第45話 魔族に命を売った男
リザークの部屋には血生臭いものが立ち込めていた。部屋の中央ではリザークが胸を押さえながら身体を震わせている。
その顔は酷く青ざめていて、具合の悪さが目に見えてわかる。私はそんな彼をどうしたら救えるか、それだけがぐるぐる回って思考を安定させることができない。
「リザーク。なんでぼくの忠告を受け入れなかったの!」
メウスが大きな声で怒鳴る。忠告を受け入れなかった。それは一体どういうことなのだろうか。メウスはゆっくりとリザークに近づく。神と魔族は相性が悪い。
私はリザークの背中を見た。膨れ上がったうろこ状の模様。まるで今すぐにでも何かが貫きそうなくらい異質化している。
「メウス。リザークに何を忠告したの?」
私はメウスに質問した。
「リザークはぼくの幼馴染。同じブライアント出身で、共に勇者を目指した親友なんだ。ある日から、あまり話さなくなったけどね」
「そうなんだ……」
メウスはリザークの隣に立つと、何やら魔法を発動した。異質に膨れた背中が少し抑えられる。どうやら抑制の魔法を無詠唱で唱えたようだ。
「あり……うぐ……」
「無理しないで。そもそもぼくと今のリザークは相性が悪いんだ。これでも全力でやってる」
「しかし」
「リザークは伯爵家の出身だよね。なんで家を継がなかったの!」
ここまで怒るメウスは、王都の入口で足止めを喰らった時以来。いや今の彼はそれ以上の怒りをぶつけている。
「メウス。お前は本物の勇者なんだろ? そんなお前が、どこの誰よりも羨ましかった。オレ様では……。昔のオレじゃお前を超えられないと思ったんだ」
「そこまでして……。魔族に命を――魂を売るなんて間違ってるよ! ぼくも完治させる方法を今も探してるけど……。どれだけ迷惑をかけるの!」
「それは……」
メウスが一人でリザークを説き伏せようとしている。幼馴染だからこそ、救いたいのだろう。けれども、リザークを救うには古い命を殺す必要がある。
メウスとエレンはそれを知らせに……。
「ミカエラー。キミならできるんじゃない?」
「な、ティア。なんで私!?」
「だって。ほら、りざーくの背中。また膨れてるし」
ティアの指摘を聞いて、彼の背中を確認する。メウスによって抑え込まれていた異質化は、その効果を低下させていた。
メウスが本気を出せないのも、きっと相反する魔族に悪影響を及ぼす可能性があるからなのだろう。
「メウス。私が終わらせる」
「ミカエラ……」
リザークに近づき身体の状態を確認する。相変わらず顔は真っ青。口元にはどす黒い血が塗りたくられたようにこびりついていた。
「エレンとメウスはセリンさんとシリルさんを呼んで」
「了解」
私とティア。リザークの三人になり、目の前の彼は再び喘ぎ声で叫ぶ。全身が痛むのか、かなり酷い状況。
私は聖水を探す。さすがに魔界にはそんなものは存在しない。そもそも、魔族に聖水が効くのかすらわからない。
少ししてセリンとシリルが到着する。
「セリンさん。シリルさん。二人で協力してリザークさんをベッドに寝かせてください」
「ミカエラさん。何をされるのですか?」
「私にいい考えがあるんです。シリルさん。魔族に聖女の力を使って効果はありますか?」
「それは果たしてどのような魂胆で」
シリルはそう言いつつ、セリンの肩を叩く。二人でリザークを担ぎゆっくり歩かせた。ベッドに着くと、横にさせる。
「メウス。また寝ることができない状態になるけど。いい?」
「もしかして……」
「うん。応急処置をするには、使うしかないから。終止符も私が打つ」
「わかったよ……」
メウスは悲しそうな顔をした。でも、これは仕方ないことだ。
「シリルさん。また力を貸してください」
「かしこまりました」
「聖女ミカエラ・シャーロットより命ずる。彼の者の呪縛を浄化し。全ての苦痛から解き放て!」
これ以降の詠唱句はない。できるだけ、リザークに意識を向ける。膨れ上がって上半身が浮いている彼。
(私のことはどうなってもいい。リザークを助けてあげて……!)
少しずつ沈んでいき、正常の身体に戻る。これで、しばらくは問題ないはず。
「終わりました」
数秒後。リザークが目を覚ます。顔色は変わらないが、少し生気が戻ったようだ。
「ミカエラ……。本当に……聖女なんだな……」
「はい。リザークさん」
「本物……なんだよな……」
「はい。リザークさん」
「メウスが……お前を……選んだんだよな……」
「はい。リザークさん」
「オレ様は……何を踏み間違えた……」
リザークは天井を眺めるようにして、つぶやく。その言葉は、初めて会った時よりも気迫がない。
「なんで……オレ様は……本物になれなかった……」
「リザーク……」
メウスが低いトーンでリザークの名前を呼ぶ。
「ミカエラ。お前のタイミングでいい……。今の命を……、――くれ」
「わかりました。これが、私にとって悔いのないよう努めます」
私はメウスに頼んでナイフを用意してもらい、自分の血をリザークの額につける。これでしばらく時間稼ぎができる。
自分の血液を抑制剤にして、部屋を後にした私たち。私はリザークを殺すと、今の命を殺すと約束した。
タイミングは早い方がいい。再び彼が苦しむより前に、無痛の死を与えた方が気も楽なはず。
「ティア。リザークは魔族。どうすれば殺せる?」
「そうだね……。あたしの全出力を発動すればできるんじゃない?」
「全出力?」
「うん。まあ、それをすると、あたし人にはなれなくなるけどね!」
それだけリスクがあるなら、したくない。だけど、しないと意味がない。
ここで気付いた。私に冤罪がかけられた意味を。
レイラは知ってたんだ。私を暗殺者として成長させる意味を。やり方を。
「ティア。ティアなら。レイラの動きを知ってたんじゃない?」
「うん。知ってるよー」
「私に冤罪がかけられた時。いや、その前。私がレイラと勝負して負けた時。あれから――全て始まってたんだね……」
「そうだね……」
途中でセリン、シリルと別れ、私たちは三人部屋へ入った。ティアも一緒に寝ると言ったがさすがにベッドが足りない。
するとティアは身体のサイズを小さくして、無理やりねじ込んでくる。ギリギリ四人。
これで少し寝たあと、私は作戦を決行すると決めた。
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