第154話 異性と球根(求婚)
それから先は、ひたすら食って寝ての生活だった。
当然ながら、やることは肉を焼いて、不味い飯を食う。
だんだん口が寂しくなり、俺は毒性の強いものを求めるようになった。
この世界に存在する毒物は、食欲をそそるような香りがする。
それに釣られて、人は死んでいく。俺は、そのようなものに欲求を持つ日々。
「ダインさん」
「……」
「ダインさん!」
「すまない……ちと考え事をな」
最近の俺といえば、少し鈍感になっていた。
収容所に来てから一週間後に出会った狸獣人の女性。
名前をステラというらしい。ステラといえば、星だろうか。
意味などは知らない。だけど、本来であればみんなを導く一番星。
真っ黒に染め上げられた俺とは、完全に真逆の存在だ。
「なあ、ステラ。俺が毒物を食べたいって言ったら、止めるよな?」
「それはそうですよ。いくらなんでも、自分から死ににいくのは言語道断です!」
「ま、そうだよな……。ああああー。イルハリナの球根が食べたい……」
イルハリナの球根。すなわち、リュウグの実の球根は非常に猛毒。
一口かじれば即死をしてもおかしくない、そんな毒を持っている。
前世の俺は、それが大好物だった。毎日のように食べていた。
そのたびに、他の人から怒られて叩かれて。
痛みに耐えながら生きる暮らしをしていた。
「その……リュウグの実の球根って、美味しいんですか?」
「美味いぞ? 俺は普通に食えるが……。君たちの場合は正しい方法で毒抜きする必要があるな」
「毒抜き……ですか……」
「残念だが……俺はその方法を知らないんだ」
俺はそのまま食べることが多かった。
だから、毒抜きをした後の味も知らない。
こういう時に限って俺は、みんなの役に立てない。
そんな自分が申し訳なく感じる。
「気になりますが……。今は我慢することにします」
「それが一番だ」
俺は大声で警備員を呼ぶ。そして、リュウグの球根をお願いした。
主要な毒物は収容所に常備されている。きっとここにはあるはずだ。
しばらくして、警備員がやってきた。大きな荷車に大量の球根。
それだけで、ヨダレが口の中に溜まっていく。
早く食べたい気持ちに押され、檻の格子にへばりつく。
「またダインか……。なぜ死ぬことがない」
「それはですねぇ……。簡単に解毒できちゃうからですよぉー警備員さーん」
「これで何度目だ。こっちは赤字寸前なんだぞ?」
「それよりも、早く全部食べさせてくださーーーーーーーい!」
と、こんな風に警備員には軽々しく相手をしている。
毎回のようにいやらしい顔をしてくる馬鹿が面白い。
獣人の国の警備員は馬鹿だ。血に味のしない馬鹿野郎だ。
俺のいる檻に大量の球根が入ってくる。
俺はそれを一つ掴み、大口開けてかぶりついた。
「やっぱ最高だな」
「その顔。わたし好きです」
「マ?」
「マ。です。本当に美味しそうに食べるので」
そう、笑顔を向けてくるステラが天使に見えた。
それは、他の囚人たちも興味津々で『おおー』と声をあげる人が数人。
なんだかわからないけど、彼女は俺に好意を持っているようだ。
だけど、俺には女友達ができた試しがない。
異性との関わり方を知らない。どう接していればいいのかさっぱりだ。
俺は、ただそんな彼女を差し置いて、球根を食べる。
「この球根の毒はな……。血液量を急激に増やして、そして内部破裂させる毒なんだ」
「内部破裂ですか?」
「おうよ。血管全体に大穴開いてビシャーだ」
「ふふふ。表現の仕方が下手ですね」
「よく言われるよ」
どちらにしても、俺の血はレヴェルが吸収してくれる。
レヴェルがいるからこそ、俺は食べることができる。
彼がいなかったら、俺は死んでいたかもしれない。
俺が死ねば数年後にはここにいる囚人たちも……。
最悪な結末を考えれば考えるほど、目の周りが乾いていく。
泣きたいのに泣けない。そんな感情音痴な自分が嫌い。
「ちょっと調べてみました」
「調べた? けど、ステラ。ここにはインターネットないぞ?」
「いんたーねっと?」
「おっと、すまない。間違えた」
「大丈夫ですよ。わたし、いつもこういう本を持ち歩いているんです」
ステラが持っていたのは、植物図解だった。
これは、メウスが書いた図鑑のようなもので、たしか五千ページあったはず。
そこから、リュウグの球根のページが開かれる。
しっかりと書かれた毒抜きの仕方。今日初めて得た知識。
俺は早速試すことにした。まずは聖水だ。
幸い、常備している水が聖水だったので、よかったと思っている。
残りは俺の血で代用できそうだった。
俺の血は味付けにもなんにでも応用が利く。
知っている情報を付与させることで、可能にしてしまう。
「ここをこうして……っと。こんなもんかな?」
俺は毒抜きをしたリュウグの球根をかじった。
無味無臭。だけど、ほんのり甘い。
まるで糖度の低い桃のような味がした。
「よし、成功したぞ」
「やった! さすがですね。ダインさんは」
「まあな。ほれ、食ってみろ」
俺はステラに球根を渡した。彼女はクンカクンカを匂いを嗅ぎ、頬張る。
直後、昇天しかけるくらいの微笑みを浮べ、『うむぅー』と声を漏らした。
「美味しいです! ものすごく美味しいです!」
「そうか。よかった。よし、この調子で他のも毒抜きするぞ! 全員に配ってやる」
「『おおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーー!』」
毒抜きをしてはみんなへ。それを繰り返すこと数百回。
全員の腹は、あっという間に満たされた。
そこから数百個ほど毒抜き未処理の球根が余ったので……。
「やっぱ、俺は毒抜きしてない方が好きだな……」
「ダインさんらしいですね」
「まあな。残りは全部俺のもんだ!」
猛毒の球根をたった一人で食べる。そんな時間が、ただ過ぎていった。
レヴェルが回復するまでのパーセンテージ。残り、六十パーセント。
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