第69話 取説のない新しい銃
ぼくは石板での追跡機能を使用し、アダム先輩を探す。
石板を持っている神は、全ての現在地情報が記録される仕組み。
日本に行った時も似たような機能があった。そうGPS機能だ。
この世界にはスマホはない。というよりも、日本でミカエラの前世の兄・大輝に会った時、ものすごくびっくりしてしまった。
数値では解析できない機能が多く搭載され、より魔法開発の意欲向上に役立っている。
「この世界にも、衛星があればいいのにな」
もちろんぼくも、日本でスマホを買った。だけど、この世界に持ってきた時点で使用不可。
結果、支払いはしているけど大輝に預かってもらっている。
日本にはあまり行かない。なので、そろそろ故障しているかもしれなかった。
「あ、見つけた!」
ぼくは、商店街の裏路地でアダム先輩を見つけた。どうやら、人の数に押し負けてしまったらしい。
「貴公は……よくこの人々の大波に耐えられるな……。我には無理だ……」
「じゃあ、イヤホンする?」
「いやほん?」
日本のことを考えていたせいで、間違えてこの世界で通用しないものを言ってしまった。
「その……耳栓」
「いやほんといい。みみせんといい。貴公は何を言っているのだ?」
耳栓でも通用しないのかと、ぼくは説明に悩んだ。だけど、言葉よりも道具でやった方が早い。
「サイレス ストルス」
音消しの魔法二重詠唱。これで耳栓と同じ役割を果たす。
「ちょっと確認。アダム先輩。ぼくの声聞こえる?」
「うむ。聞こえる。しかし、周囲が静かだ。余計な話が入ってこない」
「これが、耳栓ってやつだよ」
「みみせんとは、こんなにも便利なのだな。勉強になった」
ぼくはアダム先輩を連れて、セリンの店舗へ移動する。
リザークには合図を送った。獣人ではないのに鼻が利く。ぼくは持ち歩いている金木犀の香水を身体に吹きかけた。
周囲の人々が香りに釣られてくる。ほんのちょっとすると、リザークと合流した。
「リザークお疲れー」
「ったく。見つかってよかったぜ……。アホ神様も迷子になるんだな」
「アホ神様とはなんだ! 我は上級階級第一位のアダム・エル・フォーレンだぞ!」
「そもそも、順位関係なくね? 魔法行使では完全にメウス以下だしよ」
また始まった。リザークは煽るのも上手い。これに乗っかれば、一方的に攻撃を受けてしまう。
ぼくは改めて、口封じの魔法を唱えるか悩んだ。だけど、本音はこれ以上魔力を消費したくない。
とここで、ぼくのポケットが光る。中からセリンの魔法紙を取り出した。
――メウス。営業がひと段落ついた。王都内の工房へ来てくれ。
「セリンに呼ばれた、ついてきて」
ぼくは二人を連れて、工房に向かう。その間はみんな無言だった。
外に出ている人が多い場合。三角形の陣形をとって歩けば自然と二方向へ波が割れていく。
何も事件が起こることなくスムーズに工房に着くと、扉をノックした。
「入ってくれ」
「お邪魔しまーす!」
工房に入ると、テーブルには銃の部品が並べられていた。
もちろん魔導銃なので、弾薬を入れる弾倉はない。
そして、引き金の部品もない。
「これは、どんな銃の部品?」
「それがな……。取説が入ってなかったんだ」
セリンが顔を暗くさせる。
「それは大変だ。メウス。オマエならできるんじゃねぇか?」
謎の期待をぼくへ寄せるリザーク。たしかにぼくならできなくない。
もちろん性能にはあまり自信がないが……。
アダム先輩はと言うと、工房内をうろうろしていた。
ここにはぼくの本が置かれていない。だから、あまり面白くないはずなのに……。
「セリン殿。ここは何をする場所なのだ?」
「あ゙? おっさんに言われる筋合いはねぇよ」
「お、おっさん……だと……」
完全に心が折れたらしいアダムは、トボトボと部屋の隅へ移動し座り込んだ。
こんなにもメンタルが弱いとは、なにが第一位の神なのかわからなくなる。
むしろ、ぼくが昇格したいくらいだ。ぼくの上立つ者はいないと言っていい。
「じゃ、作るよー。エアー。シャフル。アクト!」
ぼくが魔法の重ね掛けをする。部品が空を飛んでいく。
計算で導き出した結果を使い、組み立てをしていく。
すると、多弾発射式の銃が完成した。こんな銃は見たことがない。
「セリン。これ何?」
「これは……ガトリングガンだな」
「ガトリングガン?」
「ああ、複数の弾丸を連射できる銃だ」
見ただけで楽しくなる。ぼくは外に出ると空中移動をした。早速試し撃ちだ。
「メルスト! レイネス! バーン!」
魔法を唱えると、銃口部分が高速回転する。一気に発射された弾丸は遥か遠くまで飛んで行った。
「これはすごい……。セリンこれ、ミカエラにプレゼントしたい!」
「お、じゃあメンテナンスしないとだな。数分待ちな!」
ぼくはセリンにガトリングガンを預ける。工房の奥から道具を持ってくるセリン。
点検は彼の専門分野で、いつも見てもらっている。
「よし、できたぞ!」
「ありがとー。じゃ、アダム先輩。リザーク。ミカエラたちのところへ戻るよ!」
「なぜ我が付いていかねばならぬのだ?」
「へへ。レイラさんが肉じゃがを作ってくれるんだ。しかも、魔法じゃなくて、実際に調理したやつね」
なんなら、セリンにも来てほしい。だって、彼もぼくの肉じゃがを食べてくれたから。
だけど、彼は午後の仕事がある。だから、アダム先輩を誘ってみた。
「別にいいんじゃね? オレ様は歓迎するぜ!」
「そ、そうか……。なら我も同行しよう」
ぼくはセリンに『またね』と言い、工房を出た。そうだ、ライゼルクのことを伝え忘れていた。
けど、まあいいか。工房はどんどん小さくなっていく。
王都の街も小さくなっていく。このままシャーロット公爵家に直行。
寄り道はしない。なので、だいたい数十分で到着した。
「ただいまー! アダム先輩も肉じゃが食べるってー!」
後ろに大柄な男二人を連れて、中に入る。家全体に甘い香りが漂っていた。
たしかにこの香りはぼくが作る肉じゃがに近い。これは、大発見かもしれない。
「おかえりー。あ、アダムさんお久しぶりです!」
真っ先に出てきたのは亜麻色髪の少年エレンだった。
「エレンか……。まずは卒業おめでとう」
「ありがとうございます!」
けれども、ミカエラの姿がない。ぼくは彼女の部屋へ移動した。
そこでは、一人ヘカートを磨く彼女。手入れを欠かさない姿に物思いの感性が強く表れていた。
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