第17話 完璧なんて存在しない
訓練が落ち着き、私は木陰で休むエレンを見る形で銃の手入れをしていた。だけど、彼の顔がどことなく曇っている。
私は近くに寄った。メウスはといえば、お父様とお話中だ。きっとすぐに合流するだろうと思い、エレンの隣に座った。
「エレン。大丈夫?」
「う、うん……」
「エレンって。頑張り屋さんなんだね。時間ギリギリまで素振りしてたし」
「でも……」
私は知っている。エレンがどれだけ頑張ろうとしているのかを。昨日初めて会って私が自分のことを話してからずっと。
努力もほどほどしかしてなくて、誰にでもある壁の形。だけど、それを越えるには自分が頑張らないといけない。
彼は昨日までの私みたいに、本当の一歩を人生を変えるだけの一歩を踏み出せないでいる。だから、心のどこかでもがき苦しんでいる。
「エレン。困ってること。あるんでしょ?」
「なんで……?」
「なんとなく。そんな感じがした」
エレンはゆっくり顔を上げる。それは、まだ目が真剣になってない。やはり、なにかを抱えているのかもしれなかった。
「その……。僕……。勇者養成学校に通ってて、そこでいつも最下位で……。先生は優しいけど……。上手くいかなくて……」
「それで」
「僕の家族は、完璧で。何もかもできて。だけど、僕だけ家族みたいにできなくて……。不器用で……」
「なーんだ。そんな悩みだったんだ」
「え?」
エレンは驚いたような顔をした。それは、まだ理由を理解しきれてないような、そんな感じの表情だった。
「エレンは、無理に完璧を目指そうとしているんだよ。辞書に完璧って出てくるけど、本当に完璧って言葉あると信じる?」
「それは……。たしかに、僕のお母さんは料理を時々……。お父さんは勇者を目指してたみたいだけど、ダメで……」
「でしょ?」
私はエレンに答えさせて、棘の角を取ってあげる。それだけで、彼の顔付きに光が戻った気がした。
そこで、会話を終えたメウスが合流する。
「話は終わったんですね」
「うん一応ね。エレンさん。ミカエラ。ちょっと出かけない?」
「出かけるってどこに?」
「王都」
そういえば、私は王都に一度も行ったことがない。メウスによれば、勇者養成学校は王都にあるらしい。
事の始まりを聞くと、野宿をしていく中で色んなものと触れ合い、リフレッシュをしていくのはどうかという、お父様の提案だった。
ただ、お父様とお母様は同行ができないので、メウスが面倒を見てくれることになったらしい。
「エレンさんは王都に帰るのは……」
「二十日ぶりですね……」
「長いね……」
メウスは一旦自宅に帰ると言って、家の裏手に隠れる。直後一筋の光が放たれた。どうやら神の世界に戻ったらしい。
しばらくすると、また光が降り注ぐ。裏手から出てきたメウスは、巨大な荷物を抱えてやってきた。
「メウスさん。それは……」
「とりあえず三十日分の食糧と、水。三人分の寝袋だね」
あまりにも軽々しく持っているので、どれくらい重いのかを予測することができない。神様の特権というものなのだろうか。
「水はどれくらい入って……?」
エレンがメウスに問いかける。するとメウスは……。
「三十日分だから、一リットルの水が全部で百五十本くらいかな」
「本?」
「あ、そうだった。エレンは現地人だから、ペットボトルの存在を知らないんだったね。ちょっと待って」
メウスは荷物を下ろして、中を漁る。すると出てきたのは、前世で当たり前に使っていた、一リットル分の大きなペットボトルだった。
「メウスさん。これは……。どうやって?」
「あはは。このキャップっていうのを回して。ほら開いた」
「す、すごい……。これはどういう仕組みで……?」
「わかんない」
相変わらず使えないメウスだった。メウスは魔法で元の状態にすると、荷物の中に片付けた。
「じゃあ。お昼を食べて出発しようか」
「『はい!』」
私たちは家の中に入り、食卓につく。思えばレイラの姿を最近見ていない。今どこにいるのだろうか。
今日のお昼は、事前にお母様がメウスとエレンに聞いて作った、二人の好物メニューだった。
メウスセレクトのかぼちゃの野菜シチュー。エレンセレクトのチーズナン。かなり重量感のあるメニューだった。
「エレンってもしかして……」
「そう。週に二回は食べてた。飽きないんだ」
すると、お母様が右手を口元に当てて。
「ふふふ。この子。華奢の割にものすごく食べるのよ」
そう言う。さらに聞くと、チーズナンを食べる時間は朝が多いらしい。よく胃もたれが起きないなと、どこかで感心していた。
「ミカエラさんはゆっくり食べればいいよ」
「ありがとう。エレン」
「ぼくも負けないぞーむぐぐ……」
「『それはやりすぎ!』」
メウスが口いっぱいにチーズナンを入れて食べている。そんなにヤケにならなくてもいいのに……。
食卓は爆笑の渦で満たされる。私はナンを小さくちぎり、シチューに浸して食べてみた。かぼちゃのシチューはほんのり甘くて、美味しい。
私はお父様に今日の訓練に関して報告する。すると、いつも通り沢山褒めてくれた。しばらくの間会えないけど、もう寂しくない。
出発の時間はあと少し。夕刻が近づいたら、すぐに移動するらしい。私はその間ヘカートを磨いていた。
もちろん、このヘカートも旅に連れていく。メウスからも許可を貰っているので問題ない。
そして、旅の時間がやってくる。私の荷物には、両親の血判が押してある魔法紙が三十枚。ヘカートを手入れする道具や櫛を入れていた。
時間になった時、裏手の馬小屋前で集合するようメウスから号令が入る。
外に出た私たちはそれぞれの荷物を確認した。エレンの荷物は少なく、メウスだけ大荷物になっているという状況だ。
「じゃあ、ミカエラ。エレンさん。出発するよ」
それでも、私たちは前を向く。王都を目指して――。
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