第63話 神と魔王の危険な遊び
一人ぼっちだったぼくは今、静かな洞窟の中でリザークと二人ぼっち。
小さいころはこうして、二人きりで話し合っていた。
だけど、ぼくが神の存在になってから。リザークが魔王の座についてから、こうして二人だけの時間が少なくなった。
「メウス。少し大きくなったか?」
些細なことなのに、そんなことを質問してくるリザーク。
「二十歳過ぎてから身長は変わってないよ」
「まあ、そうだよな……」
ぼくはまだ魔法を発動させるための準備中。録画前提の準備をしていたので、予定が狂ってしまった。
そこをしっかり埋めてくれるのも、リザークの優しさ。今も変わっていない。
「そうだ。メウス」
「なに?」
「オレ様からの差し入れ。欲しくないか?」
「差し入れ?」
リザークはぼくが魔法で作った小さく黒いバッグ。その中から大きな瓶が二本出てきた。一本は赤い瓶でもう一本は白い瓶。
このバッグは、小さいながらなんでも入る拡張型。つまり、容量関係なく収納できる便利アイテムだ。
「赤ワインと白ワイン?」
「おうよ。久しぶりにあれやらないか? 度胸試しってことでさ!」
「それは、ぼくの魔法を見せてからね……。先にやると魔法の精度が落ちるから」
なんとか準備を終わらせて、魔法の術式チェックをする。この数値が正しく動くことで魔法は発動。
それをぼくは何度も成功させてきた。つまり、最初の目撃者であるリザークからの期待は大きい。
「よし。リザーク。暗くするよ!」
「よっしゃー。きました。メウスのマジックショー!」
洞窟に静寂。聞こえるのは、ぼくとリザークの息遣いだけ。
魔法紙を持つ。命名することでこの紙は消えて初めて本物になる。
「ライゼルク!」
魔法を唱えた瞬間、ぼくの手のひらから黄色い球体が生まれる。
そして、視界が真っ白になるほどの発光をした。これは、ちょっと数値を間違えたかもしれない。
だけど、リザークは目を光らせて凝視している。興味津々にもほどがある。
「メウスこれ成功か?」
「一応……成功……かな?」
「んな、自信なさげに言うなよ」
期待よりも大きすぎる結果が出て、ぼくはちょっと後悔した。
下位互換のライティスが地味なら、上位互換のライゼルクもショボい。
そんなことは、ぼくでもわかり切っていたことだ。
「それ、オレ様にも使えるか?」
「うん使えるよ」
「よし。手本を見せてやる!」
「って言って失敗するんでしょ?」
リザークが右手のひらを上にして、詠唱の準備をする。直後、周囲に光の球体が出現した。
「無詠唱?」
「おん。なんかできた」
「なんかできたじゃない! ぼくの上行ってどうするの!」
「ははは! 最高だぜ!」
光が放つ魔力量はちょうどいい。そして、たしかに流れているものはライゼルクだった。
「よし。魔法はオレ様が分離化で継続してやる。んじゃ、約束通りやろうぜ!」
「血染めワインの度胸試しね! 了解!」
「おう!」
ぼくは魔法でワイングラスを用意する。血染めワイン。それは、相いれない魔族と神族の血を入れ、交換して飲むこと。
拒絶反応が出るまでやるサドンデス形式。直近では、リザークが勝利した。
今日はリベンジをする日。リザークの血が入ったワインをぼくが飲む。
「じゃあ、ぼくはいつも通り白ワインもらうね」
「オレ様が赤ワインか。変わんねぇな。マジで」
「まあねー。これでもお酒好きだしー?」
これまで飲んだお酒の味は全て覚えている。だからこそ、普段は味わえない血染めワインが格別だと思っている。
お互いナイフを取り出す。ぼくのグラスに白ワイン。リザークのグラスに赤ワイン。
もちろんこのワインは血染め専用のもの。購入場所は南西の魔王城にある城下町のみ。
ことあるごとに、リザークが買ってくるものだから困ってしまう。
「じゃ、お互い血をどれだけ入れるかを決めるか!」
「ぼくは前回より十多く四十で!」
そういうと、リザークが自分の指を切って白ワインに混ぜる。
透明だったワインは黒く濁っていった。
「んじゃ、オレ様も四十で行くか」
「了解。入れるね」
今度はぼくの番。指に切れ込みを作り血を垂らす。黄金の血は、赤ワインの色を消した。
「いつも綺麗だよな。メウスの血は……お金になるんじゃないか?」
「この血が?」
ぼくが製本中に初めて気づいた金色の血。それはどんどん綺麗に光沢を増していく。
こうして、お互い準備が整った。『せーの』の合図で飲み干すのが決まりだ。
「リザーク。準備はいい?」
「もちろんだ! いつでも合図してこい!」
緊張感が増していく。この感覚が気持ちを高ぶらせる。
「せーの!」
ぼくの合図でワインを飲む。さすがに魔族の血を入れ過ぎたか、心臓の音が耳元まで聞こえてきた。
けれどもここで負けるわけにはいかない。今現在ぼくは連戦連敗。勝ちたい時は勝ちたい。
「ぷはぁー」
先に飲み終えたのは、リザークだった。かなり神の魔力に対する耐性が付いているらしい。
「よし次! って、メウス!?」
「大……丈……夫……」
対して、ぼくは魔族に対する耐性ができていない。それは、ワインの進み具合で決まっていた。
飲み込めない。喉を通らない。全身が魔族の力を拒否していて、完全に負けを認めた形。
やはり、ぼくはステータスで魔族に勝てないのか。そう思ってしまうと、自分の弱さを全肯定するようで。
「無理するなよ」
「う、うん……」
ここで、一滴。たった一滴が喉を通った。これが、どれだけ嬉しいことか。
「なんか。行けそうな気がしてきた」
たった一回進んだだけで、面白いぐらいワインが進み始める。
リザークに遅れて飲み切ったぼくは、心の中で勝てたと確信した。
「今度から普通に飲も?」
「だな。しばらく停戦だ」
洞窟の中で響く二人の笑い声。リザークがまだ話し足りないそうなので、ぼくは付き合うことにした。
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