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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる【サブストーリー更新中】  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第67話 アダムの千冊とお酒の値段

 血判を押し続け数分。ようやく列を成していた人々がいなくなった。


 あとはアダム先輩が戻ってくるのを待つだけ。ちょっと驚かせたい気持ちがある。


 意識せずに飛行を開始。本屋の天井高く上へ上へと向かう。


 三階建ての天井近くから見下ろすと、多くの本棚で埋め尽くされていた。


 このシャーロット領の本屋はどこの本屋よりも大きい。


 さすがに、王都よりは劣るが……。


「メウス。何する気なんだ?」


 リザークが質問してくる。だけど、ぼくは答えるのをやめた。


 彼は秘密を守るのが苦手。すぐに言いたいことを言ってしまう。


 だから、ぼくは無言で準備を進めた。魔法で天井に膜を張る。


「よし、ここをこうして……これで!」


 準備が整ったぼくは、下降していく。魔法を解除すれば、面白いことが起こる。


 それから、二分後。アダム先輩がやってきた。彼の腕には、大きな瓶が抱えられている。


 そう。ぼくが要求した五百パーセントの焼酎は、超特大瓶だった。


「お、重い……」


 アダム先輩はゼェゼェと息を切らしている。神でも持てない瓶も、あるということ。


「お疲れー。ありがとねー」


「し、しかし。この大きな瓶をどうしろと……」


 瓶を受け取ると、ぼくは一度外へ出た。この超高濃度の焼酎は、部屋の中では開栓禁止。


 もしも開栓してしまうと、周囲の空気と反応して、火事を起こしてしまう。


 そうなると、本屋も全焼してしまう危険も考えられるということ。


 本屋から数キロ離れる。そこで瓶を開けて、喉に流し込む。


 ぼくは味なんて気にしない。焼酎であったとしても、温めることもない。


 ただ、飲めさえすればいいんだ。喉を焼きながら全身にアルコールが回り始める。


「ちょ。メウスそれやりすぎじゃねぇか!?」


 リザークが仰天の表情でガン見してくる。そんなものは気にしない。


 しばらく飲むと、頭を強打したような痛みが走った。


「よし。一旦ここまででいいかな?」


「だ、大丈夫……なのか?」


「問題ないよ」


 リザークに心配されながらも、焦点が合わない視界を調整する。


 なんの予定もなく飲んだから、身体が追い付いていない。


 すぐにでも寝たいくらいだ。まあ、そう簡単には倒れないけど……。


「じゃ、回復もしたところだし……。アダム先輩。もう一度本出して」


「承知した!」


 ドサドサと出てくるぼくが書いた本。全部で千冊。ここまで集められる人は、そうそういない。


 どれも、そこそこ読まれていて心から嬉しくなった。アダム先輩がぼくの本を持っているなんて想像もできなかったから。


「リザークも手伝って!」


「何すればいいんだ?」


「ぼくを囲うように積み上げてほしいんだ。リザークならこういう系の魔法得意でしょ?」


「りょ!」


 リザークが返事した直後、本が全て空を舞った。そして、ぼくの周囲に並べられる。


 これで血判を押す用意が終わった。ぼくは針ではなくナイフを取り出す。


 そして、右腕の関節を深く切り裂く。エレンのために行った切り口よりも、深く大きく。


「ちょっと、やりすぎたかな?」


「そのうちもげるんじゃないか?」


「リザークったら、状況考えてよね!」


「すまない……」


 ぼくの金色に輝く血を地面に撒く。そして魔法をかけると、全てがぼくの指紋に変化した。


エアウィル(飛べ)!」


 中級の風魔法で全ての本の表紙をめくる。魔法を維持。からの血判を付与。


 一連の作業はものすごく緊張する。その緊張をほぐすためにも、お酒の力が必要だ。


「まるで、幻想的ではないか……。貴公の魔法はすごい」


「これでも、魔力量を最大限、いやそれ以上抑えてるけどね……」


「それでもだ。我には到底真似できん」


 千冊の本に血判を押すのは今回が初めて。消費する血液量も尋常ではない。


 だけどぼくは決めたらしっかりと完走する。そういう人だと思う。


「魔法範囲拡大。石板起動」


 ――魔法使用量上限を拡張します。メウス様、過度の疲労にお気をつけください。


「わかってるって……。トルネリス(舞い踊れ)!」


 今度は上級下位魔法。嵐のように舞う本の群れを回転させ、押し忘れがないか確認する。


 全てが終わった時、無性に飲み物が飲みたくなった。


 かなり喉が渇いているらしい。アダム先輩に本を返すと、先ほど開けた焼酎に手をかけた。


「もしや、メウス。また飲む気か?」


 リザークが問いかけてくる。


「うん」


「貴公は死にたいのか?」


 アダム先輩も疑問をぶつけてきた。


「死なないよ? それに、元々この焼酎はぼくのぼっち誕生日パーティーで飲む予定だったし」


「ちなみにおいくらで……?」


 先輩は値段を聞いてくる。きっと彼は、新しい焼酎を用意しているのかもしれない。


 ぼくでも一年に一回以下しか買えない超絶高級品。天界でも、そう簡単に手に入らないこれは……。


「金貨五百万枚」


「五百枚か?」


「万枚」


 そう、非常に高額な商品だ。ぼくでも、年間金貨を一千万枚。そして、その半分がこの焼酎に使われている。


 だから、最後まで大事に飲み切る。ぼくの絶対的なルールだった。


 この解答にアダム先輩の顔は真っ青を通り越して、真っ白にしていた。


「ご、ごひゃく……まんまい……」


「うん。ぼくのお気に入り。これがないと、参考書を執筆できないしね」


「そ、そんな高価なものを、貴公は飲んでいるのか……」


 開栓したままの巨大焼酎。それを再び口につけ、喉に通していく。


 表面一帯を焼野原に変えていくのは、とても気持ちがいい。


 飲めば飲むほど飲み飽きない。それが、この焼酎の特徴だ。


「あれ。もうなくなっちゃった」


「もしや、まだ飲む気なのか?」


 アダム先輩が問いかける。ぼくは首を横に振った。


 すると、ぼくのポケットが青く光る。中から出てきたのは、折りたたまれた三枚の魔法紙。


 一枚はミカエラと交換したもの。二枚目はミカエラの父、エルヴィンと交換したもの。


「光ったのはこれじゃないってことは……。セリンからだ」


 最後の一枚には、文章が浮き出ている。そこには、新しい銃の素材が届いた知らせだった。


 一人で行こうと思ったが、どうやら難しそうなので……。


「二人とも。王都に向かうよ!」


「なぜだ?」


 案の定、アダム先輩が頭にハテナを浮べる。


「ぼくの友人からの呼び出し。『工房じゃなくて、店舗の方に来てくれ』って」


「オレ様はどこまでも付いていくぜ!」


「仕方ない。我も同行しよう」


「ありがとう」


 ぼくはカラになった瓶の後処理をする。瓶の素材を加工して、水筒を約五十個分。


 それを、一個銀貨二十枚で本屋に置かせてもらった。と同時に、魔法が解除される。


「アダムせんぱーい! これ見てー!」


「むむ?」


 パーンという破裂音。それと同時に大量の紙吹雪が舞う。


 シュルシュルと下がっていく垂れ幕。そこには、即席に作った『メウス千冊到達セール』の文字。


 音につられて、事務室に籠っていた管理人が出てくる。


「まあぁ。メウス先生。すごいですね」


「あ、管理人さん。素早く作ったからちょっと物足りないけどね」


「本日は誠にありがとうございました」


 管理人は深々をお辞儀をする。ここまで改めなくてもいいのに……。


「またのご来店。お待ちしております」


 これで、本屋でやるべきことは終わった。今から王都に向かう。


 空を飛び、瞬く間に離れていく建物。次は新作を納品する時。


 しかし、一体あのレゼルという青年は何だったんだろう。それだけが、頭のどこかにつっかかっていた。

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― 新着の感想 ―
メウスの「作家」としての一面がたっぷり描かれた回でした! サインではなく血判というのもメウスらしくて面白かったですし、ファンとの交流を大切にしている姿も印象的でした。 サブストーリーではメウスの本性…
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