↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第5章 獣人の世界とこれからの未来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

149/165

第149話 双子の価値観

 ◇◇◇アラン目線◇◇◇


 エレンという少年から栄養学を学んで数日。


 私はよく外に出るようになった。


 今頃リーファ家にいるミルはどうしているだろうか。


 私が小さく弱いミルを見て、獣人でありながら生き物が好きと知った。


 父親の意見はよくわかる。生きる物を殺すなんてできない。


 だけど、生きていくには……。


「しっかり、バランスを取ること……」


「アラン様?」


「いや、なんでもない。少しな」


「かしこまりました」


 部屋に戻ると、そこには弟のライガンがいた。


 どうやら私に話があるらしく、耳を隠した姿で居座っている。


 部屋の中は少し肌寒い。そろそろ冬支度をする頃合いか。


「お久しぶりです。兄さん」


「ああ。久しぶり」


 私たちの会話は、いつも一言発するだけで終わる。


 本当は、交互に話さないといけない。しかし、互いに話題振りが苦手だった。


 そんなライガンは、床に本を並べていた。全てルーディス・グランダの本だった。


「兄さん。今日この本の本物(・・)の作者に会ってきました」


「本物(・・)?」


「はい。ミカエラさんのお兄さんです。話は聞いていると思います。件のダイン・ルーディスの生まれ変わり」


 このことは知っている。たしか私の叔母だったはず。


 しかし、彼は嘘をついていた。そんなミスリードに引っかかるはずもない。


「ダインさんは。前世も男性だったらしいですよ。兄さんが叔母って思っているのは、ダインさんの本の翻訳者だからです」


「翻訳……者?」


「はい。兄さんは勘違いをしていたんですよ。完成品ばかりを見せられていたんでしょう?」


 弟のライガンに言われ、過去を思い返してみる。


 たしかに私は、叔母が書き上げたものばかりを見ていた。


 私とライガンは見た目に差がない双子だが、興味は真逆だった。


 ライガンは作品の隅々まで見る。私はそもそも読まずに捨てる。


 だから、知識量は弟の方が段違いに上だった。


「そうか」


「はい」


 私はルーディス・グランダの本を一冊持ち上げる。


 表紙を開くと、丁寧に書かれた文字を見つけた。


「ダイン……ルーディス……」


「はい」


「これが、本物が書いた文字か……」


「はい」


 あまり、興奮はしなかった。だけど、少しダインのことが知りたくなった。


 今度は、大輝とは呼ばずにダインと呼びたい。それだけ、興味が湧いていた。


「兄さん。また名前を交換しませんか?」


「どうして、急に言いだすんだ?」


「いえ。少し出来心ですけどね……。自分としては、この国をもっと良くしたい。エレンさんの熱弁を聞いて思ったんです」


 なんでライガンが私とエレン。そしてミカエラとの会話を知っているのか。


 もしかして、そんなはず……。


「はい。リフナ夫人に変装して傍聴してました。邪魔だったでしょうか?」


「いや、そんなことはない」


 しかし、ライガンはどのようにして入ってきたのか。


 謎になる部分が多すぎる。これも、知識量の差と言うものなのか。


 私はどれもライガンに負ける。どんなことであっても、勝ったことはない。


 部屋はさらに寒くなる。私は、静かに暖炉をつけた。


「もうすぐ……、冬ですね」


「ああ。一年は早いものだ」


「はい。兄さんは、この冬どうされるのですか?」


「私は、聖女様たちのところにもう一度戻るとする。再び、彼女らが知っているライガンとして」


 もう、心に決めていた。もっと世界を見たいと。


 文字が読めないなら、目で自然の雨を浴びたいと。


 それに、ライガンは少しほくそ笑んだ。


「兄さんらしいですね。では、今日から名前を交換しましょう」


「そうするとする」


 こうして、私はアランからライガンに変わった。


 今は目の前にいる彼がアランだ。名前の交換。それは、価値観の交換。


 こうして、私は解放された。これからは一庶民として暮らす。


 私は容姿を変更した。ミカエラたちが知る姿に。


 知らないフリをしていた。全て隠すことができなかった。


 弟にも迷惑をかけてしまった。もうこんなことをしたくない。


 私には、国を繁栄させることなんてできない。


 わかっていた。私は国よりも、自然が好きなんだと。


「私はこれから、聖女様たちのところへ行ってくる」


「わかった、あとは任せて」


「この国は任せた」


「行ってらっしゃい」


 私は城を出た。もう、威張らなくていい。


 意識すればするほど、私はやってはいけないことをしていた。


 そうだ。雇ったルアンナ嬢の様子も見に行かなければ。


 彼女は私の行動で傷つけてしまった。やることがいっぱいだ。


「寄り道せずに、聖女様のところへ行くとしよう」


 私は、迷わずセリンの家に入った。


 これから私はこの仲間たちのメンバー。抜ける気なんてさらさらない。


「え、えーと……」


 ミカエラが少し困惑したような顔をした。


 彼女たちも、今日は色々あったと思う。


「長らくお待たせして申し訳ございません。聖女様」


「ライガン?」


「はい。弟と名前を交換して参りました」


 これでいい。この空気感がものすごく好きだ。


 そして、外はだんだん暗くなっていく。


 夜は宿屋で寝ることになった。食事には肉が出た。


 ご飯は大盛。ミカエラの得意料理らしい、鮭のムニエルも食べた。


 ずっと、こうしていたい。やっぱり、聖女様の仲間はとても優しい。


「迷惑をかけて申し訳ない」


「大丈夫ですよ。ライガンさん」


「そ……。そうですな。謝るのはここまでにさせていただきます」


 そうして、私の一日は終わった。


 ミカエラたちと、これからどんな生活が待っているのか。


 それが、始まる前の今でも楽しみだ。

次回第2部最終話です。


よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。