第56話 眼科医の謎とクソ神様
サブスト第二弾スタート
ほのかに光る灯りの中、未だ漂う残り香をバックに、全員の視線がレイラに向けられていた。
私の手元では、ヘカートが暴れている。実際には動いていないが、私の脳内ではティアが人型になろうともがいていた。
仕方ない。私はティアに約束を持ち掛けて、ロックを解除した。本人も『大人しくします』と、なぜか敬語で言ってきた。
「ティア」
「う、うん……」
反省しているのか、いないのか。ティアは顔を俯かせていた。そもそも、自分の銃に感情があること自体おかしいのだけれど。
「今はレイラお姉様が話す番だから、どこにも行かないでね」
「はーぃ……」
もちろん、口頭だけで彼女を制御するのは難しい。メウスに一つお願いを投げて、ティアの行動範囲を狭めてもらった。
「それで、お姉様はなんでリザークと面識が?」
「と言っておいて、なんで急にわたしを『お姉様』って呼ぶのよ。なんだか歯がゆくて仕方ないわ」
「やっぱり、お姉ちゃんって呼んだ方がいい?」
「お好きにしなさい」
まだレイラは私に嫉妬しているのか、不自然に距離が開く。それでも、彼女は私を成長させたくて動いてくれたんだ。
たった一つの行動で全てが変ってしまう。私にそのきっかけを作ってくれたお姉ちゃん。
「ミカエラはレイラさん好きなの?」
「え?」
メウスから聞かれたこと。自分でもその真意に気づけていない。むしろ完全に無関心だ。
実際には血縁関係。血は繋がっているけど、髪の色や目の色が異なる。
見比べたいわけではない。線を引きたいわけでもない。だけど、私とお姉ちゃんはところどころ違う。
暗殺の腕も、お姉ちゃんの方が上。私なんて、殺せた人と言えばリザークくらい。
未だに私が暗殺者でいいのか疑問に思う。自分ではわかっているのに、どこかで棘が邪魔をしている。
「わからない。だって、私とお姉ちゃんは色々違うから。私だってお姉ちゃんをリスペクトしたいよ。だけど――」
「似たところが一つもない……ね……。とりあえず今から、わたしとリザークのことについて話すわ」
「うん」
お姉ちゃんはリンゴジュースを一口飲むと、テーブルの上に両手を重ねて置いた。
「わたしがリザークと会うきっかけになったのは、三年前にシリウスさんが来た時ね」
「そういえば、リザークの付き人である老魔族もシリウスさんの名前を出してましたね」
エレンが当時のことを思い出させてくれる。老魔族は私のことも知っていた。やっぱり関係があるのだろうか。
「ほら、クソ神様も話に合わせなさい」
「えー。その時のはぼく無関係だよー」
「そんなわけないわよ! シリウスさんから聞いたわよ。クソ神様が依頼したってね!」
「メウスそうなの?」
私の問いかけに対してブンブン横に振るメウス。どうやら嘘はついていないらしい。
では、実際にはどう言ったのか。それが謎として残る。メウスならなんて依頼をするだろうか。
依頼とはいえ、言い方次第では依頼文と違ってくる。ここは、友達付き合いという形で判断した方が良さそうだ。
「依頼ってわけじゃなくて、自然にその話題が出てきて作戦を練ったってことね」
「そう」
メウスが頷いたところで、私はお姉ちゃんの方を向く。これはやはり言ってやらないと気が済まない。
「相変わらず、レイラお姉ちゃんは推測するのが下手ですね」
「推測が下手ですまなかったわね。そもそも、ミカエラが上手すぎるのよ。本人に会わずして、そこまでわかるなんて、常識の範囲外すぎるわ」
「常識って……。それは言い過ぎ。しっかり考えれば誰でもわかります」
「あらそう?」
お姉ちゃんの返しに、他のメンバー全員が首を縦に振った。お姉ちゃんの直感は外れる。だけど、なぜ暗殺の成功率が高いのか。
「ここからはぼくが説明するよ」
「ようやく動いてくれたわね。百まで言いなさい」
「百までって……」
メウスが困惑の表情をする。どうやらレイラお姉ちゃんは彼に丸投げしたいらしい。
人使いの悪さは、二人ともどっこいどっこいかもしれない。実際メウスは上司のアダムを使いまわしていた。
「ま、まあ……。わ、わかったよ……」
「ふーん」
「ぼくはシリウスさんに会った時、魔道具の紛失について聞かされたんだ。実物はぼくがすぐ見つけられたから、よかったんだけど」
メウスは過去を思い出すように話を続ける。魔道具の盗難紛失は嘘だったようだ。そう考えると、シリウスの嘘を嘘と思わせない演技は、かなりの物と言える。
「でも、シリウスさんは嘘をついてなかった。見つかったなら目が泳ぐはずだけど、それもなかった」
「それはね。あのシリウスさんはぼくが作った偽物なんだ」
偽物。改めて彼の発言を振り返ってみる。すると、一つだけ違和感が見つかった。
――――――――――――――――――
「わかりました。窃盗の的になっているのは、こちらの魔道具です」
――――――――――――――――――
この発言だけ浮き立っていて明確な違いがわかる。不自然に敬語になっているのが、ずっと頭のどこかで引っかかっていた。
シリウスさんは年齢的な関係でかなり砕けた口調を使っていたはず。
しかし、これがメウスの演技だとしたら。人は誰しも完璧ではない。
本人の演技とはいえ、完全に再現なんてできない。それは一種の天才だ。
「ミカエラは気づいたみたいだね」
「まあね。不自然になっていた部分。メウスの不注意癖でしょ?」
「どうしてもね……。レイラさんは、ぼくよりも位が上だから」
お姉ちゃんがメウスよりも上ってことは、お姉ちゃんも神様になったのか。
だけど、そんなはずはない。私でも神なんて天空の存在なのに。
「ミカエラ。わたしは決して神じゃない。ただ、クソ神様の上司、イヴと強い関係があるのよ。だから、わたしはクソ神様から尊敬される存在ってわけね」
神様の世界もものすごく複雑なんだなと思ってしまう。つまり、お姉ちゃんはそのイヴさんと同じ扱いというわけだ。
だけど、さっきからお姉ちゃんが繰り返し言っている『クソ神様』という言葉が気になって仕方ない。
どこからそんな呼び名が生まれたのか。そこから遡らないと、お姉ちゃんとメウス、二人の関係性がわからない。
二人の関係性がわからないと、リザークとの関係性もわからないだろう。
「お姉ちゃん。なんで、メウスのことをクソ神様って呼んで……」
「クソはクソよ。彼、本を書く以外いいとこ無しなのよ」
「激しく同意」
メウス自身、自覚はあるようだ。私としては、戦闘にもいいところあると思うんだけど。
実際、お姉ちゃんを圧倒していたし。いや、もしかすると龍神の滝で出会ったお姉ちゃんも……。
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