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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第2章 森で出会った少年

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第17話 完璧なんて存在しない

 訓練が落ちついた頃。エレンは木陰で休んでいた。


 メウスはというと、お父様と話をしている。邪魔すると悪いので、エレンの隣に座った。


「エレン。大丈夫?」


「う、うん……」


「エレンって。頑張り屋さんなんだね。時間ギリギリまで素振りしてたし」


「でも……」


 エレンは頑張り屋。だけど、それがなかなか実らない。


 努力しても、本人の思う通りには行かないんだと思う。


 まるで、昨日までの私のようだ。踏み出したいのに踏み出せない。


 そんな、自分を信じたくても信じることのできない戸惑いが感じられる。


「エレン。困ってること。あるんでしょ?」


「なんで……?」


「なんとなく。そんな感じがした」


 私の推測にエレンが顔を上げる。


 その顔はとても暗かった。


「僕は今勇者養成学校に通っていて。だけど、いつも最下位で。担当のシリル先生は優しいけど。ダメで……」


 エレンは細々とした声で打ち明けてくれる。


 まるで、暗闇の中に取り残されているような状態だった。


「僕の家族は、完璧で。何もかもできて。だけど、僕だけ家族みたいにできなくて……。不器用で……」


「なーんだ。そんな悩みだったんだ」


「え?」


 エレンは驚愕の顔をする。私は話を続けた。


 完璧に見える家族でも、実は穴があるということ。


 全部が得意という人は存在しないということ。


 私は彼にヒントだけを与える。こういうのは自分で考えた方が早い。


「それは……。たしかに、僕のお母さんは料理を時々……。お父さんは勇者を目指してたみたいだけど、ダメで……」


「でしょ?」


 エレンは自分で答えを見つけた。これでいい。


 たったこれだけの気づきだけでも、大きく変わってくる。


 そこで、会話を終えたメウスが合流する。


「話は終わったんですね」


「うん一応ね。エレンさん。ミカエラ。ちょっと出かけない?」


「出かけるってどこに?」


「王都」


 そういえば、私は王都に一度も行ったことがない。


 メウスによれば、勇者養成学校は王都にあるらしい。


 提案は私のお父様。新しい世界を見てほしいとのことだった。


 しかし、両親の付き添いは不可。ということで、メウスが同行することに。


「エレンさんは王都に帰るのは……」


「二十日ぶりですね……」


「長いね……」


 そう言ってメウスが忽然と消える。どうやら神の世界に行ったらしい。


 取り残された私とエレンは、ただ戻ってくるのを待った。


 特に話す話題もなく数分。メウスが戻ってくると、どっさりと荷物が置かれた。


「メウスさん。それは……」


「とりあえず三十日分の食糧と、水。三人分の寝袋だね」


 簡単に持ち上げるので、彼の筋力が気になる。


 これは神の特権なのだろうか。ものすごく不思議だ。


「水はどれくらい入って……?」


 エレンがメウスに問いかける。するとメウスは……。


「三十日分だから、一リットルの水が全部で百五十本くらいかな」


「本?」


「あ、そうだった。エレンは現地人だから、ペットボトルの存在を知らないんだったね。ちょっと待って」


 メウスは荷物からペットボトルを取り出す。


 こんな世界にもあるとおもっていたけど、どうやら違うらしい。


 その証拠にエレンが目を丸くしていた。


「メウスさん。これは……。どうやって?」


「あはは。このキャップっていうのを回して。ほら開いた」


「す、すごい……。これはどういう仕組みで……?」


「わかんない」


 相変わらず使えないメウスだった。メウスは魔法で元の状態にすると、荷物の中に片付けた。


「じゃあ。お昼を食べて出発しようか」


「『はい!』」


 自宅に入り、昼食の席につく。


 今日のメニューは、メウスとエレンの好物。


 事前に聞いて、手作りしてもらった。


 メウスセレクトのかぼちゃの野菜シチュー。


 エレンセレクトのチーズナン。


 お昼からなんとなく重いメニューになってしまった。


「エレンってもしかして……」


「そう。週に二回は食べてた。飽きないんだ」


 すると、お母様が右手を口元に当てて。


「ふふふ。この子。華奢の割にものすごく食べるのよ」


 そう言う。さらに聞くと、チーズナンを食べる時間は朝が多いらしい。


 よく胃もたれが起きないなと、どこかで感心していた。


「ミカエラさんはゆっくり食べればいいよ」


「ありがとう。エレン」


「ぼくも負けないぞーむぐぐ……」


「『それはやりすぎ!』」


 メウスが口いっぱいにチーズナンを入れて食べている。


 そんなにヤケにならなくてもいいのに……。


 食卓は爆笑の渦で満たされる。


 私はナンを小さくちぎり、シチューに浸して食べてみた。


「このカボチャのシチュー。甘くて美味しい……」


「作り方は昨日メウスから教わったのよ。彼、料理も得意みたいね」


「まあねー。上手くできてると思うよー。おいひー!」


 メウスが楽しそうにシチューを飲む姿はとても可愛い。


 遅れてお父様がやってきたので、今日の成果を報告した。


 出発まで時間があるので、それまでヘカートの銃磨き。


 時間になった時、裏手の馬小屋前で集合するようメウスから号令が入る。


 外に出た私たちはそれぞれの荷物を確認した。


 エレンの荷物は少なく、メウスだけ大荷物になっているという状況。


 非常にアンバランスに見えるけど、まあいいと思う。


「じゃあ、ミカエラ。エレンさん。出発するよ」


 それでも、私たちは前を向く。王都を目指して――。

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― 新着の感想 ―
エレンくんの「完璧じゃなきゃいけない」という悩みに対して、ミカエラが自然体で背中を押してあげる場面がとても素敵でした。 そう、完璧を求める人って、出来たかor出来なかったの、100点か0点かで捉えがち…
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