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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第5章 獣人の世界とこれからの未来

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第150話 新たな未来へ踏み出す一歩

 ◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇


 しばらくして、名前交換後のアランがやってきた。


 アランとライガン。二人は元魔王の血筋のようで、能力も同じ。


 だけど、知識量は弟のアランが上らしい。


 とはいえ、その正体はライガン本人。少し複雑だった。


「兄さん。名前を交換したあとでも、兄さんって呼んでいいですか?」


「もちろんですとも」


「ありがとうございます」


 二人の意識はもう完全に入れ替わっていた。


 ここまでシンクロ率の高い兄弟はいない。


 アランは、優しく顔をほころばせライガンと椅子へ向かう。


 私は彼らの今後が気になっている。


「それで、二人ともどうして?」


 実を言うと、ライガンは少し用事ができたと、王宮へ向かっていた。


 それから帰ってきて、この状況。


 そんな二人を、どう見ればいいのかわからない。


「そのですね……。今日付けで食肉禁止令を完全撤廃することにしたんです」


「それは誰の判断で?」


「兄さんですよ。最終判断は自分にゆだねられましたが……。エレンさんの熱弁あってこその結果ですね」


「というわけで、普及の手伝いをしてもらいたいと思ってですな。そういうことですわ」


 なんか、この喋り方のライガンの方が落ち着く。


 まあ、彼とはそこそこ長い付き合いだしね。


 むしろ、本人の方が違和感あったまである。


「僕が前面に押し出せば、上手くいくんじゃないですか?」


 そう声を上げたのは、大食い男子のエレンだった。


 たしかに、無限の胃袋持ちの彼なら、美味しさを宣伝できるかもしれない。


 もうひとつ。大輝が本物の肉を提供する前に大豆ミートで食感の理解を深める提案がきた。


「だけど、大豆ミートの食感って、少し違う気がする……」


「そうか? 植物性タンパク質が豊富に含まれているから、栄養価的には問題ないはずだが……」


「大輝、それとこれは別。それだと、国民は大豆ミートしか食べなくなるよ」


 そもそも、大輝は変な方向に偏っている。


 今回は肉の知名度や栄養的価値を知らせるためのもの。


 だから、ずっと大豆ミートを提供するわけにもいかない。


 大輝は少し不満げな顔をした。まあ、その反応は予測済みだったけど。


「それで、アランさん。今後の方針ってどんな感じなんですか?」


「はい。まずこちらを確認してください」


 アランは、肩に下げたカバンから数枚の紙を出す。


 そこには全ての段取りが書かれていた。


「メウスさんのご実家が食肉の加工場というのは、ライガンから伺っています。本当に兄さんがお世話になりました。ありがとうございます」


「え、えーと。ぼくはずっとミカエラの家にいたから知らないけど……」


「そうでしたか……。ですけど、メウスさんの加工技術は一流と聞いています」


「それは、はい……。ありがとう……」


 メウスがこうして引っこむのも、あまり見ない構図。


 まあ、相手が魔王であり国王なのだから仕方ない。


 アランは次の紙を上にした。それは、進行チャートに関して。


「今回、食肉の輸入を段階的に解除する方向から進めようと思っています。エレンさんは食に関して詳しいのでしょうか?」


「まあ、そうですね……。小さい時から、肉が大好きだったので」


「そういう割には、ナン率高い気がするけどね」


「ミカエラさん。そのタイミングで罠を仕掛けないでください!」


 やっぱりエレンはナンが好きなんだ。まあ相変わらずと言っていいかも。


 そのあとは、エレンが主軸となって食感などを伝えた。


 どの肉が一番初心者に向いているか。やっぱりそこから決めた方がいいらしい。


「それでですね……個人的には、柔らかい鶏肉がいいと思うんですよ」


「鶏肉……ですか?」


「はい。ただ、鶏肉の皮は少し避けた方がいいかもしれないです。顎の弱い人だと、そのまま飲み込む癖がついてしまうので……」


「なるほど。では、鶏むね肉が一番いいという方向でいいでしょうか」


 どうやら、最初に輸入する肉は鶏むね肉に決まったようだ。


 鶏むね肉は調理もしやすいし、骨から外して蒸せばものすごく食べやすい。


 香辛料があれば、鶏ささみとして売れるかもしれない。


 まあ、大輝が全部盗み食いしそうだけど……。


「ミカエラさんは、料理がお得意と聞きましたが……」


「はい。一応舌は敏感なので……。味の再現は得意ですよ」


「それよりも、パン屋の主人に協力してもらった方がいいんじゃないか?」


「パン屋の主人ですか? そういえば、最近見ないですね」


 そうだった。パン屋の主人は捕まってクリスタル漬け。


 今の状況がわからない。無事であってほしいけど……。


「パン屋の主人は店に戻りましたぞ? 今はちょうど仕込みをしているのでは?」


「本当か!? 俺、そこの店主が作るパン好きでさ」


「そうなんですか? えーと……」


「普通にダインって呼んでもらって構わない」


 もう大輝の前世の名前は、国全体に知れ渡っている。


 隠す理由はない。大輝はそう判断したんだと思う。


 だけど、私の前世の兄という立場で考えるとなんかさみしい。


 大輝は大輝として、今の名前で胸を張ってほしいのに……。


「ではダインさんで。ダインさんはどうしてパン屋の主人が作るものが……」


「あそこ。柔らかいのから硬いパンまで売っててさ。俺いつも超硬いパンを食べてたんだ。あの岩のような硬いパンは、あそこの店主しか作れないと思っててさ。朝のランニングの時毎回買ってたんだよな」


「は、はぁ。つまり、その超硬いパンが今すぐに食べた……」


「大輝さん。よかった。店に顔を出さないから心配したのよ」


 ここで、パン屋の女店主が登場。彼女の手には、大きく硬そうなパンが数個入ったバケット。


 大輝は朝ごはんを食べたばかりなのに、店主のところへ行くとパンを取った。


 そのパンは全員に配られた。持ってみると、見た目以上に柔らかい。


 なんだろう。柔らかいフランスパンと硬いディナーロールの中間みたいな……。


「大輝。これが岩みたいに硬いパンなの?」


「ああ。最初は一個食べきるのに、三十分かかったくらいだな」


「そんなに!?」


 だけど、大輝はものすごく余裕な表情で食べてみせる。


 私も一口もらうと、顎に衝撃が走った。なにこれ、嚙み切れない……!


 ライガンとアランも四苦八苦しているようで、甘く見過ぎていた自分を責めたくなる。


 なのに、約一名例外が……。


「大輝さん。これ、おいひーれすね……。いい顎の運動になります!」


「お、エレンはさすがだな。その調子でどんどん食え!」


 やっぱり、細マッチョといずれ細マッチョの二人組は、変わり者すぎた。


 こうして簡単な会議を終えてアランは王宮へ。


 ライガンはひたすら、洗い物の手伝いをしていた。

この話で、第2部本編は完結となります。


え? 第2部序盤で主人公に敵対していた令嬢?


そんなの知りません! まあ、彼女にも出番は作りますよ


次回からはサブストーリー。トップバッターは大輝です!

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