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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第2部 サブストーリー集

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第162話 大輝の裏メニュー

「失礼します」


 店の外から入ってきたのは、氷の戦女神ルアンナ・グラーシアだった。


 ライガンのハンマー投げで消えたと思ったけど、生きていたらしい。


「憎きミカエラさんもいらしたのですね」


「まあね。それで、ルアンナはなんで?」


「というよりも、そちらの男性が食べている、いかにも不味そうな食事は何よ」


 ルアンナは大輝が食べる皿を指さす。


 たしかに、大輝は異常だった。不味そうな料理を美味しそうに食べているから。


「これか? 猛毒だから食わせられないな」


「ど、毒ですって!? 今すぐ食べるのをやめなさい!」


 ルアンナが大輝の前に立って、器を弾こうとする。


 しかし、大輝にとっては予測済みらしく器を浮かせた。


「最高だなぁ。おかわりしようかなぁ……」


「死にたいとでも?」


「ん? こんなんじゃ死ぬことはないが……」


 大輝は普通に食べきる。そして、おかわりを要求した。


 お酒でお腹が埋まっているはずなのに、まだ食べるのか。


 彼の身体の構造が心配になる。毒が効かないこと自体がおかしい。


「お、おかわりきた! いただきまーす!」


 どんどん食べていく大輝に、ルアンナは顔を歪ませた。


「お兄ちゃん。そんなに毒を蓄えてどうするの」


「お、お兄様?」


「うん。大輝は私の兄だよ。今は血縁関係じゃないけどね」


 ルアンナは私の顔と大輝の顔を見る。


「俺はこれが好きだぞ? ここには昔からの付き合いだしな」


「昔から?」


「おん。ちなみに俺はだなぁ……」


「ダインさん。スプーン貸してください」


「お、おう……」


 どうやら大輝はステラに弱いらしい。


 そりゃそうだよね。彼女は大輝にゾッコンなんだから。


 私は一人フライドチキンを食べる。少し塩気があって美味しい。


 こんな私を余所に、大輝とステラはイチャイチャをしていた。


 妹として少し恥ずかしいけど、嬉しい部分もある。


 ただ、ルアンナが茫然と立っていた。


「ミカエラ……だったわね……」


「はい」


「本当に、あなたのお兄様なのよね?」


「はいそうですけど。血縁関係ではないから、義理……みたいな?」


 本当に、私と大輝の関係って微妙なんだよね。


 これと言った関係性がピンとこない。


 だけど、私にとっては自慢の兄だから……許せないこともいくつかあるけど。


「嘘はついてないわよね?」


「はい……」


「なら私も付き合うわ。隣に座ってもいいかしら?」


「どうぞ」


 私の隣が空いていたので、そこにルアンナが座る。


 初めて会った時のように罵られると思ったけど、そんなことはなさそうだ。


 彼女はメニュー表を開くと、すぐに注文した。


 出てきたのは、一人分のオムライス。そして、大きなオムレツ。


「ルアンナさん。卵好きなんですか?」


「ええ。大好きよ」


「そうなんですね……」


 私はルアンナと軽く話して気づいた。


 彼女は、認められたいんだと。自分が、エレンを救えるんだと。


 だけど、彼が選んだのは私。それがただ許せないだけ。


 なんだか気持ちが理解できた気がした。


 ものすごくなんとなくではあるけれど。


 きっと、そういうことなんだと思う。


「んーと……。誰だっけ?」


「大輝……。ルアンナさんだよ……」


「あ。そうか、ルアンナちょっと手いいか?」


 大輝がルアンナに要求している。何をするのだろうか。


 ルアンナが大輝の方へ腕を伸ばした。すると、大輝は手の甲を嗅ぎ始める。


「ここじゃ血を飲めないからさ。一応これだけでも情報は入ってくる」


「ち、血を飲むですって!?」


「おん。よくミカエラの血を……!?」


 大輝は変なところで羽目を外すんだから。


 兄としての威厳を学んでほしい気持ちでいっぱいなんだけど。


 と言っても、欲に負けてしまうのは仕方ない。


 男は女以上に欲の塊だから。


「ふむ……。ルアンナの血はしばらく前に飲んだやつと似てるな……」


「どういうことよ?」


「甘い。そして、無駄がない。騎士団集会所の受付嬢アンナの子供だな?」


「……!?」


 大輝の発言に、ルアンナが驚愕の表情を浮かべる。


 どうやら正解のようだ。大輝の血に反応する鼻はすごいらしい。


 だけど、なぜそこまで推理できたのか。それが分からなかった。


 彼はただ手の甲を嗅いだだけ。普通は香水の匂いとかするはずだけど。


「言っとくが、俺の鼻は血と料理にしか反応しない。それだけだ」


「『は、はぁ……』」


「ダインさん! さすがです!」


「ありがとな。ステラ」


 大輝はその後も不味そうな料理に手をつける。


 いくら猛毒が入っているとはいえ、食べすぎな気もするが……。


「ちなみに、それなにが入ってるの?」


「ん? 毒抜き未処理のイルハリナと……。厳選毒草と……。毒リンゴ……。あとはリグの実だな」


「イルハリナは何かしら?」


「リュウグの実ですよ。えーと、ダインさん。イルハリナって球根の方ですよね?」


「ああそうだ」


 つまりは、毒性を理解しているから効かないということらしい。


 本当に、毒好きはヤバイ。それで死ぬことがないんだから。母体は日本人だけど。


「ルアンナの名前はアンナから取ったんだろ?」


「ええそうよ。お母様もお父様もネーミングセンスがなかったらしいわ」


「そうか。ここじゃなきゃ飲んでたんだけどな。一滴もらって……!?」


「妹の私が許しません!」


 今日は大輝を叩いてばかり、彼の皮膚は常時硬化魔法がかかっているため痛い。


 それでも、慣れたから問題ない。この後は、大輝の運動の時間だし。


「よし、みんな食べ終わったか?」


「はい」「ええ」「もちろんです」


「じゃ、俺がここの支払いしとくから。俺の運動に付き合ってもらおうか」


「とか言って、観客参加型で数十人持ち上げるじゃないでしょうね!」


 本当に彼はバレバレなんだから。節度は守ってほしい。


 後のことを大輝に任せて、私たちは店を出た。


 空は快晴。街も、ものすごく賑わっている。


 獣人以外の人も、少しずつ増えていた気がした。

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