第61話 リザークとの思い出
番外編まだまだ続きます!
◇◇◇メウス目線◇◇◇
最近。眠れていない。
この前リザークに会ってきたからかな?
重い瞼を開ける。そこにはシャーロット公爵家の天井。
ぼくの右側では、ミカエラが寝ている。そして、その奥ではティアとエレンが寝ていた。
「勝手に家を抜け出すのは……正直言って嫌いなんだけど……ね!」
一息で身体を起こす。そしてミカエラの部屋の窓を開けて抜け出した。
落下していく勢いに任せ、滑空状態に移行する。風魔法の同時展開。地面ギリギリで全身が浮く。
寝起きだから魔力は安定していない。空腹なんて今はどうでもいい。
ミカエラの家の朝食時間にはまだ余裕があるし、散歩がてら遠いところまで行っていいだろう。
「ちょっと、出かけてくるね」
ぼくはそう言って、飛行状態に切り替える。魔法の制御特化のぼくには、これくらい簡単だ。
まずはセリンのところへ会いに行く。そのためには、ベルンライト領まで足を運ぶことになる。
ここからは、最短で十分ほどだろうか。地上に広がる畑を見下ろしながら、ぐんぐんと速度を上げていった。
「やっぱり。早朝の風は気持ちいいねー。ちょっと曇ってるけど」
見上げた先。空は多くの雲で覆われていた。ミカエラの前世の世界では、雲が九割未満なら晴れ判定になるらしい。
今回の空はたしかに大部分が雲になっている。しかし、少し先を見れば晴れ間もある。
曇りか晴れかでは微妙なところかもしれない。そもそも、この世界には気象予報士とかいう専門家は存在しない。
ミカエラがまだ九歳なる少し前。ぼくは諸事情で日本に足を運んでいた。
「日本って、本当にすごいよなぁ……。天気予報。全体の七割が当たってるから……。今度行った時資格取ろうかな?」
そうこうしているうちに、地上の世界が変わっていく。太い川が目に入り、いよいいよベルンライト領へ。
蕾を実らせた桜の木。ちょっと用事を思い出し、地上に降りる。
ぼくが手をかけたのは、しばらく前ミカエラに見せた『恋紅』の木。
苗木に変えられそうな太くしっかりした枝を切る。地形拡張魔法を使い、植樹エリアを増設。
等間隔に苗木を植えていく。これで五年後には花を咲かせているはずだ。
「よし。恋紅の植樹も終わったし。ここからは徒歩で行こうかな?」
ぼくは桜並木から出て、簡単に舗装された道を歩く。小鳥のさえずり、水の流れる音。
曇り空だったシャーロット領とは違い、ベルンライト領は快晴だった。
徒歩では約三十分かかる。ここは一度、ベルンライト公爵家にも寄ろう。
「たしか、こっちの方向だったよね」
そういえば、この道リザークとも一緒に歩いた。その時はまだ舗装される前で、感覚だけで歩いてたっけ。
――――――――――――――――――
「メウス。なんでこの道なんだ?」
これはリザークがまだ魔族になる前。勇者養成学校を卒業したばかりの頃。
ぼくは世界の尺度をはかるため、世界中を歩いていた。
この時は聖剣伝説なんて信じていない。だから、ぼくとリザークは自由気ままに行動していた。
――――――――――――――――――
「たしか、ぼくとリザークには、護衛がいなかったんだよね」
そう。ぼくとリザークには護衛をしてくれる人がいなかった。
当時は護衛なんて存在しない。勇者は一人で行動するものとされていた。
護衛の制度が出来上がったのは、ちょうどぼくが卒業して三十年後。
ミカエラの両親やシリルの世代で、その制度が生まれた。
「お。ベルンライト公爵家が見えてきた」
少し遠くに見える大きな四階建ての家。改めて見ると、さすがは王族の家だと思う。
歩くスピードを上げる。周囲で土を突いていた小鳥が一斉に飛び立つ。
玄関前で扉をノックすると、中から『はーい』という声が聞こえてくる。
ドアが開くと中からアイナが出てくる。前と変わらない大きく出たお腹と優しそうな顔。
「お久しぶりです。メウスです」
「おや、なんでまた急に?」
アイナは状況が呑み込めてないのか、ポカーンとする。
「その……。ちょっと寄りたくなっちゃって。てへ」
「そうかいそうかい」
理由になっていない理由を伝えると、中に入れてくれる。
リビングに移動すると、匂いの強い赤ワインを用意してくれた。
「アイナが飲むお酒って、ぼくでも飲めるので嬉しいよ」
「そうね……。ベルンライトの家系はお酒が強いから、百パーがデフォルトよ」
「だけど、なんでぼくが……」
「メウスさんの本に『ぼくはキリのいいお酒しか飲みません』って書いてあったから。かしら」
そういえば、昔執筆した本にそのようなことを書いていた。項目のページは覚えられるけど、内容は忘れている気がする。
ぼくは長く生きすぎた。だけど、ミカエラがぼくを必要としてくれているのなら。
「アイナ。ちなみに聞くけど」
「なんでしょう?」
「このワイン。度数いくつ?」
「そうね……。百五十くらいかしら」
なら大丈夫。ぼくは自分のワインを飲む。途端ものすごく濃厚な風味が口いっぱいに広がった。
何杯でもいける味に、おかわりをしたくなる。これくらいなら、酔うこともない。
「メウスさん。もう一杯いかが?」
「では……。やっぱりやめておくよ。これから、友人の家に向かうからね。その人酒の匂いに敏感なんだ」
「そうかい。それは仕方ないね。気を付けて行くんだよ」
「ありがとう。アイナ」
ぼくはベルンライト公爵家を出る。セリンの家からはかなり離れてしまった。
ということで、飛行状態へ切り替え上空からのアクセスをしてみる。
空中は便利だ。障害物も関係なく一直線で移動できる。だから、ぼくは空中戦が得意なんだけど。
ベルンライト公爵家からセリンの家までは、飛行と速度上昇の掛け合わせで大体五分。
「やっぱり、空から行った方が早いよね。当たり前だけど」
セリンの工房。公爵家とは違い、扉はない。つまりノックする場所もないので……。
「ヤホーセリン!」
「痛っ! ちょい。メウス。間違えて手を打っちまったじゃねーか!」
セリンが鉄鋼を叩いている時は、注意しないといけないんだった。
「ごめん! 今すぐ治療するから」
「すまないな……。あとで保障金として銀貨十枚な」
「わかってるって」
ぼくはセリンの膨れ上がった左手を治療する。こんなこともあろうかと、銀貨は百枚ほど持ってきていた。
「はい。治療完了。銀貨十枚ね」
「ありがとな。だが、次は金貨二十枚要求するから、ミスるなよ?」
「あーい……」
「わかってねぇな。こいつ」
とりあえず、今日の目的はセリンの家で執筆をすること。まずは過去に書いた作品を読み漁るところから始めることにした。
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