第53話 メウスそれはダメ!
注)残酷描写あり
夜会が始まって体感時間二十分。だんだん眠くなってきたころに、お父様とお母様が何やらこそこそと話していた。
私たちには聞こえない。だけど、そんな二人が元々不思議な縁を持っていたとは思えない。
「エルヴィンさん」
メウスが切り出し、会話を遮った。彼は百パーセントという高濃度のお酒を普通に飲んでいて、見ているだけで酔いそうになってくる。
「メウス。そろそろやめたら?」
「えー。まだまだいけるよー」
「そういう問題じゃなくて……。チーズくらいは食べたら?」
「ち、ちーず……」
そうだ。メウスは幼少時代、酪農の家で苦い思い出があるんだ。最初は食べてくれたけど、そのチーズがブライアント産。しかも、リーファ一族の品とわかってから、彼は手をつけなくなっていた。
それだけ、実家でのことを思い出したくないのだろう。私としては親孝行できてない彼に、一度でも体験させてあげたいくらいだ。
「ミカエラ。メウスさんが困ってるわよ」
「すみません……。昔聞いたことがあるんです。お酒は空腹の状態で飲んではいけないって……」
「まあ、まだ十歳なのによく知ってるわね。さすがは私の子だわ。あとで、プレゼントがありますから」
「プレゼント?」
「ええ。もちろん、レイラにも、エレンさんにも。メウスさんにもありますよ」
この展開はもしや……。
「ママさん。あたしにはないのー? あたしも、ぷれぜんとほしい~!」
「ちょっとティア……」
「あらあら。貴方もね」
空気感的にはものすごくマズい状況。だけど、ティアの気持ちはわかる気がした。
前世で私が十五歳だった時。中学卒業目前だったから、私へのプレゼントがなくなった。
その時は大騒ぎをした思い出。欲しかった本は、頑張って貯めた貯金を崩して買うしかなくなったあの日。
「ミカエラ! ミカエラ!」
「え、えーと、スミマセン……いろいろ思い出して……」
これ以上言うと、またお父様とお母様が疑問に思ってしまうだろう。しかもここには姉のレイラと、私の護衛対象であるエレンもいる。
だけど、この空間には空気を読めない人もいるので……。
「もしかして、ミカエラ、前……」
「い、言わないでメウス! そこは無し。無し! 無し! 無し!」
「わかった。ところで、エルヴィンさん。フランさん。ぼくたちへのプレゼントってなんですか?」
メウス。話の切り替え早し。まあ、私に対する誤解には至らなかったからよしとしよう。
「そうねぇ。ティアちゃんまでお願いされたから、予定が狂ってしまったわ」
「では、こういうのはどうでしょう。これからぼくが料理をするので、それをティアへのプレゼントにするというのは?」
「クソ神様にしては面白いじゃない」
「ぼくはクソ神様じゃない!」
どうもレイラはメウスに怒りを見せる。それはそうとして、メウスの料理が気になる。
リザークの魔王城にいた際も、メウスが料理を提供してくれた。だけど、なぜか味を思い出せない。
記憶を巡らせると、テーブルの中央で揺れる小さくなったロウソク。このままでは光が消えてしまう。
「そろそろロウソクが消えちゃうねー。ふわぁ~」
「ティア。顔離して」
「ふわぁーい……」
私が注意すると、ティアは顔を遠ざけた。途端、ロウソクの台が空中を移動する。
「ミカエラ。ライティスで明かりつけて」
「わ、わかったメウス。ライティス」
私は言われた通りに行動する。メウスはというと、どこから出てきたのか小型のナイフを持っていた。
「ちょっと! メウス何する気なの!」
私は思わず大声で叫んだ。なぜかというと、そのナイフで自分の小指を切ろうとしていたからだ。
「大丈夫。すぐに元に戻るから」
「そういう問題じゃないよ! なんで自分の身体を!」
「えーと、こうして。こう切って……。よし、できた」
ポトリ。金色の血液が尾を引きながら、小指の先端が切れた。
それを、ロウソクの台に乗せて火をつける。轟音と共に灯された光は、普通のロウソクよりも強く明るかった。
「これで一晩は持つね」
「それどころじゃない! それどころじゃ……」
「ここをこうして……」
メウスは途切れた小指を少し咥え、切った小指の火に近づける。熱さを感じないのか、しばらく焼いて。
「よし、治った」
彼が手を引っ込めた時には、手が元通りになっていた。どういう原理なのかわからない。だけど、先端部分は今も燃えている。
「推理できないでしょ?」
「う、うん」
「すまないが、探偵を本業としている私でもわからなかったな……」
お父様も降参のようで、どういうわけかティアが食らいついていた。
「メウスお兄ちゃん。もしかして、メウスお兄ちゃんの血液って可燃性?」
「ま、まあね……」
「体内にある時は、火がつかなくて。切り離すと外部の空気に反応し、可燃性物質に変換。火が付くと、着火剤みたいな原理が働くってことね!」
「せ、正解……」
なるほど。ものすごく単純なことだった。自分の一部が着火剤になるというのが、いつ頃気づいたことなのか知りたいけど。
「ティアちゃんも頭いいんだねぇ。すごいすごい!」
「えへへ。こういうの得意なんだー。だってあたし、ミカエラのぱーとなーだもん!」
部屋全体を明るくするメウスの小指の先端。まだ燃える。燃えている。
その後、話題はお父様とお母様が旅をしている時の内容になった。
メウスは料理をしてくると言って席を離れ、数秒後には何かを焼く音が聞こえてくる。
「護衛はね。全部国王が決めるのよ。だけど、成績一位で卒業したエルヴィンは、護衛変更権で私を選んだ」
「僕と一緒ですね。僕も護衛変更権を使って、レイラさんの予定だったのをミカエラに変えましたから」
エレンは今まで以上に冷静だった。リンゴジュースを一口飲み、会話を続けるよう促す。
「そうね。だけど、レイラはすぐに移したでしょ?」
「ええ、ミカエラと長い時間いたのはエレン。わたしには、彼のこと一切知らない。ミカエラなら、エレンを任せられると思ったわ」
「うんうん。だけど、エルヴィンの元々の護衛は我が強い人でね。最終的に決闘で決めたの」
決闘。つまり力量でエルヴィンを支えられるかを見定めた。
台所からは、美味しい香りが漂ってくる。会話はまだまだ続く。
「結果は引き分け。だけど、国王の付き人の証言によって、私が選ばれた」
「『付き人の証言?』」
「ええ。相手はエルヴィンを良く思ってない人でね。過去に殺害予告を出していた。という事実が判明したの」
殺害予告。勇者を殺す人。通称勇者殺し。きっと、お父様が感づいてなければ、私やレイラは生まれてない。
この時からお父様は人を見る観察眼を活かして、正しい道を進んでいたとしたら――。
「きっと、探偵業はお父様にとっての第二の天職なんですね」
「そうだな」
「うふふ。相変わらず、エルヴィンとミカエラは仲良しね」
そうこうしているうちに、台所でガタゴトと物音がしてくる。どうやら準備ができたようだ。
さて、メウスは家にあるもので何を作ったのか。いつの間にか鳴き始めた腹の音に、私はワクワクしていた。
読んでくださりありがとうございます
いいねは賽銭箱に大事にしまっておきます
リアクションも別の賽銭箱に入れておきます
星は1から5どれでも大丈夫です
下の評価ボタンからぽちっとしちゃってください!
最高の励みになります!
ついでにぜひブクマもお願いします!




