第161話 平和な(?)日常
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
大輝が戻ってきて数日。セリンの家には元囚人の方たちが来るようになった。
みんな大輝に恩を返したいらしいが、あまりいいことが思いつかないらしい。
毎日が大騒ぎで困っているんだけど、貢がれるのはお酒がほとんどだった。
「これワインか?」
大輝は今その囚人の一人が持ってきたお酒をあおっている。
彼自身はアルコールにものすごく強いので、酔うことは少ないけど。
きっと、酒神のメウスには負けるだろうなと思ってしまう。
そもそも、メウスが飲むお酒はお酒の域を超えているのだが……。
「さすがに今日は飲み過ぎだな」
「まあ、大輝も程々にね」
「わかってるよ」
本日五本目の瓶を空にした大輝の顔は、まだ白い。
本人も身体のことを考えて打ち止めにしたいようだけど……。
これがなかなか上手くいかないらしい。
無理をしないでほしいのが、妹である私の気持ち。
「ミカエラ。酔い覚ましにイルハリナいいか?」
「もちろん」
私はリュウグの球根を用意する。それを大輝に渡すと勢いよくかぶりついた。
このままでは毒があると、ステラさんが教えてもらっている。
というよりも……。
「ダインさん。イルハリナよりも水を飲んだ方がいいですよ」
なんでステラさんが同居しているのかわからない。
大輝がいうには、二人は恋愛関係にあるらしい。
女友達が少ない大輝の初めてのガールフレンド。
ほんと、最近の彼は精神面の成長がすごい。
きっとまぐれではあるのだろうけど。
「ステラも食うか? すぐに毒抜きするが……」
「わたしは大丈夫です。これはダインさんの分ですから」
「そうか」
大輝は一人で球根を食べる。お酒が入っているから毒の巡りも早い。
なのに、次から次へと口にいれていく。
その様子を窓から覗く人々。大輝の食べているものが気になるのだろう。
「そこの嬢ちゃん。彼が食べているのはなにかね?」
見物人のおじさんが声をかけてきた。
私は『リュウグの実の球根です』と伝える。
するとおじさんは、両目を大きく見開き失神した。
「大丈夫ですか!?」
口から泡を吹いている。様子を見に来た大輝がすぐさま治療を開始した。
酔っ払っているはずなのに、動きに無駄がない。
そして、治療を完了させるとおじさんは目を覚ます。
「大丈夫か?」
「へ、へえ……。少々驚きすぎましたな」
「ま、そうだよな。イルハリナの球根には毒がある。それを普通に解毒できる人は限られているしな」
大輝はそう言ってから再び家の中に入り、リュウグの球根をかじる。
これが今の彼の自然体。誰も口出しなんかできない。
「またあの不味い飯食いたい……」
「それ何回目?」
「不味い飯とな?」
おじさんはどうやら心当たりがあるらしい。
散歩のついでに案内してくれるそうなので、向かうことになった。
「けどよミカエラ。なんで宴会後にぶっ叩いたんだよ」
「それは大勢の前で性癖晒したからでしょ!」
その時大輝は、大勢がいる前で私の血を求めた。
元々大輝が収容所で説明していたから、不快に思う人は皆無だったが。
だけど、時と場合がある。それだけはわかってほしい。
これが本当に二十歳なのかと思うほど、性癖への耐性が低いんだから考え物。
「それで、なんでステラさんもついてきてるの?」
「ダインさんと一緒に食事がしたいので……」
「そ、そうですか……」
ステラさんは、ものすごく楽しそうだった。
そんな私たちを、異質者であるかのように通行人の眼が光る。
まあ、大輝自身が恐れられている人だから仕方ないんだけど……。
そもそも、前世で五万人も殺す必要があったのか。
そこがどうしても引っかかる。
ラディルのいる城下町の薬師のプロは、滅破の壊毒が原因と言っていたけど……。
「大輝、あの壊毒ってどれくらい危険なの?」
「ああ、あれか。一口舐めれば、内臓がバーンだ」
「うぇ……。それヤバイじゃん」
聴くべきべきではなかった。そんなにも危険だなんて。
だけど、なぜ大輝は大丈夫なのか。そこも気になるところだ。
今はその話題を出す場面ではない。わかっている。
先頭を歩くおじさんの後ろをついていくと、一軒の店に到着した。
「ここ。美味い飯も不味い飯もどんなものでも食える場所での」
「腹減った……」
そこをかぶせてくるのか大輝……。
本当に空腹限界の大輝は、話も聞かずに席へ座った。
メニュー表を見るや、すぐに注文をする。
日本でも、ファミレスに入れば即注文の大輝。健在だった。
「よし、俺の分は終わりっと。ミカエラ。ステラ。二人も来いよ」
「はいはい」
「わかりました! わたしは特大オムライスでお願いします!」
ステラも同族だったのかと思うほど、注文が早い。
そもそもステラはメニュー表すら見ていない。
対して、席に座ってから表とにらめっこする私。
どれも美味しそうで迷ってしまう。
「ミカエラにはこれがお勧めだな。店主! フライドチキンのセットで!」
「ふ、フライドチキン!?」
「おん。ちなみにこの店は俺の前世からあるぞ?」
「え?」
どうやら大輝が知っている店だったらしい。
それは注文速度が速いわけだ。
しばらくして、テーブルには料理が並んだ。
ステラの前には大きなオムライスが。私のところにはフライドチキン盛り合わせ。
大輝はというと、なにやらゲテモノが置かれていた。
「大輝。それ食べ物なの?」
「ま、一応な。俺が考案した激マズメニューだ」
「は、はぁ」
大輝は普通に食べ始める。この悪食癖。どうにかならないかな?
多分修正するのには時間がかかるかもしれないけど。
するとその時だった。
「失礼します」
水色長髪の少女が、店に入ってきた。
この人。どこかで見たような気が……気のせいかな?
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