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動物すら殺せない公爵令嬢の暗殺者ですが、神様のイタズラで勇者護衛を任されました。魔王討伐をお願いされたけど、正直難しいです  作者: 八ッ坂千鶴
第5章 暗殺者として

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第43話 大魔王イメージ崩壊

「それで、リザーク。暗殺者育成って?」


「ふむ。レイラが妹を呼んだと言ってだな……。銀髪金眼――」


 リザークはその視線をミカエラに向けた。銀髪金眼は魔族が一番嫌う。過去にもぼくは同じ見た目の人を連れてきた。


 彼女は勇者だった。だけど、ミカエラと一緒で命を大切にする人だった。


 名前は確かミレスだったはず。今頃別世界で生きている。それだけで胸が痛くなる。


「リザーク。ミカエラはたしかに暗殺者。だけど、彼女は聖女でもある。だからこそ、ぼくは彼女の手を血で汚したくない。せめて動物だけでいい。魔族なんて、殺してほしくない」


「珍しいな……。メウスはそこの女子(おなご)を壊したくないと……」


「はい」


 ぼくは言いたいことを言った。あとはミカエラの意見を聞けばいいだけ。


「その……。リザークさん?」


「なんだ?」


 ミカエラは少し遠回しのような質問の切り出し方をした。脈が速くなっていく。彼女がどう思ったのか。そこだけが気になってしまう。


「私はレイラを。お姉ちゃんを超えたいです」


「え?」


 ぼくは一瞬頭が真っ白になった。『お姉ちゃんを超えたい』。それは彼女が暗殺者としても活躍を目指すと同義。


 計算外の意見が出たことで、ぼくの言葉が帳消しになってしまった。


「私は、みんなに助けられてきた。メウスにも、エレンにも。セリンさんや、シリルさんにも助けてもらった。だから、今度は私が仲間を助けたい」


「ミカエラ……」


「メウス。ごめんね。期待に応えられなくて」


 ぼくは、彼女が何を考えているのか。それがわからなくなった。ミカエラの周囲に浮かぶ数字が、歪み始める。


 今のぼくでは、彼女を計算できない。それくらい、唯一無二の存在になった気がした。


「私が仲間のために動いたのは、仲間と食べる食料を用意するために兎狩りをした時だけ。他は全部仲間が助けてくれた」


 ミカエラは今までのことを振り返るように言葉を紡いでいく。そんな彼女を、ただ見守るだけしかできないぼく。


「ミカエラさん。ボクとしては、メウスさんと同意見です。ボクが現役勇者だった時も、暗殺者がいました。男性ではありましたが、神殺しの剣を握ったあと、暴走し断罪を受けました」


「え?」


「銃を持ってここまで来たとしてもミカエラさんが正気でいられるか。きっとメウスさんはその部分を心配してくれているのだと思います」


 シリルの意見はぼくがミカエラに伝えたかったことそのままだった。


「ミカエラさん。いくらリザークさんが協力するといっても、簡単に乗ってはいけません。一つ間違えると必ず失敗します」


「そうだ。シリルもいいこと言うじゃねぇか」


「そうでしょうか? セリンさんも言いたいことを伝えた方がいいと思いますよ?」


 シリルはセリンに一言求めたが当の本人は興味がないのか無言を貫く。


 ふと、ぼくはエレンがゼノン・レグスレイブに手を乗せているのが目に入った。


「僕も。ミカエラさんには他人の命を奪ってほしくないです。だけど最終的に決めるのは自分自身。いくらリザークさんの命がたくさんあるとしてもミカエラさん自身の意思で……」


 それはリザークの前で言わない方がいい気もするけど、リザークは終始頷いて聞いていた。


「ミカエラ。仲間の言葉を聞いて、このオレ様をどうしたいと思った。引き返すなら今だぞ!」


「それは……」


 彼女の数字が歪になっていく。もう、文字という文字が一つもない。


「ミカエラ。本当にする気なの?」


 もうミカエラの心が壊れかけているのは、誰でもわかることだと思う。


 暗殺者とはそういうものだ。メンタルが弱い人ほど、闇に埋もれていく。


 ぼくが選んだわけでもない、彼女の人生。だけど、彼女は最大の迷いに直面している。ぼくには彼女を止める権利がない。


「ミカエラさん……」


 エレンが小さな声で囁くように言う。それが、ものすごく重く感じた。


 エレンとミカエラは同い年。だけど、二人の役目は違う。エレンはいずれ勇者になる。それでも、ミカエラは後戻りができる暗殺者。


 ミカエラがどのような判断をするか。それは本人にしかわからない。本当の気持ちに口出しなんかできない。


「もう少し……考えさせてください……」


 そう言って、ミカエラは少し肩をすくめて黙り始める。


「考えも無しに超えるなんて、言わない方がいいよ」


「うん……」


 ミカエラはまだ九歳だ。まだ自分の意思決定に確信が持てないのだろう。


「とりあえず。リザーク。ミカエラを休ませる場所。用意して」


「了解した」


「ありがと」


 リザークが戦闘辞退の指示を出す。入口で大きな足音が聞こえ同時にアダムが入ってきた。


「アダムせんぱーい!」


「しょうもないな……。我に戦わせておいて、言葉で終結させるとは……」


「ごめん! リザークもぼくの友達なの忘れてたー!」


「は?」


 とりあえずアダムを混乱させたところで魔法を使う。無詠唱の麻痺魔法パリス。アダムにはこれがよく効く。


 別に魔族側についたわけではない。詮索されるのが嫌だから発動した。


「リザーク。城を案内して」


「ああ……」


 リザークは浮遊状態になると移動を開始する。彼は昔から足が悪い。だから、ぼくが浮遊魔法を開発して教えた。


 ちなみに、リザークはぼくの幼馴染。彼は魔族と契約をしたことで、頭に角がある。


 これは昔ミカエラにも。いや美香にも言った。魔族も元々は人間であると。


 城の離れに移動したぼくたちは、それでも大きな建物に絶句した。


 ぼくが渡したお金で新しく建てたのだろう。まだ新築で埃一つない。しかも、これはゼレスリシアの王城モチーフというのがバレバレだ。


 中に入ると、紫色の絨毯。部屋は入ってすぐにあった。


「ミカエラの部屋はここだ。そういえば、メウスはミカエラのことを気に入っていると風の噂で聞いたが……」


「うん! ちなみにエレンもミカエラのこと好きだよ!」


「そうか。なら、三人用ベッドを用意せねばな……」


 リザークは光の粒子を操り新しいベッドを用意する。かなり気が利くサービスだ。


「これでいいだろう。オレ様を殺したいならいつでも歓迎する。だが、自分の道を踏み外すでないぞ。ミカエラ」


「わかりました……」


 リザークはとても優しい。どんなことにも付き合ってくれる。きっとまた、アダムに怒られるんだろうな……。

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