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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる【サブストーリー更新中】  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第54話 肉じゃがの味

注)自傷描写あり

 空腹が限界に達した時。メウスが大量の皿を浮かべて歩いてきた。


 食卓に並べられたのは、何も乗っていない皿。だけど、美味しい香りはしっかりしている。


「これは?」


 私はメウスに問いかけた。メウスは『もう少し待って』と言って、台所に移動する。


 これでは食事どころじゃない。香りだけで、料理がないのは寂しすぎる。


 でも、ワクワク感はものすごく高まっていく。数分後、メウスはまた皿を持ってきた。


「よし、これで準備完了」


「でも、料理ないよ?」


 私は正直な意見を言った。だけど、メウスは気にしていないようで。


「これからだよ。あと、一分だけ待って。完成するから」


 仕方なく言われた通りにする。直後、皿から湯気が出てきた。


 ほんのり甘い香り、ジャガイモのほくほくとした匂い。


 この香り、どこかで……。


「よし完成。さん、にー、いち。ゼロ!」


 ――パチン!


 メウスが指を鳴らす。すると、何も乗ってなかった皿に料理が出現した。


「これは、肉じゃが?」


 目の前に置かれたもの。それはどこからどう見ても、エレンの実家で食べた肉じゃがそのものだった。


 だけど、見た目が少し違う。普通の肉じゃがに見えてそうではないような。


「本気で作ったから。もちろん、隠し味付きだよー」


「『いただきます……』」


 メウスが作った料理をスプーンで食べる。なのになんだろう。手が止まらない。


 口がこの味を求めている。そんな気がした。料理は無限に湧いてくる。


「すごい。メウスさん。この料理どこで……」


「秘密。ぼくの魔力が尽きるまでおかわり作れるから。どんどん食べてねー」


 メウスは、何度も指を鳴らす。他にほしくなった私は、彼にお米をお願いした。


 数秒後、私の目の前に茶碗が現れる。メウスが鳴らすと出てきたのは炊き立てご飯。


 肉じゃがにはやっぱりこれだよね! エレンも白米を要求し、台所からチンという音がした。


「もしかして……」


「うん。お米はぼくの得意先から用意してもらったもの。ここのキッチンに炊飯器を置かせてもらってるよ」


「勝手に炊飯器用意しないでください!」


「大丈夫。ぼくの炊飯器だからー」


「『そういう問題じゃない!』」


 全員の声が重なる。だけど、お父様も、お母様も満足そうな顔をしている。


「メウス。ところで、隠し味ってなんなの?」


 そうだ。隠し味。こんな美味しい肉じゃがは初めてだった。


 絶妙な甘みと塩気。そして、味が奥の奥まで染みこんだ具材。


 超短時間にしては一瞬すぎる。しかも、無限に出てくるのは必ず裏がある。


「この味。ずっと悩んでたんだけど……」


 ふと、お母様がそんなことを言った。


「うんそうだよ。フランさんのお姉さん。長女のミレス・ブライアントの得意料理を完全再現してみたんだ」


「ミレス……ブライアント?」


「たしか。旅の途中で亡くなったっていう、聖女の……」


 レイラがそんなことを言う。


「彼女が亡くなった原因はぼくなんだ。彼女はフランさんをものすごく大事にしてたって聞いてる」


「そう。なんですね……。ミレスお姉様……」


 お母様は少し顔を俯かせ、何かを探るような仕草をする。


 本当に好きだったのだろう。前世で死んだ私は、そんなお母様の感情がわからない。


「ですが……。なんでこの味を作れるんですか?」


「んー。ぼくは一度食べた味を覚えるのが得意でね。再現するのにはそれなりの時間がかかるんだけど……」


「それでも……。メウスさん……。思い出の味を作ってくださり。ありがとうございます」


 肉じゃがを頬張るお母様は、まるで子供に戻ったかのようだった。


「私は、捨て子だったんです。お姉様も捨て子でした。理由は、髪の色。私とお姉様は同じ銀髪で、家族からは距離を置かれてました」


「うんうん」


「捨てられた私とお姉様は、勇者養成学校で下働きをして、様々な料理を作る仕事をしました。その時お姉様の作った料理がこの肉じゃがだったんです」


「なるほどね。その時ぼくは勇者養成学校で指導係をしてたかな? 味を覚えているわけだ」


 メウスは指導係もしたことがあったんだ。ただ本を書いているだけではない。彼も勇者だったから。


 火の灯った小指の先端。私はそれを見つめて、二人の話を聞く。


「ですが、なんで私のお姉様の料理を……」


「なんでだろうね。作ってるところは見たことがないんだ。ぼくにも見せてくれなかった」


「実は、私も見たことがないんです。お姉様は、一体何を隠し味に……」


「わからない。ぼくは魔法で再現しているだけだから」


「メウス。お母様。そろそろ」


 他の人を置き去りにして話す二人に、私は待ったをかけた。


 二人はようやく自覚したのか、ペコペコと頭を下げる。


「つまりは、メウスが偶然知っていた味が、お母様の思い出の味ってわけね。巡り巡ってくるっていうのは、ほんと面白いわね」


「は、はいぃ!」


「お母様。涙を拭いてください」


「ありがとう。ミカエラ」


 その様子を見てメウスはハンカチを用意する。お母様に渡すと、なぜか鼻をかみ始めた。


「あとで洗濯して返します……」


「いえいえ。そのままもらっていいよ」


「そんな。申し訳ないです……」


 メウスの優しさ。それを避けるように、お母様はハンカチを畳みテーブルに乗せる。


「そろそろ、みんな……」


「メウス! おかわり!」


「ッ!?」


 もうすぐお開き、そのタイミングでエレンが手を挙げた。


 相変わらず彼の胃袋はブラックホール。私はメウスの魔力が心配になってしまう。


 メウスもこの事態になるとは思わなかったらしく、額に汗をかいている。


 私の向かいに座るお母様とお父様は、小さく笑った。ティアはというと、黙々と肉じゃがを食べている。


「仕方ない……。本当は使いたくなかったけど……」


 再びメウスがナイフを取り出す。そして、右腕の関節部を切り裂いた。


 そこへ、飲むために用意したアルコール百パーセントのお酒を流す。


 少し痛むのか、メウスの顔が歪んだ。少しすると身体を左右に揺らし始める。


「やっぱり。直接血管にお酒入れると効くねぇ……」


「いや自分でやったんでしょ?」


「でも、魔力を強制的に回復させるにはこうするのが早いんだ。まあ、しばらく寝込むことにはなるけど」


 瞬間彼の身体からほのかな光が発生した。まだ金色の血液が垂れている右腕を真っすぐ伸ばし、エレンの皿へ向ける。


 それは一瞬だった。エレンの皿に、茶碗に食べ物がこんもり盛られる。


「メウス。こんなに食べていいんですか?」


「うん。多分普通盛りだと足りないはずだからね」


「ありがとうございます!」


 その後お母様もおかわりをした。やっぱりお姉さんの思い出が蘇るからだと思う。


 私も前世で食べた料理をもう一度食べたい。もう、食べることすら叶わないと思うけど……。

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次回馴れ初め編完結!

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― 新着の感想 ―
あれ? フランさんの髪の色って、茶色でしたよね?! ミカエラは見事な銀髪ですし、今回の話を読むと「元聖女」と髪色には何か関係があるのかな……と気になりました。 そして改めて思ったのですが、作者さまは…
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