第142話 カオスな公開処刑(?)
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
翌朝、私は誰もいない宿屋を出た。
一人。目を覚ました時には、外は異様な静けさ。
階段を下りる。エントランスの受付嬢。
本当に誰もいないところを横切ったので、声すらも聞こえない。
外に出ると、人は誰もいなかった。何かがおかしい。
「とりあえず、セリンさんの家へ……」
独り言がこぼれる。それを聞く人もいない。
大通りを通り抜ける。人はおろか、小鳥すらもいない。
そこから、何度か曲がって目的地に着くと……。
「おい! ダイン・ルーディスが公開処刑されるってよ!」
「マジか! 最高じゃないか!」
「けどよ。公開処刑とはいえ、あいつに効果のあるものはあるのか?」
大輝が公開処刑? それはどういうことか。
私は人の波をかき分けていく。そこには、相変わらず筋トレをしている大輝の姿。
こんな状況でも恥ずかしがることなく日課ができるのは、まあわかってはいたけど……。
これから処刑される。もしかしたら……、いや、そんなことあり得るはずがない。
「お、ミカエラ。おはよう! 今日は最高の日になりそうだ」
「最高の日って、公開処刑でしょ! それのどこが最高なの!」
「いやあ。こんな日が来るとはなぁ……。どんなことをされるのか楽しみだ……」
「話聞いて!」
なんでこんな状況でも、笑顔でいられるのか。
大輝の価値観も変化しているようだった。
人の群れから、誰かが入ってくる。
感知できる魔力量が多い。かなり魔法を極めている。
姿を現したのは、鹿の角を生やした女性獣人だった。
「どうも。お初にお目にかかります。ミカエラ様」
「だ、誰ですか?」
「おっと、名乗るのが先でしたね。リフナと申します。以後お見知りおきを」
リフナという女性は、大輝の背中に手を振れる。
直後、爆発音が響いた。私はその出どころを探す。
「お、おい! あの男の背中に穴が空いているぞ!」
「マジか……。あのリフナってやつ、相当ヤバイ……」
観衆が驚きの声を上げる。私は大輝の背中を見た。
たしかに巨大な穴が空いている。本人の表情と言えば、ものすごく嬉しそうだった。
「はははははは!」
「ダイキ様で間違いないですね。かのダイン・ルーディスの生まれ変わりと……」
「そうだがなんだ! くぅー。一発目から効くなぁ……」
この状況を楽しんでいるのは、お兄ちゃんだけなんだけど……。
大輝の高らかに響く笑い声は、観衆をドン引きさせた。
その後も、大輝の身体に穴が空いていく。
それでも全てを受け止め笑いに変えていく。
本人の意識が変化していく。どんどん、別人と化していく。
「最高だ。り……えーと……」
「リフナです」
「そうだ、リフナ。他にもやってくれ。気に入った」
「処刑に積極的なのは、貴方が初めてですよ」
その通りではあるんだけど……。
大輝が喜ぶ意味がわからない。
「本当に気に入ったんだ。ほら、どんどんやってくれ。急がないと穴が塞がるぞ!」
大輝の背中の穴はたしかに塞がり始めている。
回復速度が速い。だけど、彼に魔力を感じない。
「なんなんだ、あいつは……。普通じゃないぞ!」
「リフナってやつの読みがあってんなら、ダイン・ルーディス……なのか?」
「なんか、ものすごく楽しんでいるな……」
観衆の声も、少し落ち着き始めた。
大輝には何も効かない。リフナは塞がりかけている部分に、液体を流し込んだ。
「それはなんだ?」
「毒でございます。それも、滅破の壊毒に並ぶ、もうひとつの劇毒です」
「ほほう……。俺の中に耐性ができていないが故の選択か……。直接飲みたいな……」
「ではこちらを」
大輝はリフナから受け取った液体を飲み干す。
穴から漏れることはない。どこかで全身に吸収させている。
そして、少し苦しそうな表情を浮かべた。
毒が効いているのだろうか。私としては、ここを盛り上げるためそうであってほしい。
「頭が痛いな……。なんかかなりズキズキする。視界も揺らいできた……」
「どうやら、効果があるようですね……」
「みたいだな。もう少しこの感覚に浸りたい気分だ。ま、死ぬレベルじゃなかったが……」
「……!?」
死ぬレベルじゃない。どこをどういう判断で出てくる言葉なのか。
大輝はその後も同じ液体を飲んでいく。
顔はどんどん蒼白となっていき、体調も危ぶまれる状況。
「リフナそのままやれ! ダインを殺せ!」
「いけいけ!」
「いいぞいいぞ。その調子で毒に盛られろ!」
観衆のボルテージはどんどん上がっていく。
大輝はどんどん劇毒を飲み干していく。
リフナはその毒の強さを上げていく。
それをも大輝は飲み干し、苦痛を愉しむ。
「だんだん……。意識が……」
「まだありますよ。これは、先ほどの劇毒をさらに強化したものです」
「ありがとう……」
大輝の顔色は蒼白を通り越していた。
このままでは命の危険もある。だけど、本人は飲む手を止めない。
まだいける。まだいけると、毒を身体に蓄積させていく。
その様子が、なんだか見ていられなくなってきた。
観衆も『早く死んでくれ』と叫び始めていて、騒がしくなる。
「もう……。これ以上毒は難しそう……」
「まだありますよ。こちらはどうでしょう?」
「あ、ああ……」
大輝の気合も希薄と化していく。もういい。もういいから……。
それでも、大輝はただただ、毒をため込んでいった。
身体の重心がブレ始めている。もう、彼の身体は持たないかもしれない、
なのに、どこまでが本当なのだろうか。
「り……あ……え……」
「リフナです」
「リフナ……もっと、即死性の強い毒はないか……?」
「と言いますと……」
「お兄ちゃん!」
私は叫んでいた。これ以上、兄が自分を追い込む姿を見たくない。
もう、これ以上……。大輝には……。命を無駄にしてほしくない……。
「……」
「お兄ちゃん!」
「わかったよ……。種明かしだ。実際には毒は効いていない。一口飲めば毒性がわかるからな。俺にはどんなものでも効くことは無い」
つまり、先ほどまでのはただの演技ということなのだろうか。
これには、観衆もリフナも驚いたらしい。
やっぱり、大輝は対策を練っていたようだ。
「それで、リフナだったな。俺たちになんの用だ?」
「わかりました……。お詫びとともに、お話させていただきましょう」
観衆はどんどんばらけていく。
この結果はどうやら彼らにとって期待外れだったらしい。
それもそのはず。大輝の演技力が非常に精巧で全員をだましていたから。
ここまで上手くやりこなせるのは、彼しかいない。
やっぱり、私の兄はこうでないといけない気がする。
しばらくして、セリンの家に残ったのは私たちだけになった。
リフナから語られることとは、何なのだろうか……。
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