第52話 両親の馴れ初め②
薄暗い空間にロウソク一つ。食卓には天井に照明がある。なのに、お父様の提案でこのような状態になっていた。
「さて、どこから話そうか……」
お父様はそう言うと、ワインを一口飲む。そんな彼を見て、お母様は少し笑ってワインを注いだ。
「相変わらず切り出しが下手ね。模擬裁判とか緊迫とした時ならすんなり切り出すのに」
「ちょっとフラン……」
「今では大人しいエルヴィンだけど、こう見えて彼は勇者養成学校時代ものすごく暴れてたのよ?」
クスクスと笑みを浮かべながら、山羊のチーズを食べるお母様。私もほんのちょっと貰って、口に入れる。
とてつもなくクリーミーな鼻に抜ける香り。少し硬めに作られているのか舌に残る。
その様子を見てなのか、メウスが一口食べた。そして、ハッとしたかのような顔をする。
「このチーズ。ぼくの両親が作った味に近い……」
「そういえば、メウスさんの姓ってリーファだったわね。このチーズはリーファ一族の六代目が作ったものなのよ」
「リーファ一族の六代目……。そう考えると……」
「うふふ。とりあえず私たちの馴れ初め、ね?」
お母様はそう言って、話の軌道修正をする。お父様はどうやら感づいているのか、少し引き気味の様子。
「では、エルヴィンが暴れん坊だった時の話から」
「あ、暴れん坊って……」
お母様の切り出しに、エレンが呆れた声を出す。
「エルヴィンは昔いじめる側についてたのよ。そのいじめの対象が私だったってわけ」
「だいぶ端折ってるわね……」
レイラお姉ちゃんが即座にツッコミを入れる。私はそんな状況に押されて、少し興味を失う。
確かにお父様は、先走る部分がある。と思う。
私が六歳だった時。お父様は真っ黒になりながらも私に弓を渡してくれた。
お母様をいじめる際、最初に行動を開始したのがお父様ならば元々の性格によるものだと感じる。
「エルヴィン。本当はいじめる気なかったのよ。私が心を閉ざしていたから。それが結果的にいじめに繋がった」
「もしや、お父様はお母様の反応に〆てちょっかい出したってことかしら?」
「あ、ああ……。すまないフラン」
二度目のレイラによる指摘に、お父様がより小さく縮こまる。
そんなお父様を余所目に、私はリンゴジュースを飲んだ。
「ねぇ、ミカエラさん」
私の隣に座るエレンが声をかけてきた。
「なに?」
「ミカエラは、お母さんとお父さんのこと、好き?」
「え、う、うん……」
すごく当たり前のことを言われ、私は言葉に詰まる。
もちろん両親のことは好きだ。それは変わらない。
「もしお母さんたちが――」
「ストップ! ストッププリーズ!」
メウスが謎の言葉で割り込む。酔っているのだろうか。
「ぷ、ぷりず……」
とエレン。
「おとまりください……」
「メウス。おかしくなってるわね……」
「そうだね。お姉ちゃん……」
酔っているのか、いないのか。顔色に変化はないというか、たった数本のロウソクで顔が赤く染まっているせいで、どのくらいなのかわからない。
「ううぅ……」
メウスが唸っている。何があったのだろうか……。
「エルヴィン……さん……。これ度数いくつ……?」
「ん? たしか……。フラン」
お父様はお母様に度数を確認するよう促した。お母様はすぐに確認し、指で一と四を出す。
「十四パーセントだそうだ」
「やっぱり……」
メウスは呂律が回りづらい状況なのか、何もないところから紙を一枚出現させた。
ペンで何かを書いている。筆致がかなりブレていて、酔いが回っていることがわかった。
「これ……ぼくの……荷物に……」
「何?」
「ちょっと、よいざまし……に……」
それ酔い覚ましではない気がするけど、仕方ない。
「お父様。私が取りに行きま……」
「おまたせー! あれ? これじゃないの?」
「ティア!」
タイミングがいいのか、悪いのか。ティアが小さなお酒の瓶を持ってやってきていた。
私はお母様にワイングラスとは別のコップを用意してもらう。
「見たことのない酒瓶だな。フラン注ぐ前に確認してもらえないか?」
「はや……く……」
「エルヴィン。それは難しそうだわ。先に注がせていただきますね」
お酒を注ぐとメウスは震える手で持ち上げ、口に含んだ。
「……ふぃー。助かった……」
「お酒で酔いを覚ますのもおかしいけどね」
私はメウスに本音を伝えた。そんな中で、お母様が酒瓶の度数を確認する。
「な、な……!?」
「フラン!?」
「これ、度数が……百パー……セント……」
百パーセントってことは、この前飲んでいた二百パーセントのウイスキーよりは弱い方か……。
そもそも、百パーセントを超えるお酒なんてあるはずがない。どのような製法で作られているかは知らないけど。
メウスは少し変わったところがある。そこだけは両親に知られたくなかった。
だけど、それはもう無理なようだ。私は諦め静かにする。
「ぼくの身体が特殊なだけだよ。というよりも、ぼくは微妙な度数が苦手だからね」
「すなわち、十四パーセントのお酒は度数が微妙で、不自然に酔ってしまうとな」
「エルヴィンさん大正解!」
そういうことか。不完全な酔いよりも一気に酔った方が気持ちよくなる。彼の肝臓が心配だけど。
メウスは神様だから許せる飲み方だけど、私が大人になって同じことをしたらどうなることか。
「それで、フランさんをいじめていたのに、どーして二人は結婚したのかな?」
メウスの切り出しには鋭さが戻っている。普段通り。
「ある日、国に魔王軍が攻めてきたんだ。獣人の魔王だったな……」
「ええ。そこで勇者になったばかりのエルヴィンが死にかけたのよ。そこを救ったってわけ」
「まさかな……」
「ふふ、実は一目置いてたのよね。なんで私ばかりいじめるんだろうって。そしたら、風の噂でエルヴィンが私の名前を連呼してるって」
そういえば、エレンの祖父アルバスが、私の髪を見て即座にお母様の子だと見抜いた。
お母様の髪には今も銀髪が紛れている。私がもっと小さかった時よりは茶色の面積が広がったけど。
「もしかして……お母様も……」
「名目上での聖女。だけどもうその力はないわ」
「そう……だったんですね……」
私がこの家庭に生まれた時。私はお母様の血を強く引いていると言われた。
「私が聖女として生まれたのも、お母様のおかげなのですね……。お父様の傷もきっと」
「ええ、治癒した」
「ミカエラ。フラン。その話題はそこまでにしないか」
「わかったわ。ミカエラ。あとで一緒に話しましょ」
「はい。お母様」
お母様との会話が一旦終了し、再び馴れ初めの話題に戻る。
脱線が多い気もするけど。まあいいか……。
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