から大量の血があふれ出し、床一面を黄金の海へと変えた。
「大丈夫。過去にも同じことやったから」
「それでもだよ! 何度も言ってるでしょ!」
「あはは。ぼくの眼は自然に回復するから……」
メウスは、床全体を覆いつくすくらい広がった血に針を立てる。
「アイルス クリエス ダブルアクト」
そして、魔法を唱える。血は針の方へと集まっていき、丸い球体を生み出した。
「よし、複製完了」
赤い瞳。メウスは『これでもいい?』とミリアに聞く。
「そんな……。いい……です……」
「うーん。せっかく作ったからもったいないんだよなぁー」
「メウス。なら、色を変えるのはどう?」
私はメウスに提案をした。すると、メウスは赤い眼球をピンクに変える。
「これで、前までの瞳と一緒だね」
「ですね」
メウスは眼球を空中で遊ばせる。瞑ったままの右目。身体の状態が心配だ。
「じゃあ、これ無料であげるよ。ちょっと失礼するね」
「いや、いらな……」
「大丈夫。これは安全機能付きの最新作だからね」
メウスは失礼するよと言い。ミリアの眼をいじり始める。作業は数秒で終わった。
ミリアの顔の上半分に包帯のようなものを巻かれる。
少しすると、それが外された。ここまでで全てがあっという間だ。
「ミリアさん。目を開けてみて」
「は、はい……」
ミリアが閉じた目を開ける。すると、そこにはピンク色の瞳を輝かせる彼女がいた。
「具合はどうかな?」
「すごく……安定しています……」
「よかった。今後しばらくは経過観察が必要だから。一緒に来てよ」
「いい……んですか?」
メウスがそこまでしてミリアを救いたい理由。それがわからない。
だけど、彼の行動には彼なりの優しさがあった。
ミリアは何度も目をぱちくりさせて、魔眼の存在を認識しようとしている。
「ありがとう。ございます……。ですが、ひとつ気になったことがあるんですけど……」
「なにかな?」
ミリアはメウスに質問を投げかける。その内容は私も予想済みだった。
「なんで、メウスさんの血は、赤ではなく金色なんですか?」
「それはね。ぼくは神なんだ。この世界のことならなんでも知ってる」
「神?」
「うん。あ、このことはお姉さんたちには内緒にしてね」
そう言って、メウスは部屋へ戻っていった。
私とミリアだけになった空間。よく下を見てみると、海のようになっていたメウスの血が消えている。
「メウスの血って……万能なんだ……」
「どういうことですか?」
「少し前、自分の小指を切断して明かりにしたんですよ」
「そう、なんですね……」
あの時も正直びっくりした。メウスがいきなりナイフを取り出したから。
だけど、彼の手はすぐに元通りになっている。
「そろそろ、寝ましょうか」
私はミリアを立ち上がらせて、部屋へ戻るよう促した。
「自分は今度四十になるんですが……。ミカエラさんは何歳?」
「私は今度の一月で十二ですね」
「十二なのに、本当に大人びてますね……」
「そうですか?」
「はい」
ミリアはそう言って、廊下を歩き始める。
「ミリアさん!」
私はそんな彼女を呼び止めた。
「明日は、今日初めて会った時と同じようにしてください。あのなんか……キャピキャピしている感じ、好きなので……」
「ッ!?」
急なお願いだっただろうか。ミリアは立ち止まり、こちらを向いた。
「それじゃあ。明日たっくさん遊ぼうねー!」
「はい!」
こうして、本当に今日が終わりベッドに潜った途端、強い眠気が押し寄せてきて気づいたら朝。
新しい一日が始まる。それが、一番の楽しみになっていく。そんな日々が本格的に始まった。
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