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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる【サブストーリー更新中】  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第73話 不思議な答え

 重い空気の中。一人はしゃぐティアを後目に、模擬裁判の準備が始まった。


「ティア。邪魔しちゃだめだよ」


「じゃあ。一人でおるすばんしてる!」


 ティアがそういうと身体が発光した。ゴトン。大きな音を立てて姿が消える。


「あはは。銃に戻っちゃった」


「ミカエラさん。銃とはなんでしょう?」


「私の神具です。もう片付けないと!」


 ミカエラは身体の半分ほどあるのではないかという神具を軽々持ち上げ、部屋からいなくなる。


 ニックが苦笑をする中、置いてきぼりになったファリアはただ棒立ちになり考える。


 この銃と言うものは、どうして人に化けて軽率な態度をとるのか。


「それにしても。ティアちゃん可愛かったね」


「……」


「ファリア?」


「いえ、なんでもありません……」


 彼女の視線は、未だ書斎の扉を向いていた。数分してミカエラが戻ってくる。


「では、模擬裁判を始めます」


「その……ミカエラお嬢。エルヴィン公爵様は?」


「実はちょっと急用ができたみたいで……。今日は私とニックさん。ファリアさんの三人ですることになりました」


 ミカエラは公爵様が座るはずの場所に立つ。


 ファリアの予想は当たっていた。今回試されるのは、やはり自分たちの方なのだと。


 握られた拳からしずくが落ちる。気づかないうちに溜まった汗が、床をわずかに濡らした。


「では、証言者は?」


 ニックが質問をする。それにミカエラはにこやかに返した。


「まもなく来ますよ」


「『まもなく?』」


 しばらくして、部屋のドアが開く。そこには、髪が濡れたままのエレンと、汗だくのメウスが立っていた。


「ミカエラさん。おまたせしました」


「ちょっと掃除が押しちゃってね。明らかにこれは遅刻だよ」


「エレン。メウス。お疲れ」


 ここで行われる模擬裁判。まさかとはいうが、この子供三人が演技をするのだろうか。


 ファリアは想定外の積み重ねで、焦りの汗が額を伝っていた。


「この子供たちが、今回の模擬裁判を?」


「はい」


 ミカエラは肯定する。年の差からして十はあるはずなのに彼女らには緊張が見えない。


 ファリアは、彼女たちの大人びた態度に圧倒されている様子。


「では始めます」


「よろしくお願いします!」


「よーし、ぼくも頑張るぞー」


 エレンとメウスが張り切りの声をあげる。空気が変った。


 ミカエラは、机の引き出しから人数分の紙を取り出す。それをエレンが受け取り、全員に配った。


「あの。ミカエラ令嬢。これ何も書かれていませんが……」


「これはですね……。ファリアさん。ニックさん。ちょっと待っててください」


 ミカエラは四角く、そこの低い木箱を用意する。そこに、オレンジ色の何かが注がれた。


 強いオレンジの香りが、部屋中に満たされていく。


「それは一体?」


「オレンジジュースです。これから、不思議な実験をします。本番はそれからなので」


 なぜ模擬裁判にオレンジジュースが必要なのか。


 ファリアは隣のニックを見る。彼も状況が呑み込めていないようだ。


「まずは、私が見本をお見せします」


 ファリアと対面するように立つ少女は、配られた紙をオレンジジュースに浸す。


 持ち上げると、断片的な模様が浮かんだ。


「ふむふむ……。うん。わかった」


「じゃあ、次はぼくの番だね。紙を浸して……お、浮き出てきた!」


「僕は最後なので、ファリアさんと、そこのお兄さんもやってください」


 エレンの言葉に動いたのは、ニックだった。ニックは、紙を浸し持ち上げる。


 続いて、ファリアも同様なことをした。宣言通り、エレンは最後に浸す。


「制限時間はこの紙が乾くまでです。本番に移ります」


 ミカエラが、椅子に座る。同じように、エレンとメウスも座った。


「今回の議題は、私たち三人で考えました。ファリアさんとニックさんが答えられたら、二人の勝ちです」


「じゃ、ぼくから始めるよ。エアー メラリス スウィン アクト」


 メウスが暗号のような言葉を発する。


「この中にエレンが魔法を唱えます」


「え? 僕が?」


「リハーサル通りに」


「う、うん」


 なんともぎこちない空間。ファリアは一体何を見せられているのかと、深くため息をつく。


 まるで、子供のお遊戯会。彼女たちは、まだ十か十一で幼い。


 そんな中でも、模擬裁判は続いていく。


「メウス! 行きますよ!」


「りょうかい!」


「アセルト ルイアス エレストリア!」


 魔法が放たれると、書斎全体が光り輝く。


「では、ファリアさん。ニックさん。この場面。実は一つ間違いがあります」


「『間違い?』」


「はい。被害者も、加害者もいない模擬裁判です。この魔法は必ず失敗する。そして何かが起こります」


 ミカエラが出した問題は、ファリアたちにとっては難解だった。


 そもそも、ニックは初歩しか使えず。ファリアとなれば、魔法とは全くの無縁。


 少女が思いついた内容は、ぱっと見シンプルに見えて、全くの別物であった。


「ねぇファリア。手が熱くないか?」


「そういえば……。紙を持つ手が熱く感じますわね……」


「いい着眼点です」


 ニックの些細な気づきに、ミカエラが反応する。ファリアは、オレンジジュースを付けた紙を見た。


 紙の角が焦げ始めている。手が熱い理由に気づいた彼女は、ブンブンと振った。


 しかし、焦げ目が消えるどころか激しく燃え始める始末。


「ボクの意見いいかな?」


「はい。ニックさんどうぞ」


「もしかして、スウィン?」


 ニックは魔法の種類に目をつけたようだ。しかし、ミカエラは首を横に振る。


 不正解ということに肩を落とす彼は、ものすごく情けない表情をしていた。


 解答権が残されたファリアも、必死に答えを探す。


 しかし、思い当たることがなにもないようで、虚無の空間に取り残されているようだった。


「時間切れです。では、答えを発表します」


 ミカエラは、右手の人差し指を針で刺した。垂れる赤い血。それをオレンジジュースに入れる。


 すると、オレンジジュースへ歪んだ何かが吸い込まれていった。


「実は、このオレンジジュース。偽物です」


「『偽物?』」


 気づきもしない種明かしに、ファリアとニックが口を半開きにした。


「では、なぜオレンジの香りが?」


「メウスに特殊な調合をお願いしたんです。できるだけオレンジジュースに近くなるように、香りまで本物そっくりに作ってもらいました」


「かなり時間かかったけどねー」


「そして、メウスとエレン。二人にしてもらった魔法は、このジュースから注意を逸らすための、ただの道具にすぎません」


 そこまで考えているとは知らず、ファリアは自分の負けを認めるしかない状況へと追いやられていく。


 このミカエラという少女の未来がどうなるのか。ファリアはそれが一番の謎なのではと、一人思考を巡らせた。

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― 新着の感想 ―
模擬裁判、やべー面白かったです! 魔法そのものに注目させておいて、実はオレンジジュースが偽物だったという仕掛けに、すっかり騙されました。 派手な魔法を注意を逸らすための道具として使うミカエラさんの…
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