第15話 兄の助言
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
私が見える景色は遠くに見える巨大な熊の背中。股の間から人の足が見える。あれから私は移動して、確実に熊を狙える位置にいた。
「だ、誰か! 誰かああああああああああああ!」
少年の声が大きい。前世の知識によれば、大声は熊を刺激するやってはいけない行動。このままでは少年が……。
「助けないと……!」
私には睡眠弾がある。問題はそれが図体の大きな熊に効くかどうか。もっといえば、巨大なものにはかなり強力な麻酔が必要。
麻酔も何度も使えば耐性がついてしまう。一回で昏睡状態までしないと、すぐに無力化されてしまう。
「深読みしちゃダメ!」
思考の回転が止まらなくなった私は、大声でそう叫んだ。広く反響する私の声は熊の耳に届いてしまう。
熊がゆっくりこちらを向くのが見えた。怖い。怖すぎて、どうすればいいのか真っ白になる。
のっそり、のっそりと歩いてくる熊。自分の心臓がバクバクと脈打つのが聞こえる。こうなったらと思い、ヘカートのスコープを覗き込んだ。
緊張で照準が合わない。そもそもどこを狙えばいいのかわからない。
サバゲーであれば弾が一定数当たれば倒せる。だけど、こんな相手は初めてだ。私は熊駆除の達人なんかじゃない。
「大丈夫……。大丈夫……」
唇が震える。魔法を唱えたくても、呂律が回る自信すらない。それでも、私がやらないと、私もあの少年も――。
「大丈夫……」
――『美香。銃を撃つ時は気持ちがブレてはいけないんだ。銃と一つになることを考える』
「お兄ちゃん……?」
――『まずはどうやるんだったか、俺が教えたことを復唱してみて』
「まずは、深く深呼吸をする。銃は私の身体の一部として気持ちを合わせる。身体を固定し、軸足をしっかり土にめり込ませる……」
心臓の音がどんどん遠ざかっていく。感情の暴走が消える。照準もしっかり熊の頭を捉えた。
「ヘカート。私の心に応えて……!」
「グォォォォォォオーーーーーーン!」
「サイレス! スウィン! ショット!」
気づいた時には、私の詠唱は終わっていた。銃口から水色の光。それがどんどん大きくなって、発射される。
解き放たれた時。軸足にしていた右足がより深いところまでめり込んだ。即座に〝エアー〟を逆噴射の要領で使用。反動を抑える。
弾丸は空気を痺らせながら飛んでいった。熊に命中するまであと数十メートル。時間が止まっては動くを繰り返す。
「当たって……お願い……!」
そう願った時。弾丸は熊に命中した。瞬間睡眠弾の効果が効いたのか、身体をよろよろさせて倒れる。
「や……った…………」
ようやく全身の緊張が解け、私の身体は崩れ落ちる。それに気付いたのか、少年が駆け寄ってきた。
「す、すごい……汗……」
彼の第一声はそれだった。隣に座って、背中を摩ってくれる。
「君……大丈夫……だった?」
緊張が解れた影響で力を使い果たした私は、息を整えながらやっとの思いで紡いだ言葉を少年へ投げた。
「え、えーと……名前は……」
少年が問いかける。
「私はミカエラ。ミカエラ・シャーロット」
「み、ミカエラ……さん。たた、助けてくれて……ありがとうございます……!」
「どういたしまして。あなたは?」
私も少年に問いかける。
「僕はエレンです。エレン・ベルンライト」
「エレン。いい名前ね」
「ありがとうございます!」
私は、光魔法の〝ライティス〟を使用し、周辺を照らした。〝ライティス〟もエアーと同様殺傷能力はなく、ただ光源として使える下級下位魔法。
改めて少年エレンを見ると、とても綺麗な亜麻色の髪をしていた。顔はものすごく幼く、身体も華奢だ。
「ミカエラさんって、魔法使えるんですね……」
「まあね。一応、上級上位魔法はほぼほぼ使えるよ」
「じょ、上級上位……!?」
「うん」
あまり自慢じゃないが、自慢になってしまったのは仕方ない。エレンは私にさらにくっつく。
「僕……。自分より大きいの見ると怖くて……」
「わかる。さっき私も感じた」
「え?」
「怖かった。失敗したら、エレンに当たってしまうんじゃないかって。上手く効果が出なくて、熊を刺激してしまうんじゃないかって」
「……」
私の率直な言葉に、エレンは黙り込む。私はそんな彼を見守った。彼にも色々あって、この森に迷い込んだのかもしれない。
「熊が倒れた時。僕は熊が死んだのではないかっと思った。でも、ミカエラさんは〝スウィン〟って唱えたよね?」
「うん。もしかして知ってるの?」
「少しだけ……。僕の先生が教えてくれたんだ。でも、僕のせいなんだ。僕が心も身体も思考も弱いから……」
エレンは暗い顔をして下を見る。そんな彼を、私は勇気づけたいと思った。かける言葉を考える。それだけで、二人の時間は長い気がして……。
「改めて言うけど。熊と対峙するのは今回が初めてだったの。ものすごく怖かった。大きな壁のように聳え立っていて、攻略できるか心配だった」
「でも……」
「私は、自分ならできるって何度も念じたよ。そしたら、見える世界が変わって。壁も少しだけ低くなって。飛び越えられるってところまで到達できなかったけど、気付いたら越えていたから」
私は自分の頭に入っていることを全て吐き出した。すると、エレンの顔に明るさが戻っていく。
「ミカエラさんはすごいね。僕にはきっとできないや」
「できないと決めつけない方がいいよ」
「なんで?」
「だって、それって自分で自分の限界を決めてるってことでしょ。エレンにもきっとできる時が来るって!」
私の助言にエレンは大きく頷いた。楽しい時間はあっという間に過ぎていき、遠くからカンテラの光が見えてくる。
「ミカエラ!」
聞いたことのある声。メウスを先頭にして、お母様とお父様がやってくる。私は彼らに『ごめんなさい』と謝った。
帰るところがないエレンは、私の家で預かることになった。ただ……。
「メウス! エレン! なんで私のベッドで添い寝してくるの!」
何故か二人は私に対して、異常に懐いているのだった。
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次回。冒頭から事件が……




