第156話 脱獄作戦開始
翌日、俺の中で眠っていたレヴェルが目を覚ました。
その後剣を顕現させて、今は俺が背負っている。
「ダインさんの剣。大きいですね……」
「だな。けど、この重みが落ち着くんだ」
「そうなんですね」
俺の血で真っ赤に染まった刃。
今は彼との接続を再開させて、血を送っている。
今日行動する分の血と毒は蓄えておいた。
囚人たちの腹も、完璧に満たされている。
作戦決行当日。みんなの覇気は最高潮に達していた。
「ダイン大将! どういう方向でいかれるのですか!?」
「た、大将なんて俺そんな偉くないし……」
「でも、ダインがあっしらを引き連れてくれるんだろ。大将様に決まってるじゃないか」
「お、おう……」
とりあえず追加の毒でも摂取しておくか。
ラディルの血はとっくの昔に尽きていた。こういう時に限って重要アイテムがない。
カフェインましまし級の感じが欲しいが仕方ない。
俺は空間からイルハリナの球根を出す。このメンバーにはバルダ語の名称が定着した。
「ダインさんは、今日もイルハリナですか」
「まあな」
ひたすらかじりつく。毒が全身に回るのを確認してから、俺はレヴェルに血を送った。
檻の壁側には、少し日が入る穴がある。その光が壁で遮られたころが時間だ。
時詠みが得意な人を俺がいる檻に移動させる。
時計が普及しきっていないこの世界では、時詠みの人が重要になる。
「なあ、今時間はどれくらいだ?」
時詠みは、自分の意識を外と接続することで時間を探る。
ただし、この場所にいるのはコミュ障が酷く、名前も教えてもらっていない。
「ダインさん。ここはわたしに」
「わかった」
ステラが相手をして、時間のチェックをしていく。
日が陰り、俺が目的としていた時間が来た。
レヴェルの力を少しだけ解放し、檻を全て破壊する。
足元が悪くなるので、ついでに格子も粉砕しておいた。
囚人たちは、我先にと出てくる。
ここからが本番だ。
「よし、行くぞ!」
「『おおおおおおおおおおーーーーーーーー!』」
今日の俺の体調と能力値は正常値以上。
元々いた檻は入口から一番奥。俺はステラを抱きかかえ、跳躍をする。
あれからステラとの関係は進展があった。
直近だと、彼女は俺を抱き枕にしているくらいだ。
本当に、ラブラブな新婚のような関係になってしまった。
「ダインさんの隣でいいんですか?」
「もちろんだ」
「ありがとうございます……!」
今俺とステラの前には、鍵のかかった監獄の扉。
俺たちのいるところには鍵穴がない。
そこで、リクという鍵開けが得意な子供を呼んだ。
彼はよく金庫のお金を盗んでいたんだそう。
鍵開けに慣れているということは、心から納得できた。
「ダインさん。これを開ければいいんですね」
「ああ、頼む」
「任せてください!」
リクは魔法を構築し始める。解析は得意なので、調べさせてもらう。
魔法の数は全部で四つ。それを段階的に発動させていく。
そこから、鍵の構造部を少しいじるらしい。
リクの慣れた操作能力には、少し驚いた。十二歳ほどでこれができるとは……。
「ダインさん。開きました」
「ありがとう。よし、俺についてこい!」
「『はい!』」
俺は扉を開いた。そこから先は俺の勘に任せるしかない。
レヴェルが来た時。彼はミカエラの血を目印にしていたとのこと。
だから、掃除が行き届いていなければその匂いが残っているはずだ。
全感覚を研ぎ澄ませる。ここまで匂いの濃度が薄いと、時間もかかる。
「こっちだな……」
最悪なことに、レヴェルは記憶力がポンコツだ。
いままで通った道も、今ではすっぽり抜けている。
俺のことでしか役立たないのは、少し不満なんだが……。
「ダインさん。人の気配がします」
「ステラありがとう。時詠みの人、警備員の場所を特定してくれ」
「……は……い……」
時詠みが床に魔法陣を書く。それが光ると、地図が現れた。
そこから、人の場所を特定していく。場所がわかれば俺の出番だ。
「レヴェル。今回は吸わないでくれ」
「承知」
俺は自分の手を切る。そして、正面に向かって血を飛ばした。
「ブラドブラッシュ! リグア!」
リグアとは、ルムミア語で言うところの追跡魔法。
血の雫は宙を飛んで、警備員に付着した。
今回のは、睡眠魔法をかけた血だ。今頃眠りについているころだろう。
俺は全員へ合図を送る。足音を消して移動を開始した。
「ダインさんの血って、すごいですね」
「まあな。ただ、まだ本気じゃない」
「本気だと……」
「この収容所を完全破壊できるな」
しかし、そんな力を発揮してしまえば評判も落ちる。
今でさえ、このやり方が正解なのかもわからない。
善悪を理解できてないが故の、不確定な行動原理。
「こっちだ」
皆が息をひそめて、歩き出す。
見つかったら最後。俺が囮になればいい。
どちらにしても、俺は寿命を超えないと死ねない。
自分の意思で死ぬことができないんだ。
ならば、皆を逃がして俺だけ処刑台に立てばいい。
「ダイン……さん?」
「いや、なんでもない」
余計なことを考えてしまった。
今俺は、できた仲間を救わないといけないんだ。
家族のところへ、帰さないといけないんだ。
俺は、妹のミカエラたちに会わないといけない。
それを叶える。叶えてこそが、目標の到達。
「ステラ。俺が本当に本気を出したら。それでも君は俺を好きでいてくれるか?」
「それは、どういうことですか?」
「いや、なんでもない。とりあえず温存しておくよ」
血の匂いを頼りに、俺は囚人たちを連れていく。
入り組んだ道。そこを迷わないようにしながら進む。
すると、一人が声をあげた。
「ダイン大将! ぼくたち、同じ道を通ってませんか?」
「同じ道?」
「はい。さっきから風景が一緒なので……」
気が付かなかった。一人が声をあげたことで、他の人に伝播する。
これまで張り切っていたメンバーの表情に曇りが見えた。
この収容所の構造は一体どうなっているのだろうか。
ただ血の匂いを嗅ぎ分けることでは、外に出られない。
大所帯による脱出ゲームが始まった。
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