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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第5章 獣人の世界とこれからの未来

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第148話 本物のライガンと家庭事情

 セリンの家にやってきた男性。


 彼は少し休んだあと、少し長い髪を手ぐしで梳かした。


 先にメウスが気づき、その後に大輝が調べ上げた人物に全員の視線が向く。


 本当に来るとは思わなかった。だけど、話し方もオーラも違う。


 どこか幼いというか、まだ未熟な人のようにも見える。


「それで……」


「うちの兄さんがご迷惑おかけしてすみませんでした!」


「『え?』」


 メウスが話題振りをしようとした直後に、ライガンが大声を出した。


 彼が言った『兄さん』という言葉。だけど、今目の前にいる彼は獣人じゃない。


 すると彼は、両手で髪をぐしゃぐしゃにした。


 ぴょこんと立った耳。どうやら、彼は獣人であることを隠していたようだ。


「ライガンさん。兄さんって……」


「は、はい。アランは自分の……。双子の兄なんです。親は離婚してて、父の方に自分が、母の方にアランが同居してました」


「だから姓が違って……。だけど、ライガンさんの角。一本足りないよね……」


「はい。実は、ちょっと変装させてもらってます。迫害対策で……。自分とアランはかなり似ているんですよ。一応一卵性ですけど……」


 一卵性双生児。そして、生き別れた兄弟。なんか、私と大輝に似ている気がする。


 私はそんなライガンの話を聞いた。こちらは、彼のことに割り込むことができなかった。


 元々、この国の政策は父親が作ったものだということ。


 そして、受け継いだ政策を、ライガンが放置していたこと。


「その時に、兄と再会して名前を交換したんです。大体今から数十年くらい前ですね」


「そんなに前から?」


「はいそうです。今日これから兄の方に行って、また名前を交換しようと思っています。そろそろ、この国の再建がしたいので……」


 そもそも私たちと行動していた人は、ライガンではなかった。


 どうして彼が私たちと行動したいたのか説明されると、社会を学ぶためだったらしい。

 

 たしかに、アランは知識があまりなかった気がする。


 それは、しっかり者の弟から見ても心配になるわけだ。


「だから、様々な粗相をしていたんじゃないかと心配で……」


「どうして、弟のライガンが兄を心配しているんですか?」


「はい……。兄はよく知ったかぶりをするんです……。実は、裏で色々しているんじゃないかと、要所要所で変装して追跡してました……」


 どうやら、ライガン本人は相当な過保護者らしい。


 ライガンが言うには、グラーシア領の本屋にいた客。そして、本屋の店員などの数名。

 

 他にも、ラディルの城では城内の役人にもなっていたようで……。


「気付かなかったです……」


「それはそうでしょう。自分は変装も変声も得意ですから。ほら、こうすれば髪の色や目の色まで変えられるんですよ」


 そう言って、ライガンは全部の見た目を変更した。


 気づけば容姿は私の姿になっている。少し声を出してもらうと、全くの一緒だった。


「聖女さんの容姿が気に入ったので、ちょっとやってみました」


「か、完成度が……」


「瓜二つだね……」


「はい。魔法は使ってないですよ」


 そうして、ライガンは見た目を元に戻した。


 声の修正は少し時間がかかるようなので、なんか微妙な感じがする。


 彼の得意技のおかげで、アランにも気づかれることなく行動できていた。


 加えて、私たちにも判別できないクオリティだったということもある。


 弟が監視していたのは、〝ルーディス・グランダ〟に関してだろう。


「ライガンさん。アランが言っていたルーディス・グランダが叔母っていうのは……」


「あはは。それは嘘ですよ。彼の知ったかぶりが早速出ていたんですね……」


「なるほどです。だけど、なんでアランはルーディス・グランダの本を知ってたんだろ……」


「それはですねぇ」


 ライガンは空間魔法で本を取り出す。どうやらこれはアランの空間と共有らしい。


 出された本を見ると、全ての著者がルーディス・グランダだった。


 どうやら、ライガンとアランは互いにこの作者のファンらしい。


「大輝。これも大輝が書いた本なの?」


「まあな。ってか、全作品揃ってるじゃないか……」


「え? ダイキさんって、ルーディス・グランダさんなんですか?」


「ああ。ちなみにその名前は俺のペンネームだ」


 これは大輝もびっくりするわけだ。


 もちろん、大先生を目の前にしているライガンもまた、目を見開いていた。


 やっぱり作者がここにいると、テンションが上がるのはわかる。


 むしろ、作者が私の兄であることを全力で出したいくらいに。


「私の兄が、その作者なんですよ」


「聖女さんのお兄さんがですか?」


「はい。何せ、あの伝説の……」


「殺し屋ダイン・ルーディスだからな! って、ミカエラ美味しいところ持っていくなよ」


 っと、大輝のテンションをコントロールしたところで……。


 ライガンは、なぜアランが自分の叔母と知ったかぶりをしたのか説明してくれた。


 たしかに、二人の叔母は本を書いていたとのこと。


 そして、その叔母はルーディス・グランダの本を翻訳していたらしい。


「翻訳すると、著者名に翻訳者の名前も記載されますよね」


「はい」


「それで、血迷ったんだと思います。あれからですよ、自分の叔母がと言い始めたのは」


 そうして、誤った知識を身に着けてしまったらしい。


 本当にどうしようもない兄だ。まるで、血にしか興味がなかった大輝みたいに。


 ちょっと気になったので、少しいやらしめの視線を彼へ向ける。


 すると、大輝はすぐにそっぽを向いた。


「大輝。せっかくだからサインを書いてあげたら?」


「……」


「ねぇ大輝!」


「わ、わかったよ……」


 大輝はメウスからペンをもらうと、本にサインを書く。


 書かれる古代文字。名前の文字はルムミア語と大差ないらしい。


 本全てに書き終えると、大輝はペンを置いた。


「これでいいだろ。ダインとしてのサインだ。もうこれ以上書きたくないんだけどな……」


「それはどうしてですか?」


「ま、こっちも個人の事情ってもんがあるんだ。ライガン。兄が待っているんだろ?」


 大輝はライガンを兄の元へ移動させようとする。


 かなり恥ずかしいらしい。まあ、こんなにもファンがいたらそうなるよね。


 ライガンは本を全て片付けて、家を出た。その時の彼は、計三回もお辞儀をしていた。


 これから彼は、ライガンではなくアランとして生活をする。


 そして、私たちのところには、私たちが知っているライガンが戻ってくる。


 少し頭が混乱するけど、それが彼らの最適解なんだろう。


 とここで……。


「うああああああああああああああ! レーシス姓の血のデータ取り損ねた!」


 大輝の絶叫が街中を駆け抜けたのだった。

残り2話です。


次回は初のアラン目線。


二人は名前を交換するので、目線担当のアランはのちのライガンですねw


混同しないように気を付けます!

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