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動物すら殺せない公爵令嬢の暗殺者ですが、神様のイタズラで勇者護衛を任されました。魔王討伐をお願いされたけど、正直難しいです  作者: 八ッ坂千鶴
第5章 暗殺者として

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第44話 私のヘカート

 ◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇


 リザークに部屋を案内され、私は今まで訪れた場所の中で一番広い場所にいた。絶対悪だと思っていたリザークはとても温和で優しい人。


 私に考える時間をくれた。私たちに寝る場所を用意してくれた。なのに、いずれは私が殺す敵。


「ミカエラ大丈夫?」


 メウスが私に声をかけてくる。こちらとしては、あまり話しかけてほしくなかった。


 今私は、最大の迷いを抱えている。こんな優しくしてくれて、居場所まで作ってくれて。そんなリザークの命なんて奪いたくない。


 だけど、暗殺者として認められたい。いくら聖女の私でもやれないことはない。やろうとしないからできないんだ。


「メウス。エレン。少しだけ……」


「うん」


 とエレン。


「わかったよ」


 メウスも小さく頷き部屋から出た。今手元にあるヘカート。私はその銃身をメウスが置いていった柔らかい布で拭く。


 銃磨きをするのは何日ぶりだろう。最後に触ったのはセリンの工房を出る時。それ以降は拳銃を持っていた。


 どうも拳銃には愛情すら湧かず、磨くことすらしなかった。私にはこのヘカートしかない。


 一人取り残され、きゅっきゅという拭く音だけが反響する。


「ミカエラ」


「え?」


 この部屋には誰もいない。だけど、誰かが私の名前を呼ぶ。瞬間手に持つ銃が宙に浮いた。


 神々しく光ると球体になり、人の形に変化する。


「いつもあたしのことを磨いてくれてありがとね」


「ヘカート……?」


 姉のレイラよりも長い膝下まで伸びた黒髪。白いメッシュが複数入っていて。私と同じ白のワンピースを着ている。


「うん。キミのヘカートだよ。名乗るなら、ティアかな?」


「ティア?」


「うん! あたしの名前!」


「だけど、なんでティアが私に?」


「それはね。誰よりもミカエラのことを知ってるからだよ」


「……」


 ティアは私の隣に座る。長く身体を伸ばすと、ベッドに倒れこんだ。


「ミカエラってさ。優しすぎるよねー」


「うん。自分でもどうしてこんな性格なんだろって」


「そっかー。あたしは一人じゃなにもできないけど。あ、これはみんな一緒か! きゃは!」


「あはは」


「笑った笑った。あたしは、昔からミカエラを見ていたからね。キミのことはなんでも知ってるよ」


 ティアは身体をくねくねさせて、寝転んだまま運動をする。彼女はまるで妹のような存在だった。


 前世も現世でも、私には妹がいない。そんな私に妹ができた気がした。


「ねぇティア。ティアは私といて楽しい?」


「楽しいよ。いつもあたしを綺麗にしてくれるし。正直もっと出番を作ってほしいくらいだけどね」


「出番?」


「だって。ミカエラったら、あたしを活躍させてくれないんだもん!」


「でも……。ティアを汚したく……」


「あたしを汚したくないって思いで使わないなんて、あたしが泣くよ! うぇーん!」


 ティアは顔をぐちゃぐちゃにして泣き出した。物を大事にする。それは、大事に使うことということを思い出させてくれる。


 綺麗に汚す。それこそが大事に使うということ。私は前世でもヘカートは飾りで、銃磨きをしても使わない。


 いや、使えなかった。


「わかった。ティア。ティアのこと、教えて」


「あたしのこと?」


「そう。ティアをもっと活躍させたい。ティアを喜ばせたい」


「きゃは。それならもちろん!」


 私はティアの手を握る。すると、彼女はまた光に包まれた。銃の形に戻った直後、部屋の扉が勢いよく開く。


「ミカエラ!」


「ミカエラさん!」


「な、なに? メウスも、エレンも」


 突然入ってきた二人。私がティアを――ヘカートをベッドに置いて部屋を出る。


「――ちょっと、あたしを置いていかないでよ!」


「っ!?」


 ティアに呼ばれた気がして私は部屋に戻りヘカートを回収する。


「ミカエラ。様子おかしいけど……」


 メウスが言った。


「大丈夫。それでどうかしたの?」


「うん。リザークが重篤な状態に……」


「それも、一旦リセットしないとって話です!」


「リセット?」


 二人とも曖昧な情報しか言わない。これでは私が理解できない。


「不死身に近いリザークだけど、彼にも寿命がある。リザークは特殊でね……。百の命を持ってるんだ」


 メウスの話を聞きながら、リザークの部屋へ向かう。


「そして、今彼には八十九の命がある。命の寿命が尽きれば一度死んで、再生を繰り返す」


「で、今のリザークの命の灯が消えようとしているってわけです!」


 だから、リザークは暗殺者育成に協力しようと言った。これで全てに合点がいく。


「私がリザークの命を奪う。その奪えるタイミングを、教えてくれただけ」


「そうなるね……」


「ですね……」


 私はヘカートを強く抱いた。人の体温のような温かさ。ティアを私が持っている。


「私やるよ。人を殺すこと。それが一種の救済に繋がるのなら」


「迷い消えたみたいだね」


「うん。それも、全部このヘカートのおかげだよ」


「『ヘカート?』」


 二人が同時に問いかける。そういえば、二人にティアを紹介してなかった。


「うん。ティア、出て来ていいよ」


「わかった!」


 私はヘカートを投げる。すると、一瞬で人の姿になった。


「初めまして、あたしはティア。メウスお兄ちゃん、エレンお兄ちゃん、よろしくね!」


「『かわいい……』」


 たった少しの挨拶だけでメウスたちをイチコロにするティア。恐るべし。


「ミカエラー。ここはあたしに任せて!」


「任せるって……」


「もう一度銃になるから、今から言う詠唱句を言ってほしいの」


「ティアさん。先に現場を見に行った方がいいですよ」


 エレンがアドバイスをすると、ティアはしょぼんとした表情をする。


「わかった。あたし我慢する」


「了解。みんな急ぐよ!」


 私の合図で走ってリザークの部屋へ向かった。そこでは、胸を押さえながら苦しむリザークがいた。

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次回、リザークの現状はものすごく最悪!? 



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