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暗殺者なのに動物すら殺せない公爵令嬢ですが、神様のイタズラで勇者の護衛を任されました。魔王討伐をお願いされましたが、正直難しいです  作者: 八ッ坂千鶴
第3章 王都にて

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第29話 ベルンライト公爵家

 翌日。朝起きるとメウスとアダムが会話をしていた。少しだけ、盗み聞きさせてもらうことにする。


「メビウス。本当に和解で済ませたのか?」


「うん。ぼくには殺せなかった。殺したとしても、代替わりしてまた反乱する。だから、殺さなかった」


「言葉が矛盾しているが……」


「だね……。ぼくは……あれ?」


 どうやら見つかってしまったらしい。私は隠れるのをやめて、二人の前に出る。そして、焚き火の周りに座る。


「メウス。もう思い出さなくていいよ。自分を責めるだけになるから」


「そうだね。アダム先輩。この話は天界の方で話そ。その方がいいから」


「了解した」


 そこまで終わると、他のテントからみんなが起きてくる。全員揃ったところで、テントの撤去作業。朝食を食べ、再び歩き始める。


 しばらくして、遠くに家が見えてきた。私の家よりも数倍大きい。


「あれが、僕の家です。ちょっとこの人数は多いので、聞いてきますね」


「ありがとうエレン」


 エレンが家に入っていく。問題なのは、犯罪者扱いされている私を、受け入れてくれるか。それだけが、心配だった。

 

 やがてエレンが戻ってくる。両手で大きく丸を描き、許可が出たことを伝えてくれた。


「入りましょう」


「はい」


 私たちは順番にエレンの家へ入った。部屋は人数分あるようで、問題ないそうだ。私は嬉しくなって、自室になる場所へ移動する。


「ミカエラ。挨拶」


 メウスが私を引き止めた。四階建ての屋敷は私の家よりも単純でわかりやすい。一階に降りてエレンの両親に挨拶をする。


「初めまして、ミカエラ・シャーロットです。ちょっと今色々な事情があって、髪の色を変えてますけど。普段は銀髪です」


「ようこそ、ミカエラさん。話は聞いてるよ」


「良かったです」


「わたしはアイナ・ベルンライト。エレンの母です」


 アイナはエレンと同じ亜麻色髪の女性。ほっそりとしている華奢なエレンとは違い、横に少しだけ広い小太りな人だった。


「エレン。いい友を作ったみたいだね。良かった」


「はい! お母さん!」


 ここは敬語を使わないのか。私の家庭が異常な気がしてきた。エレンはアイナに抱きつく、その表情は子供らしい顔だ。


「アイナさん。アルバス国王は?」


 私は彼女に聞いてみる。すると、自室にいると言われた。アルバスも時々家に帰省しているようで、自分の部屋があるようだ。


 エレンに案内されて、アルバスの部屋に移動する。後ろには一緒に来たメンバー全員がぞろぞろと歩いている。


 メウスは廊下の装飾が気になるのか、時々止まってじっくり見つめていた。それをすぐ隣でするのだから、私が歩幅を合わせる状態に。


「メウス。そういうの好きなのはわかるけど、後ろがつっかえてるよ」


「ごめん……。なんか自分は弱くなった気がして……。気を散らすために見てただけ……」


「そう」


 メウスの自信がどんどん低下している。今までの過剰さはどこへやら。こちらまで心配になってしまう。


 先頭を歩くエレンがピタリと止まる。両サイドには木製の扉が二つ。右側の扉をノックすると、ドアが開いた。


「おお、エレンか」


 顔を出したのは、本物のアルバス国王。図体は大きいけど、それだけ幸せを蓄えているのかもしれない。


「アルバス王。昨日はぼくの意見を聞いていただきありがとうございました」


「礼をありがとう。メウス殿。それと、シリル騎士団長。ミカエラお嬢を含め、全員の避難見事だった」


「ありがたきお言葉。光栄です」


 とりあえずの自己紹介と近況報告を済ませ、私たちはアルバスの部屋に入る。部屋は一人分にしては広すぎる大きさだった。


 壁には風景画。アルバスの肖像画まで飾られていて、チェストには花瓶が置かれている。ベッドも一人で寝るには大きいサイズだ。


「アルバス国王。ここは一人で使っているんですか?」


「左様。時々エレンが一緒に寝たいと言うから、ベッドはトリプルベッドになっておる。エレンの寝相の悪さには笑いしかでないわ」


 アルバスは上機嫌だった。それが逆効果になったのか、メウスが崩れ落ちる。


「メウス?」


「え、っと……」


「本当に大丈夫なの?」


「じゃないかも……。倦怠感が……。酷い……」


 私はエレンに空いてる部屋を尋ねた。すぐにアイナが駆けつけ、メウスを別の部屋へ移動させる。


 その後はすぐに寝たようで、常駐しているらしい医者に聞くと、過度の疲労と診断された。


 メウスは神であっても若い方だとアダムが補足を加える。体力を過信していたのかもしれない。


「アダムさん。メウスは……」


「あの者はよく無茶をする馬鹿でな……。我の監視対象にも含まれている。だけど、逃げ足早く厄介な若者だ。どうしようもできん」


「そうなんですね……。今なら触れる……かな?」


「やめた方がいい。ミカエラにはまだ魔族の残滓が見える。今触れれば、睡眠の邪魔にもなるだろう」


「そうですよね」


 私はアルバスの部屋から出て、リビングに移動する。そこにはアイナが料理を作っていた。今日のお昼ご飯になるらしい。


 メウスにはお粥が提供されることなった。ベルンライト領は農村地帯が少ないが、稲作が盛んらしい。


 そのため主食も米が多いとのこと。そして、異世界には珍しく梅林もあり、梅干しも作っているとのこと。つまり、基本が日本食になる。


「エレン。メウスさんにこのお粥と梅干しを持って行ってやって」


「はい! お母さん!」


 エレンがメウスのお昼を運ぶ。不安なので、私も着いていくことにした。エレンの両手が塞がっているので、ドアは私が開ける。


 そこには、短い睡眠を終えたメウスが空腹なのかぐったりしていた。エレンの指示で可動式チェストを移動させ、料理を置く。


「エレン。これは?」


「お粥と梅干しだよ。僕の大好きな組み合わせ」


「お粥と梅干し……。いただきます……」


 メウスは先に梅干しを口へ入れた。酸っぱいのか、表情が面白いほど窄む。笑いを堪えようと思ったが無理だった。


「ミカエラ。なんで笑ってるの!?」


「だって、その梅干し塩吹いてるから。普通はお粥に入れて、塩分を飛ばしてから最後に食べるのが……あはは!」


「ミカエラさん。大正解です……」


 エレンの共感を他所に、メウスはお粥を食べ始める。味がちょうど良かったのか、完食してくれた。

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次回。メウスの過去話

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