第68話 魔法の概念
王都へ向かう途中。相変わらず寝そべって飛ぶリザークと、それを気に食わないアダム先輩が言い合いをしていた。
リザークにとっては空中世界が住処と言っていい。だけど、神の目線から見ればものすごく滑稽だ。
だから、本屋に向かう際もぼくが注意したのに、彼も忘れっぽいのかもしれない。
まあ、今ぼくが口封じの魔法をかけて、無言空間を作っているが……。
「静かっていいねぇー」
ぼくは、一人でいる方が好きだ。もちろん、ミカエラとエレン。ティアの三人は例外として。
だから、独り言にも慣れている。何よりも自分の声が大好きというのもあるかもしれない。
「ちょっと、ぼくも本読もうかな? アダム先輩、何でもいいからぼくの本出して」
口を封じられているから、会話は不可能。身振り手振りで反応する彼に、ぼくは笑いを耐えた。
アダム先輩が出したのは、ぼくが初めて出した魔法書だった。赤い表紙は火属性魔法だ。
「ありがとう」
ぼくはペラペラとページをめくる。普段は白紙ページで全部読みこんでいるけど、時にはこうするのもいい。
この世界には、魔法というものはあったが概念的なものはなかった。
ただ、世界に〝ある〟というだけで、常識として認められてなかった時代。
魔法は王族しか使えない。もしくは、神しかなしえないものと考えられていた。
「それを、ぼくが理を書き換えて、普及させたんだっけ……」
ぼくはさらにページをめくる。書かれている文字はこの世界の言語。
新しい言葉も次々と生み出していた時。ぼくは、世界の構造にまで到達した。
この世界の文字は、いわば暗号だ。暗号を暗号として成立させないことで、魔法ではなくなる。
「〝ならば、暗号を暗号として成立させ、新たな暗号を生み出した場合どのような現象が起きるのか〟」
それは、ぼくの名言として広く伝わっているであろう文言だった。
暗号は成立させることで術式となる。しかし、それを阻むことこそ世界の根源的な存在。
それを如何に回避して、書き換えるのか。魔法が生み出されたのは、ぼくがまだ九歳の時だった。
勇者養成学校二年。ぼくはリザークと同じ研究チームに入った。
「この時に書いた本が、これだったんだっけ」
ぼくは昔から本が大好きで、一人遊びが好きだった。
言葉遊びも大好きだったけど、両親が話を聞いてくれない。
酪農の家系もあり、両親は生計を立てるために働いている毎日。
ぼくは、そんな家族があまり好きではなかった。今でも帰りたくないと思ってしまう。
「ブライアント領……。ぼくの家きっと埃だらけなんだろうなぁ」
そういえば、ミカエラのお母さんもブライアント出身。最悪なことしか考えられない。
嫌なことは端に追いやっておこう。ぼくは次のページを開く。
いよいよ、魔法に関する情報だ。まず出てきたのは『メラリス』というもの。
「メラリス!」
魔法を唱えた瞬間。リザークのマントが燃える。これは燃焼の中級魔法。
この魔法書には、先に中級。上級。最後に下級魔法が記載されている。
これも、普及速度をコントロールするための仕掛け。
「リザークごめん……」
ぼくはまず、マントを燃やしてしまったことを謝った。リザークは右手の人差し指と親指で丸を作る。
そこまで気にしていないようで、よかった。
「メラスト!」
次に唱えたのも、火属性魔法の中級。これは、メラリスの効果を横方向に広げたもの。
これだけでも、草刈は簡単。牧草取りには向かないけど……。
今読んでいる魔法書には、一部他属性の魔法も掲載されている。
まず出てくるのは、風魔法。ちなみに、ハイネストやトルネリスなど、上級魔法は掲載されていない。
あくまでも、触り程度。悪用防止のためのものでもあるし、当時先ほどに二つは発明されていない。
「エアー」
風魔法では初歩の魔法。この魔法は昔からあったものを数値化し、名前を付けたものだった。
昔からあったものは、全部数字に置き換えている。数値はこの世界の理を回避できる。
それもあって、ぼくは数字に固執してしまう。一種の憑りつかれた人。
「うーん。そろそろこの魔法も改変かなぁ……」
ぼくは本を閉じアダム先輩に返す。地上には王都の街が広がっていた。
商店街の近くにある公園。ここを着陸地点にしよう。
高度を下げていく。螺旋を描くように降りる。幸い子供の姿はなかった。
「よし、着陸完了。魔法解くねー」
ぼくは、アダム先輩とリザークに欠けられた魔法を解除する。
二人とも反省したらしい。リザークは別として、ぼくの上司であるアダム先輩でもぼくの魔法には敵わない。
なぜなら、ぼくが魔法を作ったのだから。魔法の知識力の時点で差が開きすぎている。
「じゃ、ここから歩いてセリンの工房に行くよー!」
「承知した」
「りょ!」
ぼくはリザークの浮遊魔法を封印する。彼の運動不足を改善するために。
強制的に歩かないといけない状況でも、適応してくるのがリザークのいいところ。
「それにしても、ここはいつも賑やかでキラキラしてるよなぁ」
リザークがそんなことを言う。たしかに、今日は子供の数が少ないとはいえ、人が多く出てきた。
しばらく歩くと、セリンの店舗が見えてくる。
「ヤホーセリン!」
「お前なぁ……。他に挨拶ないのかよ……」
セリンが呆れまじりに吐き出す。ぼくはぼくで、早く銃の材料が見たい。
「ひとまず、今は営業中だ。時間書いてあっただろ?」
「え? そうだったっけ?」
ぼくは魔法紙を取り出す。しかし、もう文字は消えていた。
これからやることなんて何もない。リザークは黙り込んでいる。アダム先輩と言えば……。
「アダム先輩がいない!?」
どうやら、はぐれてしまったらしい。ぼくはリザークに『探すよ!』と伝え、二手に分かれて捜索することにした。
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