第76話 メウスの新車と里帰り
本日は最大三話更新します。
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
春が終わり、夏が始まった。エレンは桜の月四月に十二歳となり、私も少しだけ身長が伸びた。
しかし、目の前の彼はもう見上げないと顔が見えないくらい、背が高くなっていた。
「エレン。成長期にしては、身長伸びすぎじゃない?」
そんなある日のこと、私の自室に三人で集まり話をしている時のこと。
「は、はい……。そのせいでちょっと足が痛くて……」
私の身長は百五十センチほど。エレンと初めて会った時はお互い同じくらいの背丈だったのに……。
今では百七十センチほどまで成長していて、最終的に二メートル超えるのではという勢い。
そんな彼を、メウスがジト目で見詰めている。私も本当は比べたくないのに、比べざるを得ない。
「ぼくよりも身長高いなんてずるいよ」
メウスが羨ましがる。たしかに、彼とエレンを比べればその差ははっきりわかった。
きっとメウスは、本を書くのに夢中で寝ることをしなかったのかもしれない。
睡眠は成長に必須な要素。元々よく食べて運動するエレンと比較するものじゃない。
今日は月光の月一日。日本でいうところの八月。
直近のイベントと言えば、メウスの誕生日だろうか。今度彼は、八十九歳を迎える――らしい。
彼は、六十二年前に勇者養成学校を卒業した。卒業時の年齢では十歳。
「だけど、なんでメウスはエレンと同じ十歳で卒業して、今八十九なの?」
「それはね。日本とこの世界の自転速度が違うからなんだ」
「自転速度?」
メウスは石板を取り出す。そこからとある情報を表示させた。
「この世界と日本だけど。自転速度は日本の方が断然早い」
「はい」
「つまりは、陽が沈む速度も日本の方が早いんだ。ってことはだよ?」
メウスが私の目を見つめる。
「メウスが日本にいた時間だけ、メウスは年を取る……」
「そゆことー」
となると、彼はここで生活している時間に加えて十四年の間、日本で生活していたことになる。
「だから、メウスさんも日本の知識があるんですね……」
「まあねー」
「今度僕も行っていいですか?」
エレンが期待をぶつける。しかし、その返答は本人が喜ぶようなものじゃなかった。
「ごめんだけど、日本に行けるのは神の特権なんだ。連れていくことはできないね」
「そんなぁー」
「まあまあ。今日はこれからお出かけなんだし。メウスもエレンも程々にね」
私はベッドでまだ寝ているティアを見た。昨夜は珍しく銃の姿にはなっていない。
朝まで少女の姿をしていて、肌がほんのり温かかった。
「まさか、フランの親族から通達があるとはね」
「はい。フランさんのお姉さんも、きっと美魔女なんだろうなぁー」
「ちょっと、エレン。変な妄想しないでよね!」
「ご、ごめんなさい。ミカエラさん……」
今も寝ているティアを持ち上げ、出発の準備を開始する。
移動はメウスが協力してくれるらしい。どうも、極秘に開発していた全自動で動く駆動式車両が完成したそうで……。
「今日は試験利用を兼ねての遠出だから、ぼくの魔力が持つかわからないけど……」
「その……クルマ? っていうのは、どういうものなんですか?」
「そうだね……。燃料を燃やしてエンジンっていう心臓部を動かし、移動する乗り物かな?」
「合ってます。私が前いた世界では、車移動が普通だったので。ここではもう歩き慣れましたけど……」
「それを、メウスが再現したってことですよね?」
「うん。ここまで辿りつくのに時間がかかったけどね。多分燃費悪いかもだけど……」
メウスは自信なさげな反応をする。異世界で馬を使わない車両を動かすのは、異例らしい。
そもそも、この世界には原油というものがない。原油がなければ、灯油も軽油も作れない。
だから、暖を取る時は薪をくべて燃やして、それを繰り返す。
「よし、みんな準備できた?」
私は確認を取る。すると、メウスとエレンは頷いた。
「じゃあ、外に出るよ!」
「はい!」
「りょーかい!」
廊下に出て、階段を下りる。件の乗り物は裏手にある馬小屋の横に横づけされていた。
普通の馬車よりも少し大きいし、車体もがっしりしている。これを一人で組み上げたメウスがすごい。
「失礼します」
私たちは中に入る。車内はとても広く、余裕で八人は乗れそうだ。
「ぼくはあくまでも燃料役だから、前列の席に座るよ」
「わかりました」
私は、後ろの席に座る。右隣にティアを座らせ、反対側にはエレンが座った。
あとからお父様やお母様。レイラお姉ちゃんも合流し、それぞれが空いている席につく。
「じゃ、出発するよ!」
「メウス。安全運転でお願いします!」
「わかってるって。あ、ベルトしっかり締めてね」
「『わかりました!』」
カチリという音があらゆるところから響き、全員が万全な状態になる。
ここからではメウスの様子が見えない。しかし、突然金色の何かが飛び散った。
「こうして……こう。っと、燃料準備完了。発進!」
ゴゴゴと機体が揺れる。少し浮いたと思うと、真っすぐ進み始めた。
外の風景が流れていく。そして、後ろを見れば公爵邸が小さくなっていった。
「メウス。さっき金色のが……」
私は疑問に思ったことを聞いてみる。するとメウスは。
「あ、あれはぼくの血だね。でも気にしなくて大丈夫。今魔力量を最大値以上まで押し上げているだけだから」
「なるほど……ってなるほどじゃない! なんで自分の身体を傷つけるの!」
「えとね。これしかいい方法なかったから」
メウスは『えへへ』と笑う。そこは笑うところじゃないような気もするが……。
彼が完成させた車は、畑を両方に挟んだ道を走り、丘を登り。そして、領地の境界線へ着く。
所要時間は約二時間から三時間ほど。そこにいる門番へ入領許可書を提示する。
入領許可書は、護衛や勇者。商人以外の人が他の領地に入る時必要な書類だ。
「それでは、順番に血判をお願いします」
家族全員で血判を押す。許可を正式にもらったところで、門が開いた。
再び車体が振動する。ここから先はブライアント領。見る世界一帯が初めての場所になる。
しばらくして、お昼の時間になった。お母様が用意してくれた弁当がお披露目される。
「今日は、ミカエラの希望でおにぎりにしてみたんだけど……」
「具材は入ってますか?」
空腹で待ちきれないらしいエレン。お母様は『エレンさんの実家から梅干しをいただいたので』と言った。
全部が梅干しなのは仕方ない。この世界には鮭とかがいないのだから。
エレン用の大きいおにぎりが二十個から三十個。普通のサイズが五十個近く。
「ではいただきまーす!」
大きいおにぎりを手に取るエレン。ありえないほど口を開いて、かぶりつく。
「おうしー! 美味しいです。フランさん!」
「ありがとう。メウスさんも一旦停めて、お昼にしませんか?」
「じゃあ、そうするよ。ちょうどぼくもお腹ぺこぺこだしね」
お母様の誘いに、メウスが車を停めた。おにぎりを手に取ると、勢いよく食べ始める。
「フラン。これ美味しいな……。次から朝ごはんに作ってくれないか?」
「ええ。エルヴィンのためならいくらでも作りますよ」
お父様も、気に入ってくれたらしい。ちなみに、作り方は私が教えたのだけど……。
「ミカエラ。ティアは食べないのかしら?」
「うーん。それがなかなか起きなくて……」
「そう。では、少し取っておきましょ」
「そうだね。お姉ちゃんの意見に賛成」
家族みんなでの里帰りという旅行。それが今日、始まった。
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