第57話 猫銃とトランプ占い
私は複数の問題点に悩んでいた。メウスは誰かの姿になれる。だけど、それには様々な代償もあるかもしれない。
彼が天界を出禁にされた理由。それは、事件を意図的に起こしたという全容。
私を暗殺者として才能を開花させるため、メウスは全ての出来事を端から端まで捏造した。
「メウスは、なんのために……」
「あたしもわからない」
「ティアも?」
「うん」
ティアはメウスが用意した照明を眺めている。相変わらず、メウスが自分から切り取った小指は燃えていた。
永遠。永遠の命。それを終わりにしたいと思う者。どうしても、リザークと紐づいてしまう。
私に永遠の命があるとするならば、どう晩年を過ごすのか。十六で前世の日本から去り、今の生活にも慣れてしまった。
だけど、スマホとかの精密機器がないこの世界で、どう最後まで過ごすのか。
「それで、わたしはあの後シリウスに呼ばれて、王都まで行ったのよね」
「呼んだのは本人ではなくて、ぼくだけどね」
「それはどうでもいいわよ!」
「どうでもよくない! そもそも、この原理に気が付かなかったレイラさんの責任!」
「どうせ、勝手にシリウスの真似事でもしてたんでしょ? 本人のいない場所でのこのこと」
「そんなわけない。ぼくの視覚情報はしっかり本人に共有してた!」
「まあまあまあ……」
突然喧嘩を始めるメウスとレイラお姉ちゃん。私が二人を止めようとすると、異常な魔力が立ち込めて……。
「こうなったら……。パリス ダブルショット!」
「了解! はっしゃーーー!」
ティアが両手を重ね銃の形にすると、その先端から黄色い魔法弾が射出された。
勢いよく飛んだ弾は、お姉ちゃんとメウスに命中する。身体が痺れたのか少しの間二人は痙攣をしていた。
「あらあら、ミカエラとティアちゃんも仲良いのね」
「だって! あたし、ミカエラのぱーとなーだもんね!」
「そういう割には、自分勝手だけどね」
「シャー!」
ティアは猫のような威嚇の声を出す。私に怒られるのは苦手らしい。褒められて育つタイプだろうか。
そんな様子に対しても、エレンは冷静だった。まるで仏の顔のように、優しく見守っている。
「エレン」
「なんですか?」
「その……。エレンが学校から抜け出したのも……」
「あ、あれですか。あれは事実ですよ。僕自身、戦闘に不慣れで……。でも、僕も目標ができましたからね」
エレンは軽く微笑むと、自分のコップにリンゴジュースを注いだ。
そういえば、私のコップにも何も入っていなかったことに気づく。
「お母様。リンゴジュースがなくなりました」
「わかった。新しいのを開けましょう」
お母様は、台所に消えていく。少しして新しい瓶を持ってくる。
缶切りで開ける。私のコップに入れる。ふわりと広がる甘い香り。この空気にはどうしても似合わない。
「パリスディスペル」
私は麻痺魔法を解除した。ようやく頭が冷えたのか、メウスとお姉ちゃんがしゅんとする。
「それで、結局どっちが正解なの?」
「ぼくだよ。ぼくが行動しなかったら、ミカエラは成長していない。レイラにもしっかり行動してもらったから、あとで報酬を渡さないと……」
メウスは『少し離席する』と言って、食卓から出ていく。話の中心人物がいなくなったことで、部屋は静けさに包まれる。
大きなあくびをするティア。彼女もそろそろ寝る時間だ。私も本当は眠いけど。
「お母様。私はティアを寝かせてきます」
「わかった。足元気を付けて」
「大丈夫です。私には魔法がありますから」
私はティアの手を引いて、二階の自室に向かう。廊下は食卓以上に静かで、少し怖い。
「ライティス」
ライティスで明かりをつけて、階段を上る。そうしていくうちに、ティアの手を引く左手が重くなった。
魔法を使っている間は、銃の状態のティアを持つことができない。だけど、彼女が眠りにつけば、結果的に銃になってしまう。
「ライティスを遠隔で使えれば……」
「ミカエラお姉ちゃん……ねむい……」
「わかってる。だけど、今は我慢して」
踊り場を回り、二度目の階段。そこから、廊下を歩いていく。廊下には燭台。そうか。
「ライティス トリンショット ランブル」
私は、この世界で言うところの複数形術式を発動。燭台全てにライティスの燈りが輝く。
これで、両手が空いた。ゴトン。何かが落ちる音がする。床を見ればヘカートの姿になったティア。
今まで頑張ってくれたと思う。私はヘカートを抱えて移動を再開した。
「おやすみ。ティア」
銃身を優しく撫でる。それだけで、彼女が微笑んでいる感じがした。
部屋に到着する。そこには、先に席を離れていたメウスの姿。私は、ヘカートをベッドに置くと彼の後ろに立つ。
「メウス?」
「ティア、寝ちゃったみたいだね」
「うん。まあ、沢山肉じゃがを食べてたしね」
「まさか本当に食べるとは思わなかったけど。ぼくがヘカートだったら、きっと食べないよ」
メウスの表情が暗い。彼のトランプは私の机の上に置かれていた。
私はカードが入ったケースをメウスに渡す。だけど、彼はそれをバッグへ片づけずに、中身を取り出す。
「ティア。カードの向きが分からなかったみたいだね」
「え?」
「だって。表裏バラバラだから」
メウスの言葉に私も確認する。たしかに、ただカードをまとめただけで、裏表がバラバラだった。
そして、目の前の彼はそのカードを天井めがけて投げる。一瞬の明滅。吸い込まれるようにケースへ入っていくカード。
再び取り出すと、全部同じ面になっていた。なのに、バッグへ入れようとしない。
「ミカエラ。ぼくの占いって信じる?」
「……占い?」
「うん。このトランプを使った占い」
「結果……にもよります」
「そう。ちょっと見てて」
メウスはトランプを何度もめくり、ハートとスペードのカードを一から十三まで取り出す。
他のカードはケースに片付け。二十六枚のカードだけをシャッフルする。
「このハートとスペード。意味を解釈してみると、どうなる?」
「え、えーと。ハートはそのままで……。スペードの別名はたしかソード……」
「正解。つまり、ハートは正。スペード改めソードは負という意味にさせるんだ」
「じゃ、じゃあ、この占いって……」
メウスはシャッフルしたカードの山を置く。背面が上の山。そこから、五枚引いた。
出たのはハートの四と三。スペードの五と八、そしてエース。この結果にメウスは顔を歪ませた。
「もしかして……」
「そうだね。君の運勢はあまりよくないかな? ハートの合計値が七。スペードの合計値が十四。負のイメージが強いね」
「なんか、私もそんな気がしてきました」
二人だけの時間が過ぎていく。メウスが『戻る』と言ったので、私も一階に移動した。
そこでは、エレンが楽しそうに私の両親と話をしている。ものすごく楽しそうだったので、もう少し待つことにした。
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