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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる【サブストーリー更新中】  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第74話 シャーロット公爵家の天才児

「ミカエラ令嬢。どうしてこんなことを思いつかれたんですか?」


 書斎での模擬裁判がひと段落つき、ファリアは今回主導権を握っていた少女に声をかけた。


 ミカエラは、『ただの思い付きです』と答え、それ以上を言わない。


「ただの思い付きにしては、やはり出来過ぎているわよ。私が貴方の年齢だとしたら、きっと思いついてさえいないわ」


「そ、そう……ですよね……。まずはオレンジジュースの件ですけど。まずオレンジジュースは酸性です」


「ええ。そうね」


「浸した時絵が浮かびあがりましたよね。あれは、特定のインクと化学反応を起こして、あのように浮き上がるんです」


 ミカエラは、より詳細な種明かしをする。その説明は、原理を理解していれば誰でもわかるようなものだった。


 しかし、彼女は用意されたオレンジジュースが偽物と言っていた。


「ですが、どうして偽物のオレンジジュースでも同様なことが?」


「はい。少し前お母様に頼んで使用期限が切れたお酢を用意してもらったんです。補足しますがお酢も酸性です」


「そうね……」


 お酢は酸性。当たり前すぎることを見落としていたことに、ファリアは俯く。


 目の前にいる十一歳の彼女。本当に当たり前のことしか言っていない。


 その間も、いろいろ説明を受けた。


「そして、香りですが……。お酢だと鼻にツンとした酸っぱさが感じられると思います」


「たしかに、そこが問題ね……」


「はい。なので、もっと強い香りが必要になってきます」


「しかし、それでは匂いが混在するのでは?」


 ファリアは思い当たる調味料を探すかのように、指をくるくる回した。


 対してミカエラはそれを気にしていないかのような顔をしている。


「ここで、使用するのがメウスの魔法です。魔法で強制的に匂いを変えました」


「魔法とは何かしら?」


「あ、そこからでしたか……」


 ファリアは魔法とは無縁の生活をしていた。それだからか、魔法の概念すらわからない。


 しかし、彼女はそのすごさを経験してしまった。


 エレンとメウスがの二人が編み出した重ね掛け。それだけで、見える世界が変わってしまったことに……。


「魔法というのは、魔力を消費して生み出す不思議な力です。魔力はファリアさんにもあると思いますよ?」


「私にも……ですか?」


「はい! ただ、今私が見える範囲では、初級魔法しか使えない感じですね……」


 一層彼女の見える世界が理解できなくなっていく。ファリアには、難解すぎるようでボケっとした顔で固まっていた。


「ミカエラ令嬢は、魔力が見えるのですか?」


「はい。見えますよ」


 そこで、誰かが書斎のドアを叩く。開くとそこには、目をこすっているティアがいた。


「もぎさいばん……おわった?」


「終わったよ。おはよティア」


「おはよ。お姉ちゃん……」


 ティアはよろよろと歩いてくる。すると、そのまま銃の姿に変わってしまった。


「ちょうどよかった。ファリアさん。一度魔法を体験してみませんか?」


「魔法を……体験?」


「はい。多分エアーくらいなら使えるかと。ちょっとメウスに聞いてきますね」


 ミカエラはそう言って、メウスとエレンがいるところへ移動する。


「エアー……」


「ファリア?」


 突然の声かけに、ファリアの背筋がピンと伸びる。後ろを見れば、ニックが立っていた。


「エレンさんたちとの話は?」


「ああ、ミカエラお嬢がメウスさんに相談したいことがあるからと、中断されてしまったよ」


「そうなのね……」


 それでも、ニックは満足げな顔をしている。


「ニックさんは、何か収穫が?」


「うん。ものすごくあったよ。まず、エレンがすっごくしっかりした子だった」


 ニックは顔をにかにかさせて、話し始める。


 ファリアはこんな楽しそうに話すニックを知らない。


 だからか、新しい発見をしたかのように、聞く姿勢をとった。


「エレンは、ものすごく量食べる人みたいで、特訓も毎日やってるって。身体を動かすのも好きみたいでさ」


「あんなにも細いのに?」


 エレンの身体はとてつもなく華奢。沢山食べるとは思えないくらい細い。


「普段から、黒パンを十個以上食べるらしいよ。好きな食べ物はチーズナンらしい。朝から何枚でも入るって」


「朝からチーズナンって、普通ではありえないわよ」


 エレンの体型と食べ物のギャップに、ファリアも驚きの表情を隠せない。


 ニックの自慢話は続く。こんなにも彼を輝かせる話題が、ミカエラの友人にはある。


「次はメウス。彼が書いた本の冊数がすごくてさ」


「そういえば、私の弟もこぞって買ってくるわね」


「レゼルくんって、メウスのファンなんだっけ?」


「ええ、そうよ」


 レゼルは本を読むのが好き。ファリアはそれを知っていて放置していたが、本人を前に興奮するとは思わなかった。


 だからか、今もどこかではしゃいでいるだろうと、不安を抱いているようだ。


「レゼルが潔く帰宅準備に入ってくれればいいのだけれど……」


「そうだね……」


 ここで、メウスとの話を終えたミカエラが戻ってきた。


 初めての魔法。ファリアの顔には、緊張が見られる。


「エアーなら誰でも使えるそうです」


「そう。では、教えてもらえるかしら?」


「はい!」


 ミカエラはひょいと銃を持ち上げ、ファリアの足元へ置いた。


 そして、彼女が『エアー』と唱えると、ふわりと浮き上がる。


「エアーは風魔法の下級下位魔法です。コツはバランスと力加減。そして、正しい発音です」


「わ、わかったわ……」


「ファリア。頑張って!」


 ニックの声援を受け、ファリアは魔法を唱える。三回ほど唱えたが、成功しない。


 この結果に、ミカエラは首を傾げた。それを見かねたのか、メウスが駆け寄る。


「もしかして、上手くいかないのかなー?」


「うん……。メウス、ちょっと交代いい?」


「いいよー」


 その場からミカエラが離れ、メウスが指導を始める。


 彼から出てきたのは、白紙の魔法紙とペンだった。


 紙を空中に浮かせ、何かを書き始める。それを渡された時、ファリアは唖然とした。


「数字しか書かれていませんが、これはなんでしょう?」


「これ? エアーの術式だよ」


「術式?」


「うん。これは見るだけで魔法を覚えられる特殊な式でね。ぼくしか書けないんだ」


 そう言われ、ファリアは紙を凝視する。その後改めて魔法を唱えた。


「エアー」


 するとなんということか、何度も失敗した魔法が一発で成功した。


「これが……魔法……」


 ファリアは成功した実感が湧かないのか。しばらく硬直した。


「ファリアさん。魔法成功おめでとうございます!」


 いつの間にか走り寄ってきたミカエラが、笑顔で称える。


 エレンも『おめでとうございます』と言い。隣のニックは拍手をしていた。


「皆さん。ありがとうございます」


 こうして魔法のすばらしさを知ったファリアは、幾度も試しその価値を確かめるのだった。

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主人公の活躍がみたい方は!!!!!


ぜひ第1話からご覧ください!!!!

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― 新着の感想 ―
「ファンタジーだから」で済ませるのではなく、酸性のお酢にメウスがオレンジの香りを付けていたという、化学と魔法を組み合わせた緻密な仕掛けに驚きました! そして、何度失敗しても最後には魔法を成功させたフ…
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