第150話 新たな未来へ踏み出す一歩
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
しばらくして、名前交換後のアランがやってきた。
アランとライガン。二人は元魔王の血筋のようで、能力も同じ。
だけど、知識量は弟のアランが上らしい。
とはいえ、その正体はライガン本人。少し複雑だった。
「兄さん。名前を交換したあとでも、兄さんって呼んでいいですか?」
「もちろんですとも」
「ありがとうございます」
二人の意識はもう完全に入れ替わっていた。
ここまでシンクロ率の高い兄弟はいない。
アランは、優しく顔をほころばせライガンと椅子へ向かう。
私は彼らの今後が気になっている。
「それで、二人ともどうして?」
実を言うと、ライガンは少し用事ができたと、王宮へ向かっていた。
それから帰ってきて、この状況。
そんな二人を、どう見ればいいのかわからない。
「そのですね……。今日付けで食肉禁止令を完全撤廃することにしたんです」
「それは誰の判断で?」
「兄さんですよ。最終判断は自分にゆだねられましたが……。エレンさんの熱弁あってこその結果ですね」
「というわけで、普及の手伝いをしてもらいたいと思ってですな。そういうことですわ」
なんか、この喋り方のライガンの方が落ち着く。
まあ、彼とはそこそこ長い付き合いだしね。
むしろ、本人の方が違和感あったまである。
「僕が前面に押し出せば、上手くいくんじゃないですか?」
そう声を上げたのは、大食い男子のエレンだった。
たしかに、無限の胃袋持ちの彼なら、美味しさを宣伝できるかもしれない。
もうひとつ。大輝が本物の肉を提供する前に大豆ミートで食感の理解を深める提案がきた。
「だけど、大豆ミートの食感って、少し違う気がする……」
「そうか? 植物性タンパク質が豊富に含まれているから、栄養価的には問題ないはずだが……」
「大輝、それとこれは別。それだと、国民は大豆ミートしか食べなくなるよ」
そもそも、大輝は変な方向に偏っている。
今回は肉の知名度や栄養的価値を知らせるためのもの。
だから、ずっと大豆ミートを提供するわけにもいかない。
大輝は少し不満げな顔をした。まあ、その反応は予測済みだったけど。
「それで、アランさん。今後の方針ってどんな感じなんですか?」
「はい。まずこちらを確認してください」
アランは、肩に下げたカバンから数枚の紙を出す。
そこには全ての段取りが書かれていた。
「メウスさんのご実家が食肉の加工場というのは、ライガンから伺っています。本当に兄さんがお世話になりました。ありがとうございます」
「え、えーと。ぼくはずっとミカエラの家にいたから知らないけど……」
「そうでしたか……。ですけど、メウスさんの加工技術は一流と聞いています」
「それは、はい……。ありがとう……」
メウスがこうして引っこむのも、あまり見ない構図。
まあ、相手が魔王であり国王なのだから仕方ない。
アランは次の紙を上にした。それは、進行チャートに関して。
「今回、食肉の輸入を段階的に解除する方向から進めようと思っています。エレンさんは食に関して詳しいのでしょうか?」
「まあ、そうですね……。小さい時から、肉が大好きだったので」
「そういう割には、ナン率高い気がするけどね」
「ミカエラさん。そのタイミングで罠を仕掛けないでください!」
やっぱりエレンはナンが好きなんだ。まあ相変わらずと言っていいかも。
そのあとは、エレンが主軸となって食感などを伝えた。
どの肉が一番初心者に向いているか。やっぱりそこから決めた方がいいらしい。
「それでですね……個人的には、柔らかい鶏肉がいいと思うんですよ」
「鶏肉……ですか?」
「はい。ただ、鶏肉の皮は少し避けた方がいいかもしれないです。顎の弱い人だと、そのまま飲み込む癖がついてしまうので……」
「なるほど。では、鶏むね肉が一番いいという方向でいいでしょうか」
どうやら、最初に輸入する肉は鶏むね肉に決まったようだ。
鶏むね肉は調理もしやすいし、骨から外して蒸せばものすごく食べやすい。
香辛料があれば、鶏ささみとして売れるかもしれない。
まあ、大輝が全部盗み食いしそうだけど……。
「ミカエラさんは、料理がお得意と聞きましたが……」
「はい。一応舌は敏感なので……。味の再現は得意ですよ」
「それよりも、パン屋の主人に協力してもらった方がいいんじゃないか?」
「パン屋の主人ですか? そういえば、最近見ないですね」
そうだった。パン屋の主人は捕まってクリスタル漬け。
今の状況がわからない。無事であってほしいけど……。
「パン屋の主人は店に戻りましたぞ? 今はちょうど仕込みをしているのでは?」
「本当か!? 俺、そこの店主が作るパン好きでさ」
「そうなんですか? えーと……」
「普通にダインって呼んでもらって構わない」
もう大輝の前世の名前は、国全体に知れ渡っている。
隠す理由はない。大輝はそう判断したんだと思う。
だけど、私の前世の兄という立場で考えるとなんかさみしい。
大輝は大輝として、今の名前で胸を張ってほしいのに……。
「ではダインさんで。ダインさんはどうしてパン屋の主人が作るものが……」
「あそこ。柔らかいのから硬いパンまで売っててさ。俺いつも超硬いパンを食べてたんだ。あの岩のような硬いパンは、あそこの店主しか作れないと思っててさ。朝のランニングの時毎回買ってたんだよな」
「は、はぁ。つまり、その超硬いパンが今すぐに食べた……」
「大輝さん。よかった。店に顔を出さないから心配したのよ」
ここで、パン屋の女店主が登場。彼女の手には、大きく硬そうなパンが数個入ったバケット。
大輝は朝ごはんを食べたばかりなのに、店主のところへ行くとパンを取った。
そのパンは全員に配られた。持ってみると、見た目以上に柔らかい。
なんだろう。柔らかいフランスパンと硬いディナーロールの中間みたいな……。
「大輝。これが岩みたいに硬いパンなの?」
「ああ。最初は一個食べきるのに、三十分かかったくらいだな」
「そんなに!?」
だけど、大輝はものすごく余裕な表情で食べてみせる。
私も一口もらうと、顎に衝撃が走った。なにこれ、嚙み切れない……!
ライガンとアランも四苦八苦しているようで、甘く見過ぎていた自分を責めたくなる。
なのに、約一名例外が……。
「大輝さん。これ、おいひーれすね……。いい顎の運動になります!」
「お、エレンはさすがだな。その調子でどんどん食え!」
やっぱり、細マッチョといずれ細マッチョの二人組は、変わり者すぎた。
こうして簡単な会議を終えてアランは王宮へ。
ライガンはひたすら、洗い物の手伝いをしていた。
この話で、第2部本編は完結となります。
え? 第2部序盤で主人公に敵対していた令嬢?
そんなの知りません! まあ、彼女にも出番は作りますよ
次回からはサブストーリー。トップバッターは大輝です!




