第29話 ベルンライト公爵家
翌日。朝起きるとメウスとアダムが会話をしていた。少しだけ、盗み聞きさせてもらうことにする。
「メビウス。本当に和解で済ませたのか?」
「うん。ぼくには殺せなかった。殺したとしても、代替わりしてまた反乱する。だから、殺さなかった」
「言葉が矛盾しているが……」
「だね……。ぼくは……あれ?」
どうやら見つかってしまったらしい。私は隠れるのをやめて、二人の前に出る。そして、焚き火の周りに座る。
「メウス。もう思い出さなくていいよ。自分を責めるだけになるから」
「そうだね。アダム先輩。この話は天界の方で話そ。その方がいいから」
「了解した」
そこまで終わると、他のテントからみんなが起きてくる。全員揃ったところで、テントの撤去作業。朝食を食べ、再び歩き始める。
しばらくして、遠くに家が見えてきた。私の家よりも数倍大きい。
「あれが、僕の家です。ちょっとこの人数は多いので、聞いてきますね」
「ありがとうエレン」
エレンが家に入っていく。問題なのは、犯罪者扱いされている私を、受け入れてくれるか。それだけが、心配だった。
やがてエレンが戻ってくる。両手で大きく丸を描き、許可が出たことを伝えてくれた。
「入りましょう」
「はい」
私たちは順番にエレンの家へ入った。部屋は人数分あるようで、問題ないそうだ。私は嬉しくなって、自室になる場所へ移動する。
「ミカエラ。挨拶」
メウスが私を引き止めた。四階建ての屋敷は私の家よりも単純でわかりやすい。一階に降りてエレンの両親に挨拶をする。
「初めまして、ミカエラ・シャーロットです。ちょっと今色々な事情があって、髪の色を変えてますけど。普段は銀髪です」
「ようこそ、ミカエラさん。話は聞いてるよ」
「良かったです」
「わたしはアイナ・ベルンライト。エレンの母です」
アイナはエレンと同じ亜麻色髪の女性。ほっそりとしている華奢なエレンとは違い、横に少しだけ広い小太りな人だった。
「エレン。いい友を作ったみたいだね。良かった」
「はい! お母さん!」
ここは敬語を使わないのか。私の家庭が異常な気がしてきた。エレンはアイナに抱きつく、その表情は子供らしい顔だ。
「アイナさん。アルバス国王は?」
私は彼女に聞いてみる。すると、自室にいると言われた。アルバスも時々家に帰省しているようで、自分の部屋があるようだ。
エレンに案内されて、アルバスの部屋に移動する。後ろには一緒に来たメンバー全員がぞろぞろと歩いている。
メウスは廊下の装飾が気になるのか、時々止まってじっくり見つめていた。それをすぐ隣でするのだから、私が歩幅を合わせる状態に。
「メウス。そういうの好きなのはわかるけど、後ろがつっかえてるよ」
「ごめん……。なんか自分は弱くなった気がして……。気を散らすために見てただけ……」
「そう」
メウスの自信がどんどん低下している。今までの過剰さはどこへやら。こちらまで心配になってしまう。
先頭を歩くエレンがピタリと止まる。両サイドには木製の扉が二つ。右側の扉をノックすると、ドアが開いた。
「おお、エレンか」
顔を出したのは、本物のアルバス国王。図体は大きいけど、それだけ幸せを蓄えているのかもしれない。
「アルバス王。昨日はぼくの意見を聞いていただきありがとうございました」
「礼をありがとう。メウス殿。それと、シリル騎士団長。ミカエラお嬢を含め、全員の避難見事だった」
「ありがたきお言葉。光栄です」
とりあえずの自己紹介と近況報告を済ませ、私たちはアルバスの部屋に入る。部屋は一人分にしては広すぎる大きさだった。
壁には風景画。アルバスの肖像画まで飾られていて、チェストには花瓶が置かれている。ベッドも一人で寝るには大きいサイズだ。
「アルバス国王。ここは一人で使っているんですか?」
「左様。時々エレンが一緒に寝たいと言うから、ベッドはトリプルベッドになっておる。エレンの寝相の悪さには笑いしかでないわ」
アルバスは上機嫌だった。それが逆効果になったのか、メウスが崩れ落ちる。
「メウス?」
「え、っと……」
「本当に大丈夫なの?」
「じゃないかも……。倦怠感が……。酷い……」
私はエレンに空いてる部屋を尋ねた。すぐにアイナが駆けつけ、メウスを別の部屋へ移動させる。
その後はすぐに寝たようで、常駐しているらしい医者に聞くと、過度の疲労と診断された。
メウスは神であっても若い方だとアダムが補足を加える。体力を過信していたのかもしれない。
「アダムさん。メウスは……」
「あの者はよく無茶をする馬鹿でな……。我の監視対象にも含まれている。だけど、逃げ足早く厄介な若者だ。どうしようもできん」
「そうなんですね……。今なら触れる……かな?」
「やめた方がいい。ミカエラにはまだ魔族の残滓が見える。今触れれば、睡眠の邪魔にもなるだろう」
「そうですよね」
私はアルバスの部屋から出て、リビングに移動する。そこにはアイナが料理を作っていた。今日のお昼ご飯になるらしい。
メウスにはお粥が提供されることなった。ベルンライト領は農村地帯が少ないが、稲作が盛んらしい。
そのため主食も米が多いとのこと。そして、異世界には珍しく梅林もあり、梅干しも作っているとのこと。つまり、基本が日本食になる。
「エレン。メウスさんにこのお粥と梅干しを持って行ってやって」
「はい! お母さん!」
エレンがメウスのお昼を運ぶ。不安なので、私も着いていくことにした。エレンの両手が塞がっているので、ドアは私が開ける。
そこには、短い睡眠を終えたメウスが空腹なのかぐったりしていた。エレンの指示で可動式チェストを移動させ、料理を置く。
「エレン。これは?」
「お粥と梅干しだよ。僕の大好きな組み合わせ」
「お粥と梅干し……。いただきます……」
メウスは先に梅干しを口へ入れた。酸っぱいのか、表情が面白いほど窄む。笑いを堪えようと思ったが無理だった。
「ミカエラ。なんで笑ってるの!?」
「だって、その梅干し塩吹いてるから。普通はお粥に入れて、塩分を飛ばしてから最後に食べるのが……あはは!」
「ミカエラさん。大正解です……」
エレンの共感を他所に、メウスはお粥を食べ始める。味がちょうど良かったのか、完食してくれた。
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