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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第4章 相棒

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第135話 相棒

「ダイン・ルーディス。生まれ変わりの殺し屋だ」


「こ、殺し屋!?」


「それも……ダイン……ルーディス……だと……」


「ああ」


 驚くのも無理はない。俺だってわかっている。


 台座の前に立った俺は、変わり果てた愛剣を見た。


 赤黒い錆びで覆われた刃。これはかなりの数を吸っている。


 俺はさらに近づいた。剣に触れるとごつごつしていて切れ味も悪そうだ。


「ダイン・ルーディスって、死んだんじゃなかったのか!?」


「ああ、死んださ。けど、神から最後の命をもらった。それが今の俺だ」


「では、なぜ私たちを殺さない。殺し屋ならば……!」


「ああもう。そういうのはいいから。用事があるのはこの剣だけだ」


 一般国民の列の後ろにはミカエラたち。


 今回連れて来たのは、ミカエラとエレンの二人だけ。


 他の人は、情報収集に専念してもらっている。


「レヴェル……」


 剣に覇気を感じない。完全に心までやられている。


 もっと早くに戻ってくれば、こうなってはいなかった。


 俺が最初にすること。それは、自分の血で目覚めさせること。


 ナイフを取り出す。そして指を切る。出た血をレヴェルの剣に塗った。


 しかし、吸収される気配すら感じられない。


「飽きちまったか……」


「その。その剣のことを知っているんですか?」


 一人の青年獣人が声をかけてくる。


 俺は首を縦に振り、『こいつは俺の剣だ』と答えた。


 少しして、灰色髪をしたエルフの女性が出てくる。彼女の顔には見覚えがあった。


「ダインレヴェナント様に御用ですか?」


 このエルフは、レヴェルの管理をお願いした人。間違いない。


「ああ。持ち主の再臨ってやつだ」


「再臨? とは。今までもダインと名乗るものは来ました。しかし、全て空振り。貴方も偽物ですね?」


「ん? なんならこいつの嫌いな詩でも歌ってやるが……」


 まだ理解できてないのか。それもそのはずだ。


 俺の口調自体がダインと違う。昔は非常に堅苦しかった。


 それが、日本で生活していくうちに砕けていった。


「なるほど……」


「どうかされましたか?」


「じゃ、これを見てくれ」


 俺は騎士団集会所で受け取ったメンバー証を出す。


 受付嬢のごり押しで、登録名を大輝ではなくダインと入れていた。


 これが証明書になるだろう。そう考えたのだ。


「騎士団集会所のメンバー証ですか……」


「ああ。ダインって書いてあるだろ?」


「ええ。書いてありますね。それが?」


 こいつ、鉄壁かよ。相当呆れているんだろうな……。


 なら、剣と意識を接続するしかないか。


 俺は再びレヴェルの前に立つ。剣の柄を握る。


「ちょっと失礼する」


「何をする気ですか?」


「こいつと意識をリンクさせる。彼が蓄えている穢れた血の除去って考えてくれりゃいい」


「そのようなことをしたら!?」


 この時すでに、エルフの声は聞き流していた。


 余計な雑音は集中力を切らしてしまう。


「ソウルリンク アクト……」


 レヴェル、君が見た悪夢を俺にも見せてくれ……。


 意識が引きずり込まれる。奥へ奥へ。さらに奥へ。


 そこには、倒れている一人の男性がいた。


 長く伸びた髪とひげ。精神も存在までも完全に錆びてしまっている。


「レヴェル。戻ったぞ」


「何者だ……」


「あはは。迎えに来たんだよ」


 ここで、俺がダインであることを伝えれば敬遠されるかもしれない。


 俺は異空間の床に足をつく。そして、倒れたレヴェルの隣に座った。


「わかるだろ? お前をレヴェルって呼ぶのは一人しかいないはずだ」


「知らぬ……」


 完全に変わってしまっている。これはかなり大変かもしれない。


 ここは少しずつ記憶を戻してあげるしか、いい方法がない。


 静かな空間。黒く塗りつぶされた場所。


 ところどころに、赤いものが付着している。


 きっと、今までレヴェルが得てきたもの。


「俺さ。会いたかったんだ……」


「……」


「ほら。俺が死ぬ時言っただろ? レヴェルが嫌いな詩を歌うってよ」


「嫌いな……詩……」


 できるだけ。俺の正体を隠して。自力で戻ってこれる環境を作って……。


「アルウールバゴダ」


「……!?」


「驚いただろ?」


 レヴェルの手が震えだす。しかし表情は硬いまま。


 俺は歌い出しを声に出した。記憶を辿りながら。


「アルウルバゴダ(全て戻せ) アルウールバゴダ(全て元に戻せ)」


 俺は計り知れなく遠い天井を見つめた。


 懐かしい。こうして二人だけでいる時間が……懐かしい。


 三節目。四節目と歌っていく。その度に、レヴェルの身体が震える。


「レヴェル。思い出せたか?」


「うむ……。本人で間違いない。ダイン。よく戻ってきた」


「今まで寂しかったよな。こうして会えたのは奇跡かもしれない」


 俺は、レヴェルを抱きしめた。その肌はとても冷たい。


 レヴェルもやせ細った腕を、俺の背中に回した。


 それでも、彼の魂は今にも消えそうで、脆い。


「レヴェル。本当に、頑張ったな」


「うむ。しかし。もう持たない……」


「わかってるさ。今から俺の身体と繋げてくれ。全ての血を捧げる」


「だが……。今其方は普通の人間。ドラゴニュートとはわけが違うのではないか?」


 そんなことも考えて、俺は龍の血を飲んだんだ。


 問題ない。その覚悟はできている。


「問題ないさ。俺は、お前の相棒だからな」


「そうであったな。其方は我の相棒だ。そんなことで死ぬことなど」


 ――「『ない!』」


 意識を戻す。目を開けると全身に管が刺さっていた。


 俺の方からレヴェルの方へ。意識が朦朧とするのを感じながら。


「これは、どのような状況でしょうか?」


 エルフの女性が言う。


「こいつが、俺をダインと認めてくれた」


「それは嘘ですよね?」


「本当だ。ほら見ろ。錆びが落ちていく」


 俺はエルフやほかのみんなに、レヴェルを見てもらう。


 赤黒い錆びは液体と化し、俺の方へと流れていく。


 そして、俺の血がレヴェルの方へと向かっていく。


 この感覚が、この状況がこうしてやってくるとは、思っていなかった。


「よし、錆びの吸収は終わった。あとは俺の血を全て与えればいいだけだ」


「血を、全部くれと言われたのですか?」


 エルフはどうやら、レヴェル側から言われたと捉えたのだろう。


 俺は首を横に振る。


「俺からお願いした」


「はい?」


「俺からお願いしたんだ。自己責任ってやつだ」


 自分の腕を見る。肌は血の気もない真っ白になっていた。


 どうやら、吸いきったようだ。これで安心……。


 ――バタリ……。


 俺の意識は、完全に飛んだ……。まあ、大丈夫だろう。


 レヴェルもわかっている。お互い信じ切っているから。

大輝パートはもう少し続きます


第二部の主人公枠を完全に大輝が奪っていますが、予定通りの展開なのでご安心ください。


レヴェルとの再会はいかがでしたでしょうか?


私自身、書きながら泣いてしまいました。


二人は、ものすごく仲がよくお互いを尊敬しています。


こういう二人、書きたかった。


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