第140話 獣人魔王アランの計画①
◇◇◇アルムガンド王宮要塞◇◇◇
青い結晶の光を浴びて、王宮の最奥部では二人の男が話をしていた。
彼ら以外には誰もいない。そのやり取りの舵を握るのは、魔王アランだった。
「毎度の話をありがたく思う。考えはまとまったか?」
「うん。大体は飲み込めたかな? ぼくもついこの前友人からねー」
アランと向かいあっているのは、メウスという少年。
本人は神であると認めてくれた。話の流れが速い。アランは彼の行動に違和感を抱き始める。
額に汗を浮べながら、その違和感の原因を探っていく。
国として邪魔者は排除すべき。そうすることで、世界は安寧に包まれる。
「メウスは本当に血を分けてくれるのか?」
「うん。いくらでもいいよ。だって、ぼくの血がお金になるなんて、夢だと思っていたから」
アランは金欲が強い男。それは誰もが知っていることでもある。
お金のためなら手段を択ばない。お金になるものはなんでも売りさばく。
そうして、この国は繁栄していった。
しかし、この国の名前を知る者はもういない。
世間からは切り離され、見放され。アランは孤独を感じていた。
「メウスはこの国にいる女で好みはあるか?」
「うーん。恋心はないかな? 好みもイマイチピンとこないね」
「つまりは、好きな人がいると……」
「うん、ミカエラが大好きだからね。あの子ものすごく頑張り屋で、優しいから」
「ミカエラ……か……」
メウスが教えてくれた人はきっと、前に水晶で見た銀髪金眼の少女のこと。
彼の仲間と気づいた時。アランは少しの恐怖で身震いをした。
ミカエラ。それは、ラディルの魔王城近辺で起こした戦争に終止符を打った人。
彼女の射撃スキルは、異常なほど正確だった。
一発で確実に仕留める。その弾道に迷いは見えない。
「それに、彼女にはお兄さんもついてるからね。きっと大丈夫。許してくれると思うよー」
ミカエラの兄。それが誰なのかという情報は、アランのもとには来ていない。
しかし、使い魔の噂が広まりつつある。
アランの隣には鹿角のリフナ夫人が立っていた。
「アラン様。王宮裏手に祭られていた邪剣の持ち主が現れたとのことです」
「リフナ夫人。情報をありがとう」
王宮裏手の森林。そこには、ダインレヴェナントという魔剣があった。
アランはその持ち主を見つけるため、多くの男を生贄にした。
ようやくその持ち主が現れた。その者をぜひとも味方につけたい。
アランの思考は、瞬く間に広大と化す。
しかし、その願いはすぐに崩される。
「それで、リフナ夫人。その者は誰だ?」
「ええ、それがどうやら――」
「何!? ダイン・ルーディスの生まれ変わりだと!?」
「はい……」
ダイン・ルーディス。それは、全世界で恐れられている殺戮者。
どんな人相手でも勝利を収める剣豪。
アランはそれに耳を疑った。それに釣られるように、メウスが口を開く。
「ダイン・ルーディス? あ、ミカエラのお兄さんのことだね!」
「はぁあ!? ミカエラの兄がダイン・ルーディスだと!?」
「うんそうだよ。正確には、ミカエラの〝前世〟の兄。だけどね」
聞いてはいけない事実を知ったアランは、両手で頭を抱える。
この時アランは敵に回してはいけない人を、敵にしてしまったと自覚する。
そして、ダインの魂が生きていたことに対して、震えが止まらなくなる。
しかし、ダイン・ルーディスはまだ復活したばかり。
本来の力を最大限活かせないと、アランは別ルートの模索をする。
「こっちに来てから、レヴェルのこと気にかけていたみたいだからねー。まあ、ぼくはまだ会ってないけど」
「レヴェルとは?」
「大輝によれば、ダインレヴェナントの愛称みたいだよ。かなり親密みたいだね」
「ダイキ?」
アランの知らない単語が増えていく。どんどん明かされていく真実に、不安が隠せない。
メウスの説明では、ダイキというのはダインの今の名らしい。
なぜそのような情報が流れてこない。アランは怒りを纏い始める。
しかし、この怒りをどこへ放つか。それだけが彼を苦しめていった。
「そろそろ、血の提供をしたいんだけど……」
「そうであったな。メウス。協力をありがたく思う」
「どもどもー。ぼくはいつでもオーライだよー!」
こんなにも飄々としているのに、緊張という言葉が見当たらない。
ただ、アランは彼を味方にしてよかったと思っていた。
あくまでも神。されど神。どこまでの能力があろうが関係ない。
アランはリフナ夫人に頼み、血を取る準備を開始した。
「じゃ、ぼくは先に大結晶のところへ行ってるね」
「了解した」
王宮の間から、メウスがいなくなる。
しかし、こんなにもとんとん拍子に進むと困ることもあった。
どこかに罠が仕掛けられている。そう考えることができてしまうからだ。
メウスのあとを追うように、アランも移動を開始する。
王宮の地下通路。そこは、かなりジメジメしていて、空気が重い。
アランでさえ、頻繁に出入りすることはない。
獣人族は誰も寄り付かない場所。そこに、生命の大結晶は存在する。
「久しぶりに来たかも。えーと、ここをこうしてー」
大結晶の前では、メウスが中核になる準備をしていた。
本人曰く、一度やってみたかったらしい。
前から会話で挙がってきたことであり、アランも疑問に思っていることだった。
楽しそうに進めるメウスを見ていると、なぜ積極的なのかわからなくなる。
アランはその様子をただ見るだけ。しばらくすると、全ての準備が整う。
「じゃ、ぼくはこの中で魔力を消費。アランにはぼくの血を提供。だね!」
「そうだ」
「じゃ、行ってきまーす!」
メウスの身体が浮かび上がる。本人が希望した身体の拘束。
この国の動力源は、全て魔力で行われている。
ダインレヴェナントが嫌った女は、全て動力となっていた。
一人の犠牲も惜しまない。むしろ、いくらでも歓迎し献上する精神。
それは、今この国の未来を変えようとしていた。
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