第136話 大輝とレヴェルと守り人
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
「大輝! 大輝! エルフさん。大輝の脈を確認してください!」
私は焦っていた。それは彼が自分の血を全て与えると言ってから、数分後の出来事だった。
突然倒れて、今エルフさんが大輝の手首に指を当てている。
「脈が……ない。です……」
「え?」
「脈が……ありません。彼はもう。やはり、本物というのは偽造だったようですね……」
「そんな……」
再会して数日。短い期間だった。
彼はもう。帰ってこない。そう考えるしかできない。
私は、彼を信じ切れない。未だに信じられない。
「……ふぅ」
誰かがため息をついた。私はその人を探す。
「誰か、ため息をしませんでしたか?」
しかし、皆首を横に振る。では、誰が……。
「やっぱり……容赦ないな……」
「え?」
真下を見る。そこには、微笑んでいる大輝の顔。
脈がないはず。心臓も止まっているはず。
なのに、話している。息をしている。
彼はもう、人間ではない。では、何者なのか。
「レヴェル。もういいか?」
声はしない。私には聞こえない。
大輝はゆっくりと起き上がった。
そして、ダインレヴェナントの柄を握る。
「抜くぞー」
剣をゆっくりと引き抜く。その剣は、血の深紅に染まっていた。
そして、その剣を放り投げる。使い方が雑に感じたのは、私だけだろうか。
剣は黒い光に包まれた。形状が変っていく、やがて姿を現したのは、一人の男性。
顔立ちもいい。そして、凛とした姿に鋭くとがった瞳。
「おい、レヴェル。すっかり姿変えちまったな」
「それもそうであろう。其方の見た目に合わせたまでだ」
「あはは。今じゃ俺よりも堅苦しいな」
この人がレヴェルさん? 思ってたのと違い過ぎる。
それよりも、私は大輝のことが心配だった。
私は大輝に手を出すよう言う。そして、自分でも脈を測った。
血管は異常に柔らかく、血が流れている様子がない。では、なぜ彼は生きているのか。
「大輝。体調は?」
「問題ない。というよりも、今の俺はレヴェルと一心同体だからな」
「うむ。彼の血を常に受けておる。ところで、ダイキとは誰のことだ?」
「あはは。俺のことだよ。今の名前は、工藤大輝だ」
大輝が名前の説明をすると、レヴェルさんは頷いた。
どうやら理解してくれたらしい。大輝は大輝だ。
「ダイキ……。聞きなれない名だ」
「そりゃそうさ。ま、レヴェルは今まで通りダインって呼んでくれればいい」
「うむ。承知した。これからもよろしく頼もうぞ。ダイン」
そんな様子を、エルフの女性がポカンと見ている。
他の人も同様だ。みんな、状況を把握しきれていない。
私はまあ、なんとなく理解したつもり。
聖域の森の葉が歌う。そして、まるで祝福のようなメロディが漂う。
「申し訳ございませんでした……!」
「きゅ、急にどうした!?」
エルフが突然大声を出す。大輝は少しのけぞり、聞き返した。
「ダイン様にお願いされて守り人をしてきましたが、まさかご本人と再会できるとは、思わず……。無礼な態度と対応をしてしまい……。誠に申し訳ございませんでした!」
「い、いや……。それは……」
「これでも足りないですか……! では何度でも謝罪いたします。申し訳ございません……!」
この守り人は正義感が強いらしい。さすがにやりすぎな気もするけど……。
「ダイン。言う言葉があるのではないか?」
「……。そうだな……」
「うむ」
大輝の目つきが変わる。深く息を吸い吐くと、口を開いた。
「守り人よ。私の盟友を見守ってくれてありがたく思う。私はこれからも、この剣と共にあると誓おう」
「ダイン……様……。は、はい。ありがとうございます! 大切になさってください……!」
彼の普段とは違う。ものすごく重みのある言葉。
きっとこれが、彼がダインだった時の話し方だったんだろう。
なんか、目元が熱くなる。私は彼の過去を知らないはずなのに……。
グスン。ありとあらゆる場所から、涙ぐむ声が聞こえる。
だけど、それをぶった切るのが……。
「じゃ、俺のおすすめを紹介するか……」
通称〝スーパー空気読めない星人〟の大輝だった。
大輝は私の隣に立つ。そして、品物紹介をするかのようにレヴェルさんへ勧める。
レヴェルさんは女性の血を飲まないと言った。
だけど、大輝が説明した瞬間の食いつきは凄まじい。
ひたすら味の説明をする大輝は、ものすごく楽しそうだった。
「レヴェル。どうだ? 俺の熱弁」
「うむ。気に入った。では、早速いただくとしよう」
大輝が私の方へとやってくる。そして、首元へ指を当てた。
「ブラドレア」
私の血が抜かれていく。それを、レヴェルさんに渡す。
レヴェルさんは、血に顔を近づけた。そして、鼻を動かしている。
そうして、大輝の指を舐める。なんか、イメージがぶっ壊れる……。
「うむ……。ダインの言う通りの味だ。ミカエラだったな」
「は、はい!」
「其方人を一人殺しているのではないか?」
「え?」
たしかに、私はリザークという魔王を殺した。
だけど、彼は生き返り生活をしている。
レヴェルさんは、それのことを言っているのだろう。
私は軽く頷いた。血と近い暮らしをしている彼にはわかるらしい。
「やはりそうか。其方の血の味はとても落ち着いている。我も好きな味だ」
「あ、ありがとうございます……」
「しかし、ひとつ足りないものがあるな……。それは、自分の行動で変わってくる。これからの成長を見守るとしよう」
「わかりました」
仲間にレヴェルさんが加わり、私たちは国の中心地へと向かう。
大分日が暮れてしまった。そういえば、しっかりしたお昼を食べていない。
「ミカエラさん。僕お腹空きましたよ……」
「エレンは絶対肉ばかり食べるでしょ!」
「そこの少年はエレンというのか……。ぜひとも味見させてもらいたい」
「レヴェルさんには絶対あげません!」
まあまあ、エレンは少し怒り気味のようだけど。
大輝はレヴェルさんと肩を組んで歩いている。
これ、大学生なんだよね? なんだか面白い構図。
とりあえず、今回の件は終わった。帰ったら、しっかり食べて寝よう。
メウスのことも気になるし、明日から騒がしくなりそうだ。
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