第60話 私の大好物
今日の朝ごはんは、私の大好きなもので溢れていた。
牛肉のステーキに新鮮野菜のサラダ。そして過去にメウスがリクエストしてくれた、カボチャの野菜シチュー。
おかわりは多めに用意してくれているらしい。さすがにステーキは一つで十分だけど。
「そういえば、ミカエラは七つになった時にはナイフとフォークを使えてたな」
「懐かしいですね……エルヴィン。私もびっくりしましたから」
お父様とお母様が昔を思い出しながら話している。あの時私は食べるのに夢中だった。
ナイフとフォークの使い方は、前世の思い出から引っ張り出しただけ。
たったそれだけで褒められるとは思わなかった。それも、もう四年前の話。私はもう、十一歳だ。
今年の秋には旅に出る。この家にいられるのはどんどん短くなっていく。
ふと、食卓の窓から外を見る。そこには昔私が燃やしてしまった木が立っていた。
「あの木、少し成長したね」
メウスがぽつりとつぶやく。
「うん。もう、焦げ目が見えなくなってる」
「だね。ミカエラの成長も、あの木がきっかけだった」
初めて今住む現実世界でメウスと会った時。私は引き金のないヘカートの使い方に悩んでいた。
魔導銃と知った時は驚いたけど、今は使い慣れた愛銃だ。
そんなティアと言えば、エレンの隣に座っている。今はフォークでステーキを刺し、豪快にかぶりついているところだった。
さすがに、ナイフの使い方が分からなかったかと、苦笑の渦を巻く。
「ねぇ、レイラお姉ちゃん」
「なによ?」
ちょうどサラダに手を付けようとしていたレイラに話しかける。そして、昨夜モヤモヤしていた質問をした。
「昨日お姉ちゃんが、シリルさんの皮膚に関して話してたけど……」
「ええ。あれは本当よ。あの人、割と切れ者ね」
「それって、先生を褒めて……」
エレンが追加の問いかけをした。
「褒めてないわよ。たしかに、あの人は切れ者ね。ただ、戦闘経験が少なく見えたわ」
たしかに、シリルとレイラが戦っている時、完全に押されていた。
だからと言って、シリルも騎士団長。本気を出していなかっただけかもしれない。
「レイラは褒め下手だよね。いつも、チクチクしてる」
「それクソ神様が言う言葉?」
「あ、相変わらずぼくのこと『クソ』呼びするんだね」
「クソはクソでしかないわよ」
この状況はあまり好ましくない。だけど、これもまた一つの日常。
メウスは深いため息をつくと、シチューをひと掬い。口に運んでまたため息をつく。
本人としては嫌なのかもしれない。だけど、そういう第一印象がついてしまったなら、変えるのも大変だ。
メウスのことだから、態度を変えるという考えはないと思う。それが彼の性格だから。
「でも、なんでレイラさんは龍神の滝にいたんですか?」
エレンが疑問を語る。言われてみれば、レイラはシャーロット領と王都しか移動できないはず。
「さあ、どういうことでしょうかね。わたしはリザークからクソ神様を殺すようお願いされていた。正確にはクソ神様側からの依頼だったわね」
「そーいえばあったねー。そこで、レイラに神殺しの剣を用意するよう言ったからね。事前情報なしでの勧めだったけどー」
「まさか、神を一回斬っただけで耐久値は半分って、後出しにもほどがあるわ」
メウスは物知りだ。私の知らないことも知っている。それだけで頼りになる存在。
この場合、メウスが神殺しの剣の真実を事前に伝えていれば、メウスは完全に死んでいた。
きっとそのための保険を入れてたのだろう。どこも『クソ』ではない。しっかりとしている……のか。
「ミカエラは、ぼくといてどう思う?」
「え、えーと……」
「あたしおかわり!」
ティアが口をぐちゃぐちゃにしながら、追加のステーキを要求する。
こんなに食べる銃は――いや考えてはダメ。普通ではないけど、これが彼女の普通なんだ。
私は急いで料理に手をつける。話してばかりで硬くなった肉。ナイフを入れても切れない。
「火入れ直そうか?」
メウスが問いかけてくる。
「でも、さらに硬くならない?」
「大丈夫。ぼくならできる」
私は自分のステーキをメウスに預けた。彼はその上に手をかざす。この姿は前にも見たことがあった。
それは、エレンの実家でのこと。砂糖を入れ忘れた肉じゃがに甘味を追加したあの時。
あの時は緑色の光が舞っていた。今回は赤い光が降り注いでいく。
「よし。これでできた」
「ほんと?」
「うん。試しに切ってみて」
「わ、わかった」
メウスからステーキの皿を返され、私はナイフで切ってみる。するっ。刃がすんなり入っていった。
「柔らかくなってる。それになんか……肉汁がすごい……」
「特別大サービス!」
「ありがとう」
柔らかくなったステーキを口に入れる。中でホロホロと溶ける肉質。そして、甘い肉汁。
こんな美味しいステーキは初めてだった。ものすごく好きな味。
「お姉ちゃん。私を成長させてくれてありがとう」
「礼なんていらないわよ。だけど、これからは自分の力で頑張るのよ」
「わかっています。でも、私にはもう迷いはない。お父様も、お母様も。こんな出来損ないの私を育ててくれて――」
一瞬お父様の口角が下がった。ように見えただけかもしれないけど、見間違いではない。
「え、えーと。育ててくれてありがとう」
「二分の一成人式。だね」
メウスがフォローにならないフォローを入れる。
「一年遅れだけどね」
「『あはは!』」
私の楽しい誕生日会はこれで終わった。本当にこの家族、この仲間には感謝しかない。今後も頑張らないと!
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次回場面変わって、メウスとリザークの過去編です。




