第28話 初の狩りの味と和解の過去
私はセリンから貰った拳銃を持つ。私の小さな手にギリギリ収まるくらいのグリップ。みんなが見守る中、銃を構える。
ウサギは動きが速い。そして、停止時間が短い。止まっているタイミングを狙い仕留める。
だけど、詠唱句を言おうとしても家族が悲しむのではと深読みをしすぎてしまう。これだから私は狩りができない。
「ミカエラ……」
メウスがもう一度私の名前を呼ぶ。それは、私の背中を押すように、温かい声。誰かが私の肩に触れる。振り向くとエレンが手を乗せていた。
「ありがとう……。私が頑張らないと……だよね……」
「ううん。無理する必要はないよ。初めて会った時。ミカエラさんは言ってたましたよね。自分で限界を作らない方がいいって」
「うん……」
「今、逆の立場になってると思いませんか? ミカエラさんは、今自分の壁に当たっている。それが、限界を自分で作っていると」
エレンの言葉には、微かに説得力があった。そうだ、私は殺したくないという自分の限界を作ってしまっている。
それでは、狩りなんてできない。できる自分を想像する。それだけで、目元が熱くなる。焦点が合わない。
「深呼吸……して?」
「っ!?」
――『気持ちを整えないと、プレイヤーが逃げる。だから、今は撃つことだけに集中しろ』
(お兄ちゃん……)
グリップを握る手から光が漏れる。そして、私に力を与えてくれる。エレンの言葉と前世の兄の言葉が重なった。
「メルスト シャフロム レイネス」
魔法を唱える。銃口を上に向け、全魔力を注ぎ込む。メウスを治療する際、魔力の大半を使ってしまった。
それでも、シリルがくれたものが少しだけ残っている。魔力を使って放った弾丸は、集団行動をするウサギ当たった。
「シリルさん。セリンさん。エレン。アダムさん。回収お願いします」
「承知しました」「『了解!』」
私が指名したメンバーが仕留めたウサギを取ってくる。それを、私が捌いて焚き火で焼いた。火加減はメウスが見ると言ってくれたので、一任させる。
焼けたウサギ肉はあまり美味しくなかった。それでも、五匹分ペロリと食べてしまうエレンは異常に見えてしまう。
「エレンは味とか気にしないの?」
「あまり気にしないかな? 美味しければそれでよしって感じ。食べられるものならなんでも食べます」
どうやら変な理屈で生きているらしい。そういう彼は、六匹目のウサギ肉に手をつけようとしている。
そこら辺にいた家族のウサギだけを避けての攻撃。孤立しているウサギを五十ほど捕らえたので、まだ余裕はある。だけど……。
「メウス食べないの?」
食欲がないのかメウスだけが一口も手をつけてなかった。対するアダムはそれなりに食べている。
「なんかね……。動物が好きで、人間が好きで……。そんな君が狩りをした命を、ぼくが食べるのが嫌で……」
「でも、神でもお腹は空くんでしょ? 食べないと」
「ごめん。今日は……」
そんな時、彼のお腹が鳴った。本当は我慢しているのかもしれない。普段の私がしないことを、私が自分の手で行った。
それが、彼は許せないのかもしれない。私は、捌いている最中のウサギ肉を手に取った。火属性の魔法を使ったからか、毛が焼け焦げている。
まずはその毛皮を剥いだ。鮮やかな桃色をした肉。それを、各パーツに分ける。
自分で焼いて、みんなに分け与えているメウスが食べないなんて私が許さない。
「メウス。確かナイフもう一つあったよね!」
「な、なに……いきなり……」
「火の面倒はセリンさんにお願いして、メウスも自分で捌いて」
「ッ!?」
私はメウスの荷物を漁る。そこから刃渡り数十センチのナイフを取り出し、メウスに渡した。
「な、なんでぼくが……」
「そうでもしないと食べないと思ったから。私がせっかく食料調達したのに、それを食べないで痩せ我慢するなんて、私が絶対許さない!」
この言葉に全員の視線が私に集まる。みんなもメウスが食べないことに、不安を感じていたんだと思う。
「……わかったよ」
ようやく折れてくれたメウス。私は少し大きめなウサギをメウスに渡した。彼のナイフ捌きはものすごく的確で丁寧。
血を撒き散らすことなく綺麗に仕上げた。メウスが捌いているところを見るのは初めて。ここまで上手くできるのなら……。
「メウスは、捌くのって……」
「久しぶりだよ……。だけど……」
メウスは言葉を曇らせる。なにか嫌な思い出でもあるのだろう。詮索するのは良くないと思ったけど、彼の方から続ける。
「ぼくの両親は酪農家でね。乳牛から肉牛まで育ててたんだ。加工業もしてた。そこで、牛の捌き方を覚えた」
「うん」
「だけど、捌いているのが普通の家庭で、だんだん嫌になってきたんだ。きっかけは、ぼくに勇者の天職が来たから」
メウスは顔を沈ませながら話す。ポトリ、ナイフが落ちた。
「ぼくは、動物だけじゃなくて、同じ人である魔王を殺す職に就いた。だけど、人を殺すなんて、ぼくにはできなかった。ほとんどを交渉で和解に繋げた」
その過去に一緒にいるメンバーは真剣になって耳を傾ける。それは、メウスの上司であるアダムでさえも。
火が小さくなる。セリンが木をくべて火力を上げた。メウスが焼くための棒にウサギ肉を括り付け、焼き始める。
「ぼくは、ミカエラと同じだった。動物の加工業だったのは、ぼくがそんな家庭に生まれたからだけど。ぼくはそこで生活していく中で捌くことを躊躇った。君はいずれ魔王を殺すことになる。だけど、それはぼくが乗り越えられなかったことだ。君が確実にできる保証はどこにもない。なぜなら――」
「うん」
「君は、ぼく以上に優しくて純粋だから。穢れひとつない。純白の心をしているから」
その言葉は、私の芯までズンと重くのしかかった。メウスはそこまで私のことを心配して、観察して。
私が本当にすべきこと、それが大きく揺れた気がした。一定のリズムで揺れない振り子。それがどこかにあるようで……。
その日の夜は眠れなかった。きっと、昼間に沢山寝てしまったから。だけど、そんな感じは、何一つないようにも感じている。
このモヤモヤは一体なんだろうか。私はただそれに囚われている感覚で星空を眺め一夜を過ごした。
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