第44話 私のヘカート
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
リザークに部屋を案内され、私は今まで訪れた場所の中で一番広い場所にいた。絶対悪だと思っていたリザークはとても温和で優しい人。
私に考える時間をくれた。私たちに寝る場所を用意してくれた。なのに、いずれは私が殺す敵。
「ミカエラ大丈夫?」
メウスが私に声をかけてくる。こちらとしては、あまり話しかけてほしくなかった。
今私は、最大の迷いを抱えている。こんな優しくしてくれて、居場所まで作ってくれて。そんなリザークの命なんて奪いたくない。
だけど、暗殺者として認められたい。いくら聖女の私でもやれないことはない。やろうとしないからできないんだ。
「メウス。エレン。少しだけ……」
「うん」
とエレン。
「わかったよ」
メウスも小さく頷き部屋から出た。今手元にあるヘカート。私はその銃身をメウスが置いていった柔らかい布で拭く。
銃磨きをするのは何日ぶりだろう。最後に触ったのはセリンの工房を出る時。それ以降は拳銃を持っていた。
どうも拳銃には愛情すら湧かず、磨くことすらしなかった。私にはこのヘカートしかない。
一人取り残され、きゅっきゅという拭く音だけが反響する。
「ミカエラ」
「え?」
この部屋には誰もいない。だけど、誰かが私の名前を呼ぶ。瞬間手に持つ銃が宙に浮いた。
神々しく光ると球体になり、人の形に変化する。
「いつもあたしのことを磨いてくれてありがとね」
「ヘカート……?」
姉のレイラよりも長い膝下まで伸びた黒髪。白いメッシュが複数入っていて。私と同じ白のワンピースを着ている。
「うん。キミのヘカートだよ。名乗るなら、ティアかな?」
「ティア?」
「うん! あたしの名前!」
「だけど、なんでティアが私に?」
「それはね。誰よりもミカエラのことを知ってるからだよ」
「……」
ティアは私の隣に座る。長く身体を伸ばすと、ベッドに倒れこんだ。
「ミカエラってさ。優しすぎるよねー」
「うん。自分でもどうしてこんな性格なんだろって」
「そっかー。あたしは一人じゃなにもできないけど。あ、これはみんな一緒か! きゃは!」
「あはは」
「笑った笑った。あたしは、昔からミカエラを見ていたからね。キミのことはなんでも知ってるよ」
ティアは身体をくねくねさせて、寝転んだまま運動をする。彼女はまるで妹のような存在だった。
前世も現世でも、私には妹がいない。そんな私に妹ができた気がした。
「ねぇティア。ティアは私といて楽しい?」
「楽しいよ。いつもあたしを綺麗にしてくれるし。正直もっと出番を作ってほしいくらいだけどね」
「出番?」
「だって。ミカエラったら、あたしを活躍させてくれないんだもん!」
「でも……。ティアを汚したく……」
「あたしを汚したくないって思いで使わないなんて、あたしが泣くよ! うぇーん!」
ティアは顔をぐちゃぐちゃにして泣き出した。物を大事にする。それは、大事に使うことということを思い出させてくれる。
綺麗に汚す。それこそが大事に使うということ。私は前世でもヘカートは飾りで、銃磨きをしても使わない。
いや、使えなかった。
「わかった。ティア。ティアのこと、教えて」
「あたしのこと?」
「そう。ティアをもっと活躍させたい。ティアを喜ばせたい」
「きゃは。それならもちろん!」
私はティアの手を握る。すると、彼女はまた光に包まれた。銃の形に戻った直後、部屋の扉が勢いよく開く。
「ミカエラ!」
「ミカエラさん!」
「な、なに? メウスも、エレンも」
突然入ってきた二人。私がティアを――ヘカートをベッドに置いて部屋を出る。
「――ちょっと、あたしを置いていかないでよ!」
「っ!?」
ティアに呼ばれた気がして私は部屋に戻りヘカートを回収する。
「ミカエラ。様子おかしいけど……」
メウスが言った。
「大丈夫。それでどうかしたの?」
「うん。リザークが重篤な状態に……」
「それも、一旦リセットしないとって話です!」
「リセット?」
二人とも曖昧な情報しか言わない。これでは私が理解できない。
「不死身に近いリザークだけど、彼にも寿命がある。リザークは特殊でね……。百の命を持ってるんだ」
メウスの話を聞きながら、リザークの部屋へ向かう。
「そして、今彼には八十九の命がある。命の寿命が尽きれば一度死んで、再生を繰り返す」
「で、今のリザークの命の灯が消えようとしているってわけです!」
だから、リザークは暗殺者育成に協力しようと言った。これで全てに合点がいく。
「私がリザークの命を奪う。その奪えるタイミングを、教えてくれただけ」
「そうなるね……」
「ですね……」
私はヘカートを強く抱いた。人の体温のような温かさ。ティアを私が持っている。
「私やるよ。人を殺すこと。それが一種の救済に繋がるのなら」
「迷い消えたみたいだね」
「うん。それも、全部このヘカートのおかげだよ」
「『ヘカート?』」
二人が同時に問いかける。そういえば、二人にティアを紹介してなかった。
「うん。ティア、出て来ていいよ」
「わかった!」
私はヘカートを投げる。すると、一瞬で人の姿になった。
「初めまして、あたしはティア。メウスお兄ちゃん、エレンお兄ちゃん、よろしくね!」
「『かわいい……』」
たった少しの挨拶だけでメウスたちをイチコロにするティア。恐るべし。
「ミカエラー。ここはあたしに任せて!」
「任せるって……」
「もう一度銃になるから、今から言う詠唱句を言ってほしいの」
「ティアさん。先に現場を見に行った方がいいですよ」
エレンがアドバイスをすると、ティアはしょぼんとした表情をする。
「わかった。あたし我慢する」
「了解。みんな急ぐよ!」
私の合図で走ってリザークの部屋へ向かった。そこでは、胸を押さえながら苦しむリザークがいた。
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次回、リザークの現状はものすごく最悪!?




