第78話 魔眼依存症
ブライアント公爵家、応接間にて。
お母様の二人のお姉さんを前に、私は極度の緊張を感じていた。
次女のセシル・ブライアント。ミリアは四女らしい。
「今三女の方は?」
エレンがセシルに質問をする。
「メリン・ブライアントなら、今領内回りをしています。夜には帰ってきますよ」
「メリンさんっていうんだ」
メウスが反応した。彼なら知っていると思ったけど、そうでもないらしい。
「ところで、エルヴィンさん」
ミリアがふと何か思いついたように聞いてくる。お父様は『ん?』と言って彼女の方を向いた。
「なぜこんなに子供が?」
「ああ、メウスさんとエレンさんは、うちに居候しているんだ。娘のミカエラを偉く気に入っているようでな」
「そうなんだ。言われてみれば、三人の波長がたしかに合ってる気がする」
ミリアの瞳は髪と同じピンク色。宝石のように輝いている。
「ミリア。ちょっと目を見せてもらっていいかな?」
メウスがゆっくり立ち上がり、ミリアの前に立った。
数秒ほど見つめる。すると、メウスは『やっぱり』と言って戻ってきた。
「メウス。ミリアさんの目がどうしたの?」
「うん。彼女も宝石魔眼持ちだったよ。きっと、ぼくたちの名前を言い当てたのも、宝石魔眼のおかげかもね」
「そうなんですよー。自分、宝石魔眼持ちなんです。どこまでも見透かせますよー」
ミリアは嬉しそうに身体を上下させる。ここは私も言った方がいいのだろうか。
「実は私も……」
「いや、ミカエラ。言わない方がいい。ちょっと耳貸して」
私が自分も宝石魔眼持ちであることを話そうとした時、メウスに止められた。
「何?」
「いや、ここじゃない方がいいかもしれないね。ちょっと席を外すよ。ミカエラついてきて」
「う、うん……」
私はメウスと一緒に応接間から出る。廊下を少し行った曲がり角で立ち止まった。
「メウス。なんで言ってはいけないの?」
「それはね。ミリアの魔眼は先天性じゃない。後天性の魔眼だった」
「え?」
魔眼にも先天性と後天性がある。それは今まで生活した中で初めての知識だった。
「あれは、他の人から奪った魔眼だ。もしかしたら、魔眼商人から違法に埋め込まれたものだと思う」
「魔眼商人……。つまり、私が言えばミリアさんから私の眼を奪われる……」
「可能性はゼロではないね。むしろ、君の瞳は聖女の眼。希少性が非常に……」
「うふふ。全部筒抜けなんだけどー?」
私とメウスの会話中に乱入者。角を覗くと、そこにはミリアがいた。
メウスが私を庇う。ここはいくらお母様の実家とはいえ、他人の家だ。
戦闘になったらどうなるかもわからない。
「ミカエラさんの眼。聖女の眼なのねー。それはフランによく似ていると思ったよー」
「ミリア……!」
メウスが小さく吠える。家のマップも知らない私たちは非常に不利だ。
「その眼。ぜひとも欲しいねー。どう? どう?」
こちらは勝手に行動できない。こんな時に……。
「ミカエラお姉ちゃん!」
「ティア!?」
「パリス スリリス ショット!」
突然響いた射撃音。半分隠れたミリアの身体が黄色く光る。
命中したのか、ミリアは床に倒れ痙攣をした。
こんな時に限ってティアに助けられる。それよりも、長い睡眠から起きてくれたのが嬉しかった。
「ティア。ありがとう」
「どーいたしまして。お姉ちゃんとお兄ちゃんが無事でよかったよ」
「ほんと、ティアって美味しいところを持っていくよね」
私はそう言いながらティアの頭を撫でる。
「そうだね」
メウスも肯定の言葉を言うと、未だ痙攣を続けるミリアの前に立った。
「まずは……っと。サイレス ストルス ブロル」
「メウス。何したの?」
「聴覚を封印しただけ。ここからが本番だね」
メウスは深く息をする。目じりがキリっと鋭くなった。
「上級階級第三位、メビウス・エル・デュクスより命ずる。彼のものの魔眼をあるべき場所に戻し、直近三十分間の記憶を永久に抹消。以上を神の名に則り発動す」
すると、ミリアの手が目元に触れようとゆっくり動いた。
眼の色が緑色に変わる。宝石のような輝きも完全に消えた。
「よし。これで全部終わったね」
「わた……しの……ま、がん……が……」
ミリアが回らない呂律で訴える。しかし、メウスは目を尖らせたまま。
「違法行為を取り締まる。これも、神であるぼくの仕事。あとでお仕置きしないとだね」
そう言い捨てた。メウスに助けられたのは三回目。彼が私をどう思っているのかは今でもわからない。
メウスが『先に戻ってて』と言う。私はティアと一緒に応接間へ戻る。
ドアを開けて中に入ると、少しだけざわざわしていた。
「ミカエラさん。大丈夫でしたか?」
エレンが聞いてくる。私は大きく頷いた。
「今メウスが後処理してくれてます」
「そうなんですね。よかった……」
私はソファーに座る。するとセシルが声をかけてきた。
「エルヴィンさんから話は聞きました。ミカエラさんは魔眼持ちなのですね」
「はい……。ですけど、なんでミリアさんはあのように?」
たしかに、まるで魔眼中毒者のような状態だった。何もかもを魔眼に頼っている。そんな気がする。
「ミカエラさんは。フランが聖女だったこと聞きましたか?」
「はい。少し前に教えてもらいました」
「ミリアは、フランに憧れてたの。だから、魔眼商人の存在を知って、味をしめてしまったってわけ」
「そうなんですね……」
私の右側から紅茶の入ったコップがテーブルに置かれる。
横を見ると、執事らしき男性がにっこりと笑った。
「ありがとうございます」
紅茶を一口飲む。少し苦味のある、温かいストレートティーだった。
テーブルには砂糖も置かれているけど、私としてはこれが好き。
「ミカエラさんは、大人の舌を持っているのですね」
「はい。小さい頃から苦い紅茶を飲んでいたので。対して、レイラお姉ちゃんは……」
私はレイラの方を見る。彼女には合わなかったのか、砂糖を二個ほど入れていた。
「なによ? 別にいいじゃない」
「いや、悪いとも言ってないんだけど……」
扉が開く。すると、ミリアを担いだメウスが入ってきた。
「処罰完了。これでもう彼女は変な真似をしないよ」
「ありがとうございます。メウスさん。ミリアも自分の力で能力を上げなさい」
「は、はーい……」
この後、私たちは夕食を食べた。お母様の実家に帰って早々、幸先が悪い気もするが……。
これも明日には全部さっぱりしているだろうと、寝室に移動した。
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