第149話 双子の価値観
◇◇◇アラン目線◇◇◇
エレンという少年から栄養学を学んで数日。
私はよく外に出るようになった。
今頃リーファ家にいるミルはどうしているだろうか。
私が小さく弱いミルを見て、獣人でありながら生き物が好きと知った。
父親の意見はよくわかる。生きる物を殺すなんてできない。
だけど、生きていくには……。
「しっかり、バランスを取ること……」
「アラン様?」
「いや、なんでもない。少しな」
「かしこまりました」
部屋に戻ると、そこには弟のライガンがいた。
どうやら私に話があるらしく、耳を隠した姿で居座っている。
部屋の中は少し肌寒い。そろそろ冬支度をする頃合いか。
「お久しぶりです。兄さん」
「ああ。久しぶり」
私たちの会話は、いつも一言発するだけで終わる。
本当は、交互に話さないといけない。しかし、互いに話題振りが苦手だった。
そんなライガンは、床に本を並べていた。全てルーディス・グランダの本だった。
「兄さん。今日この本の本物の作者に会ってきました」
「本物?」
「はい。ミカエラさんのお兄さんです。話は聞いていると思います。件のダイン・ルーディスの生まれ変わり」
このことは知っている。たしか私の叔母だったはず。
しかし、彼は嘘をついていた。そんなミスリードに引っかかるはずもない。
「ダインさんは。前世も男性だったらしいですよ。兄さんが叔母って思っているのは、ダインさんの本の翻訳者だからです」
「翻訳……者?」
「はい。兄さんは勘違いをしていたんですよ。完成品ばかりを見せられていたんでしょう?」
弟のライガンに言われ、過去を思い返してみる。
たしかに私は、叔母が書き上げたものばかりを見ていた。
私とライガンは見た目に差がない双子だが、興味は真逆だった。
ライガンは作品の隅々まで見る。私はそもそも読まずに捨てる。
だから、知識量は弟の方が段違いに上だった。
「そうか」
「はい」
私はルーディス・グランダの本を一冊持ち上げる。
表紙を開くと、丁寧に書かれた文字を見つけた。
「ダイン……ルーディス……」
「はい」
「これが、本物が書いた文字か……」
「はい」
あまり、興奮はしなかった。だけど、少しダインのことが知りたくなった。
今度は、大輝とは呼ばずにダインと呼びたい。それだけ、興味が湧いていた。
「兄さん。また名前を交換しませんか?」
「どうして、急に言いだすんだ?」
「いえ。少し出来心ですけどね……。自分としては、この国をもっと良くしたい。エレンさんの熱弁を聞いて思ったんです」
なんでライガンが私とエレン。そしてミカエラとの会話を知っているのか。
もしかして、そんなはず……。
「はい。リフナ夫人に変装して傍聴してました。邪魔だったでしょうか?」
「いや、そんなことはない」
しかし、ライガンはどのようにして入ってきたのか。
謎になる部分が多すぎる。これも、知識量の差と言うものなのか。
私はどれもライガンに負ける。どんなことであっても、勝ったことはない。
部屋はさらに寒くなる。私は、静かに暖炉をつけた。
「もうすぐ……、冬ですね」
「ああ。一年は早いものだ」
「はい。兄さんは、この冬どうされるのですか?」
「私は、聖女様たちのところにもう一度戻るとする。再び、彼女らが知っているライガンとして」
もう、心に決めていた。もっと世界を見たいと。
文字が読めないなら、目で自然の雨を浴びたいと。
それに、ライガンは少しほくそ笑んだ。
「兄さんらしいですね。では、今日から名前を交換しましょう」
「そうするとする」
こうして、私はアランからライガンに変わった。
今は目の前にいる彼がアランだ。名前の交換。それは、価値観の交換。
こうして、私は解放された。これからは一庶民として暮らす。
私は容姿を変更した。ミカエラたちが知る姿に。
知らないフリをしていた。全て隠すことができなかった。
弟にも迷惑をかけてしまった。もうこんなことをしたくない。
私には、国を繁栄させることなんてできない。
わかっていた。私は国よりも、自然が好きなんだと。
「私はこれから、聖女様たちのところへ行ってくる」
「わかった、あとは任せて」
「この国は任せた」
「行ってらっしゃい」
私は城を出た。もう、威張らなくていい。
意識すればするほど、私はやってはいけないことをしていた。
そうだ。雇ったルアンナ嬢の様子も見に行かなければ。
彼女は私の行動で傷つけてしまった。やることがいっぱいだ。
「寄り道せずに、聖女様のところへ行くとしよう」
私は、迷わずセリンの家に入った。
これから私はこの仲間たちのメンバー。抜ける気なんてさらさらない。
「え、えーと……」
ミカエラが少し困惑したような顔をした。
彼女たちも、今日は色々あったと思う。
「長らくお待たせして申し訳ございません。聖女様」
「ライガン?」
「はい。弟と名前を交換して参りました」
これでいい。この空気感がものすごく好きだ。
そして、外はだんだん暗くなっていく。
夜は宿屋で寝ることになった。食事には肉が出た。
ご飯は大盛。ミカエラの得意料理らしい、鮭のムニエルも食べた。
ずっと、こうしていたい。やっぱり、聖女様の仲間はとても優しい。
「迷惑をかけて申し訳ない」
「大丈夫ですよ。ライガンさん」
「そ……。そうですな。謝るのはここまでにさせていただきます」
そうして、私の一日は終わった。
ミカエラたちと、これからどんな生活が待っているのか。
それが、始まる前の今でも楽しみだ。
次回第2部最終話です。
よろしくお願いします




