第58話 エレン自慢の先生
エレンが必死に話している。そんな中私とメウスは入るタイミングを失っていた。
「それで、僕の先生何したと思います?」
どうやら、エレンはお母様たちに自慢話をしているらしい。これは、完全に状況が悪い。
「実は僕の先生が激おこになってしまったんです! その時初めて先生の真の姿を見たんですよ。頭のこう……こ、こう角が生えて……。目つきも、ぎゅいーって鋭くなって……」
自慢話というよりも、エレンが怒られている時のエピソードのようだ。
メウスはポカーンと口を開いたまま固まっている。私も同様なイメージ。
「でも、先生が落ち着いた時の行動も面白いんです。どこからか角と同じように湾曲した小型の鋸が出てきて、そのまま切り落とすんですよ。痛くないのかな? って思って聞いたら、痛みは一切ないみたいで。シリル先生にとって角は、爪と同じで神経が通ってないみたいなんです!」
「面白いわね……。だけど、あくまでも混血。わたしが持っていた神殺しの剣でも皮膚の硬さは感じたけど、純血よりは柔らかい肉質だったわ」
「そりゃそうですよ。たしかに、シリル先生の母親は純血の魔王。しかも魔族始祖である人物の孫で王位継承も持っている強い存在。元々はリザークと結ばれる予定みたいだったんですけど、本人はあまり好まなかったようで、自分で夫となる人を探した結果。ひょんなことから現れた勇者と結婚したそうなんです!」
そうだ。シリルは人間と魔王の混血。ハーフデーモンだった。本人は隠しているつもりなのだろうけど、実を言うと隠しきれていない。
怒る時は軽度だと角が引っ込む。その様子を少しだけ見たことがある。それは、エレンがこの家に住むと決めた時のことだった。
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「嫌です! 僕はミカエラさんと暮らす!」
「ですけど、ミカエラさんのご家族にご迷惑を……」
「それでも、僕はミカエラさんと暮らします! 絶対、騎士学校に進学しません!」
「しかし、今のエレンの実力では魔王に到底敵いません! 騎士学校への進学を勧めます!」
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この時、シリルの頭がぴょこっと盛り上がっていた。その後メウスとお母様が止めてくれたので、これ以上厄介ごとにはならなかったが……。
今頃くしゃみでもしているのではないか。それくらい、シリルは過保護者なんだと思った。
「それで、そのシリル先生のお母さんから、シリル先生宛てに連絡が来たんですよ。どうやら、リザークさんが回復傾向にあるって内容で、僕とシリル先生はとても安心したんです。今リザークさんの様子はシリル先生のお母さんが見てくれてるみたいで」
「待って、それいつ情報?」
メウスがエレンの会話に割り込む。仕方なく部屋の外で待機していた私も仲に入った。
私たちの存在はみんなにバレてたみたいで、黙認されていたらしい。
それはそうとして、なんでメウスの方ではなく……。
「エレン。リザークとシリルさんのお母さんって仲が悪いのでは?」
私はエレンに問いかけた。するとエレンは。
「表向きでは。ですね。実際はものすごく交流回数が多いんです。一度先生のお母さんの城へ行ってみたんですが……」
「魔界は危険で、勇者学校を卒業するまで禁止……」
すかさずメウスが突っ込む。だけど、これにはしっかりした理由があるようで。
「シリル先生のお母さんの家は、魔界で唯一の安全地帯なんですよ。これも、メウスのおかげって。シリル先生が言ってました」
「まあそうだね。あそこはものすごく賑わってる。刑務所まであるからね」
「そうなんですよ! いろんな場所に住んでいる人が集まる城下町も、めちゃくちゃ広いんです!」
楽しそうに話す二人。やっぱり何かがおかしい。普段やりあっている二人なのに、息がぴったりだ。
レイラとお母様は驚いた表情をしている。対してお父様はこっくりと頭を動かしていた。
私はメウスにお父様を部屋へ運ぶよう指示する。するとメウスは一回でお父様を持ち上げ、移動を開始した。
次々と脱落者が出る中。ついに私も限界が近くなってくる。すると、お母様がコーヒーを入れてくれた。
この世界のコーヒーはかなり渋みがあって美味しくない。だけど、それが私のお気に入り。
シャーロット公爵家では、主食がパン。だからか、コーヒーを飲み始めるタイミングも早い。
「ありがとうございます」
「ふふ。飲み過ぎ注意ね」
「はい」
私はコーヒーを飲む。だけど、余計に眠気が強まった気がした。
「戻ったよー!」
「おかえり、メウス」
自分よりも身体が大きいお父様を運んだメウスが戻ってきた。けれども彼は、一滴も汗をかいていない。
やはり神様は違う。体格とか関係なく、重いものを持てる。これが、前世の兄だったらきっとギブアップしていただろう。
「だけど、エレン。リザークと、シリルのお母さんが仲良しっていうのは、初耳だよ」
「え? 知らなかったんですか? 実は、シリル先生のお母さんの伝手で先生のところに行って、そこからシリウスさんの方に。そのあと、ミカエラさんのお父さんの方へ情報が行ったそうなんですよ」
「じゃ、じゃあ。ぼくよりも先に、作戦は……」
「実行されていたみたいですね。しかし、シリル先生から聞いた話では、メウスがいなかったら成功してなかったそうです。メウスさんは何でも屋ですからね」
「な、何でも屋って……」
直後、私の視界がぼやける。バタンと音がしたかと思えば、完全に意識を失ってしまった。
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