第141話 獣人魔王アランの計画②
大結晶の中に入っていくメウス。アランはそれを見ているだけ。
彼は言っていた。あの殺戮者ダインの妹がミカエラであることを。
そして、そのダインは本来の力を取り戻さんとしていることを。
これは厄介だ。アランの思考は、最悪な方向へ向かっていた。
「アラン様……」
「大丈夫だ。リフナ。次の手を考えよう」
まずはダインを無力化しなければならない。
しかし、彼がもしも……。可能性としてはなくはない。
「もしも、彼が龍の血を……」
完全に無力化することは難しくなる。
それは、アランが一番警戒していることだった。
一度血を覚えれば、あらゆることが無力化される。
天命尽きるまで死ぬことは無い。それが、ダインという男だ。
歴史の書。そこには禁忌の毒を唯一作ることができた人物。
誰もが恐れ、誰もが怒り、誰もが苦しむ。
ダインは歴史を作り破滅を産む存在。
「どうにかせねば……」
来た道を戻る。王宮の中へ移動すると、リフナ夫人が本を持ってきた。
アランは読書が苦手だった。少しでも字を見ると、寒気を感じるほどに。
しかし、国をまとめるには文学にも精通していなければならない。
「リフナ。重要なところだけ読み上げてくれ」
「かしこまりました。まずは、ミカエラのことに関してです」
リフナ夫人は少しずつ読み上げていく。
まずミカエラが、人族の国の出身であること。
そこのシャーロット公爵家次女であること。
「母親がブライアント公爵家の生まれです」
「となると、代々暗殺業をしている家系か……」
「さようでございます」
それなら、ミカエラの射撃能力と比例する。
アランは水晶を取り出す。そこで、戦場での彼女の様子を確認した。
迷いがない。それは間違いだと気づく。
手が震えている。顔が引きつっている。
その映像を、何度も再生した。
『最悪……』
彼女はその言葉を鍵に銃弾を放つ。
その間に違和感を覚えた。何度も、何度も……。
『最悪……』
微かなノイズ。彼女の口がほんの少しだけ動いている。
音を上げる。ノイズを除去する魔法をかける。
『最悪……お兄ちゃん身体雑にしすぎ……』
「お兄ちゃん……」
「アラン様。どうされましたか?」
「ミカエラの兄はダインだったな。しかし、ダインの姓はルーディスだ」
「ええ、そうですね」
では、ダインとミカエラにはどのような繋がりがあるのか。
それを探さねばならない。アランは別の映像を流した。
そこには、槍で左胸を刺された男性。
彼の口は『ミカエラ』とつぶやいている。
「この男が、兄か……。しかし、なぜ絶命しない……」
「彼はラディルの城下町にて、壊毒を作り連行されております」
「壊毒!? 禁忌の劇毒とされるあれをか!?」
「はい」
ダインしか作り出すことができない毒薬。
それを、この者が作ったとなれば間違いない。
彼こそが、ダイン・ルーディスの生まれ変わり。
絶命しないとなれば最悪だ。彼はもう、龍の血を飲んでいる。
本来の力は、本格的に戻りつつあると言っていい。
先手を打つことすら許されない。アランは自身の行動の遅さを呪った。
「ダインはこの者で合っているのか?」
「先ほどの映像から推測するに、間違いないと思われます」
「そうか……」
この世界には『英雄伝説』と呼ばれる絵本がある。
そこには、英雄ゼノンと共にした二人の存在がいた。
その中に殺し屋のダインが書かれている。
ダインは数多の薬を作り、剣を作る善良な存在とされていた。
「しかし、それ以外の書物では危険人物とされている」
「はい。そうでございます。彼は聖戦にて、多くの命を奪いました。それも、敵味方問わず」
「そうか……。それが、復活してしまった。この国に対しても、世界に対しても由々しき事態と言って過言ではない」
「はい。全くのその通りであります」
しかし、なぜだろうか。アランが派遣した警備員が帰ってこない。
どう捉えればいいかわからない状況。
放った鶏は帰ってくる。しかし、放ったカラスは帰ってこない。
物事は交互に返ってくる。それでも、一方的ではらちが明かない。
「ここは、こちらから干渉すべきことだ。リフナ。彼女らはどこにいる」
「はい。どうやら、リンダ・パッシュの家に居候しているとのことです」
「わかった。リフナはパッシュ家の方へ向かってもらいたい。ダインには満足するまで拷問を受けさせる方向で進めるとする」
「殺さないとは、どのようなお考えで?」
それは決まっている。ダインが出てくるのを遅らせる。
そして、ミカエラを拘束する。
それだけでも効力はあると、アランは考えた。
「わかりました。すぐに手配します。しかし、ダイン様を処するのに値するものがございません」
「なんでもいい。とにかく燃やせ、毒に侵せ。手段は択ばない。できることを全てやり、絶対に自由を失くせ」
「いやはや。やはりさすがでございますな」
「そうであろう。執行は明日明朝。わかったか」
「承知いたしました。では、失礼いたします」
リフナ夫人が部屋から出る。
アランが一人、椅子に座って残るだけ。
時間はとうに夜を告げていた。今日の月は儚く白い。
雲に隠れ、存在をも消し去らんとする姿。
それは、アラン自身を揶揄するように、わずかに嗤っていた。
「ダイン……。いや、ダイキ……か……」
言葉を繰り返す。こうなるとは知る由もない。
時の流れも、全ては止めることができない。
この世界の時間を止められるのは、世界にただ一人。
人族の国北の魔王。リザーク・ヴェルム。
「メウスの幼馴染であったか……」
もう、全てが遅すぎる。どうしてこんなにも無知で盲目なのか。
この世界には、本物の自由は存在するのかが、一向にわからない。
たった二文字に隠された意味。それを知った時、彼は何を思うだろう。
アランは一人、寝室へと向かった。これまで知ったこと全てに目を伏せながら。
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次回ミカエラ目線に戻ります!!!!!!!




