第55話 無限の胃袋
食欲旺盛なエレンを、メウスは不思議そうに見つめていた。ナイフで切り裂いた右腕は、もうすでに治りかけている。
「メウス! 美味し!」
「よかった……」
しばらく前まではババ抜きでギスギスしていたのに、今ではこの通り。
無限に料理を頬張るエレンに、私を含めた全員が苦笑する。
「エレン。もう少しゆっくり食べたら?」
私は率直な意見を言う。しかし、彼の手の速度は変わらない。
「そろそろ食べるの……。ぼくのお金が吹き飛んじゃうよ……」
「え? ってことは、材料費は実費?」
「うん……。えーと、今現在の材料費は金貨五百枚……。所持金は……あと……」
メウスは赤い顔で考え事をしている。どうやら酔いが回っているらしい。
魔力を回復させるために傷口からお酒を、――しかも高濃度のを注ぎ入れたのだから当然だ。
それでも、数字に頼れるだけ強いんだと思う。私はメウスに座るよう促した。
「メウス。座ったら?」
「う、うん……そうさせてもらうよ……」
メウスはよろよろと椅子に移動する。反対側を見ればティアがいなくなっていた。
しばらくして戻ってきたティアの口は、目を覆いたくなるほど汚れている。きっとそれだけ、肉じゃがが美味しかったのだと思う。
それ以上に、私が気になったのは金色に輝く液体が入った瓶。もしかして……。
「メウスお兄ちゃん! ういすきー持ってきたよ!」
「ありがとう……」
ウイスキーを受け取ったメウスは、普通のお酒――と言っても度数カンスト――の入っていたコップいっぱいに注いだ。
「メウスさん! その飲み方は非常に危険では?!」
お母様が叫んだ。しかし、酔って頭に入ってないのか、メウスは一気飲みを披露する。
「……ふぅ」
「メウスお兄ちゃん大丈夫?」
「うん」
メウスは再びウイスキーを注ぐと、さらに飲み始める。この状況において、お酒が水でも飲むかのように彼は異常だった。
この世界には正確に時間を伝える時計がない。体感時間では、一時間半は超えている気がする。
「そろそろお開きにしませんか?」
いい加減寝たい私は、しょぼしょぼする目を無理やり開いて伝えてみる。
ようやく食べ終えたらしいエレンと言えば、満足したのか表情が明るかった。本当に胃袋が化け物すぎる。
「ほんと、エレンさんはよく食べるのねぇ……」
「そうね……。わたしよりも食べているじゃない」
「えへへ。どうしてもお腹が空いてしまって……」
「食べ盛りにもほどがあるわね……」
呆れまじリに吐き出したレイラの言葉に、私の両親がうんうんと頷く。
「それよりもそこのクソ神様はいつまでお酒を盛ってるのよ。さすがに酔い過ぎもいいところじゃないかしら?」
突然レイラはメウスに狙いを定める。
「え? そうかな? ようやく酔いが覚めたところだけど……」
あっけらかんとしている彼に、レイラは目じりを鋭くとがらせた。
「ば、ばっかじゃないの!? 普通は酔っ払って死に際を彷徨っているはずよ」
標的が急にメウスに移動したのは少し驚いたが、レイラが言っていることは間違いない。
たしかに、さっきまで顔が赤かったメウスだけど、今は血色が元に戻っている。
たとえ顔色が正常であっても、心配になるのは当然だ。私だって、そろそろ飲むのをやめて欲しいくらい。
「あ、ウイスキーも無くなった……」
「そりゃ散々飲んでるからね……」
「ミカエラ。ぼくのバッグにもう一瓶……」
「却下です」
これ以上飲んだらどうなるかもわからない。泥酔はしていないにしても……。
「お姉ちゃんがダメなら、あたしが持ってくる!」
「ティア。話に乗らないの!」
「お姉ちゃんこそ、メウスお兄ちゃんが欲しいって言ってるのにー! むっきー!」
「それにしてもだよ! ティアはメウスのことが好きだからやっているんだろうけど」
私の大声量に、空気が張り詰める。そんなことを気にせず、さらに続けた。
「私もメウスには自分の身体を大事にしてほしいって思ってるの! だから、これ以上は絶対。ぜーったい飲ませない!」
さすがに私もティアの即時行動は止めたい。私は強制命令でティアを銃に戻した。これで少しは落ち着くはず。
加えて、再び人型にならないようにロックもかける。念には念をというものだ。
「あら、ティアってミカエラの神具だったのね」
「はい。メウス以上に……問題だらけですけどね……」
「そうね」
お母様はほんの少し口角を上げて笑う。夜も深くなったからか、フクロウの声が響いてきた。
この夜の静けさの中こだまする鳴き声に、寂しさを覚えてしまうのはなぜだろう。
「やっぱり……会いたい?」
「え?」
メウスに言われて気付く。私は、前世でお世話になったお兄ちゃんと会いたい。
だけど、ここで言うことではない。不思議に思われたら最後だ。
「そういえば、レイラー」
「な、なによ急に……」
「なんでー。ぼくの友達のー。リザークとー。つるんでいたのー?」
「とんだクソ神様ね……。言わないわよ。そもそも、メウス。貴方のおかげで会わせていただいたのよ?」
この切り出し方。メウス自身は酔いが覚めたらしいけど、根本的な部分が不完全になってしまったらしい。
レイラもなんだか嫌々付き合うような構図になっていて、どうしようもない展開だ。
ロウソクの火。メウスが自分で切った小指は未だに燃えている。よく見れば、爪のあたりが全く焦げていない。
「たしかに、わたしはメウスの伝手でリザークに会ったわ。だけど、それ以上のことをしているのよ?」
「まあ、レイラさんがいなかったら、ぼくは硬ーいベッド生活を強いられてたかもね」
「『そういう問題じゃない!』」
どうも、メウスはベッド最優先らしい。それ以上に重要なことがあるはずなのに。
レイラの気持ちはわかる。だけど、普通に聞こうとしないメウス本人も、意図して上質なベッドを獲得したのだから……。
「メウスもメウスで、死活問題だったんだよね?」
「まあねぇー。レイラさんと、リザークのおかげで、ぼくの猫背治りそう!」
「だから、なぜそういう話になるのよ。関係ないじゃない」
「そうかな? ぼくとしてはありありのありだけど」
なんだか話題に一貫性がなくなり始めている。それが、このメウスの仕業だということも。
「無関係なことはおいておくとして、レイラお姉ちゃ……。お姉様とリザークの関係性について、聞かせてください」
「仕方ないわね。わかったわ」
「お願いします」
夜会第二弾。まだまだ話が長くなりそうだ。さて、私はいつ寝られるのかだんだんわからなくなってきた。
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次回から新サブストーリー!! レイラとリザークがどう出会い。どうミカエラを導いたのかについて迫っていきます!




