第20話 神の権限
「上級階級第三位――より命ずる」
メウスが怒り混じりにそう言った。隣で私にしがみつくエレンは、少し驚いた顔をしている。
せっかく王都まで歩いてきたのに、私たちは足止めを食らってしまったからだ。
このような状況が出来上がったのには。今から数十分ほど遡る。
***数十分前***
「ついに着いたねぇ」
メウスが嬉しそうにそう言った。通常十日はかかるのを五日で踏破したのだから、疲れもそれなりに溜まっている。
「ここまで長いようで短かったですね」
「そうだね。エレンは疲れてない?」
「まあ……。それなりに疲れてるかな? 早くふかふかのベッドで寝たい……!」
「それぼくも同感!」
二人は楽しそうに私の数歩前を歩く。いつの間にか二人は、互いを呼び捨てする仲になっていた。
改めて、王都の中央を見上げる。中心には大きな城があって、真っ白で清潔感のある壮大さに満ちていた。
「じゃあ。入国手続きをしに行こうか」
「入国手続き?」
「うん。王都に入るには全員の血判が必要なんだ」
メウスはそう言いながら、門番に話しかける。その会話はスムーズそうに見えた。見えたんだけど……。
「ミカエラを入れられないってどういう事ですか!」
「その女性には、入国拒否命令が出されていますので……。原則銀髪金眼を入れぬよう指示がされております……」
何故か私だけが入れなくなっていた。メウスの怒りはここから始まる。だけど、門番も引き下がらなかった。
「最高指導者を呼んできて!」
「なりません……!」
「早く! 早く!」
メウスはできることを全部してくれた。私の特徴的な銀髪は、数少ない色のようで隠しようがない。
そして、メウスの怒りが最大値に達して……。
「こうなったら仕方ない……」
「ッ!?」
空気が一気に変わる。エレンは私にしがみつき、彼の手の冷たさを肌で感じた。そんな状況になっているのも知らず、メウスは続ける。
「上級階級第三位、メビウス・エル・デュクスより命ずる。彼の者の天職を剥奪し、即時ミカエラの入国拒否強制撤回、及び特殊権限による入国許可を要求する。以上を神の名に則り発動す」
その瞬間、兵士の装備が農民の服装に変わった。天職を奪われるとこうなるのかと、背筋が凍ってしまう。
私はメウスの本当の恐ろしさを見てしまった気がした。彼がここまで怒ると、容赦のなくひれ伏せさせる。
「はい。これでよし。これ血判を押す書類ね」
「ありがとう……ございます……」
別にそこまでしなくても良かったのに。そう思ってしまうのは何故だろうか。私とエレンはそれぞれ針を人差し指に刺す。
書類に判を押すと、入国許可授与と表示された。もちろんメウスもするようで、同様に人差し指に針を刺したのだが……。
「メウスさんの血。金色ですね……」
エレンが違和感を抱いたのか、メウスの血をジッと見つめている。たしか、私が貰った文通用の紙にも金色の指紋があった。
「それはね。神だからだよ」
「ミカエラさんが言ってたことって、本当だったんですね……」
「ミカエラ? ミカエラから聞いちゃったの?」
「はい」
余計なことを、口止めしておけば良かった。だけど、そこから二人は盛り上がっていく。ついには、私との境遇まで話し始めた。
少しして門が開き切る。私たちは門をくぐって、王都に入った。それだけで迷子になってしまいそうなくらい、店が並んでいる。
シャーロット領とは大きく違い、様々な人種が行き交う場所。それだけで、ワクワクが止まらなかった。
「広いですね……」
「ミカエラは王都初めてだったね」
「はい。お父様から王都の勉強もするようにと言われたんだけど……。メウスさんの本でお金吹き飛んでしまって……」
そうだ、本屋の管理人に勧められたメウスの本は金貨三十枚。そして、そもそも私は王都に関する本を見て来なかった。
少し歩くと耳が細長い長身女性が通り過ぎる。その身長は私の二倍はあるだろう、ものすごく細くスラッとした人。
「あれはエルフ族だね。ほら、あそこにはドワーフ族がいるよ」
メウスに説明してもらったら通り、彼が指差す方向を見る。そこにはエルフ族とは正反対の、低身長な男性が宝石を売っていた。
「ミカエラさん。ものすごく輝いてます」
「な、なにエレン?」
「いえ、なんでもないです」
かなり気になる言葉が出てきたけど、聞き攻めするのも良くない。私たちはさらに歩く。すると、武具屋が見えてきた。
犬の耳のようなものを生やした男性鍛冶師。これはいわゆる獣人族だろう。
ここは何もかもが初めてのことばかり。それだけで楽しくなる。
「ねぇミカエラ。あの獣人はセリンさんっていって、ぼくの知り合いなんだ。この前見せた拳銃も彼と一緒に作ったんだよ」
「つまり共作ってことですね」
「そー。多分だけど、君のヘカートはまだ強くなる気がする。セリンさんは銃の専門家でもあるから見て貰ったらどうかな?」
メウスに勧められて、私はセリンという男性獣人に話しかけることにした。日本には獣人なんていないので、これ自体が初体験。
セリンは最中剣を研いでいるところで、邪魔していいのか心配になる。だけど、話しかけないと意味がない。
「あの……」
「ん? なんか用か? 初めて見る顔だが……」
セリンはそう言って、私の顔をまじまじと見つめる。すると、誰かが私の肩に腕を載せた。
「ヤホーセリン!」
「メウスか……。今この小娘に……」
「ごめん。この子ぼくの大親友なんだ。ミカエラっていうんだよ。可愛いでしょ?」
「はぁ……。メウスは相変わらず人たらしだな……。どんどん他人を巻き込んできやがる……」
どうやらセリンにとっても迷惑な存在らしいメウス。私は肩に下げたヘカートを外し、セリンに渡した。
「これ、私が使ってる銃なんですけど……」
「なるほどな……。一日預かってもいいか?」
「お願いします」
メウスのおかげもあって、とりあえず銃を預けることができた。私たちは鍛冶屋を離れ、寝泊まりをする場所探し。
色んな宿泊施設を回ったが、どこにも空きはなかった。と、ここでエレンが切り出す。
「僕からの提案なんだけど……。僕のおじいちゃんの家で寝るのはどうかな?」
「いいですね」
こうして、寝る場所は決まったのだが……。エレンに案内されたのは、王都の中央に建つ王城だった。
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次回、エレンの祖父登場!




