第133話 尋問の成果
大輝による尋問は、数時間かかったらしい。
彼は食事もせず、ひたすら聞き出しをしていた。
それなりに疲れているはずなのに、今彼は椅子に座っている。
今回の件でリンダさんも考えを改めたようで、大輝を受け入れ直してくれた。
「なんか……悪かったな……」
「ううん。大丈夫。ほら、リンダさんも」
彼女はすっかり元気になり、今は朝食の準備を再開している。
エレンたちも、外で卒倒した人の処置を手伝ってくれた。
それだけで助かる。そして、今回一番の活躍者はやはり大輝だと思う。
「悪かったねぇ。世間の噂だけを信じてしまうのは、相手を傷つけることなんて思わなかったよ」
「大丈夫だ。ま。俺は味方を殺したりはしない。そこだけは安心してくれ」
「そうねぇ。今回は本当に……。本当にありがとうねぇ」
何度もお礼を言うリンダさんは、申し訳なさそうな顔をしていた。
大輝はというと、魔法紙に書かれた文字を見ている。
そこには私の知らない文字があり、大輝は秘匿性の高いバルダ語で書いたと言う。
「いつ頃からバルダ語を書けるように?」
「んーと、四歳の時には書いてたな……。母ちゃんからは、絵にしか見えないって言われたが……」
「私が生まれた年だね」
「そうだな……」
メウスが言うには、この世界と日本は星の回転速度が違う。
大輝が五歳の時。一度時間が重なった。
そして、大輝の二十歳と私の十一歳が重なった。
このように時間が意図的に調整されているらしい。
その絶妙な差が、私と大輝の年齢差を縮めてくれた。
私は、そんな大輝が書いた文字を確認する。
やはりバルダ語を知らない私には、全くの意味不明だった。
「ところで、なんて書いてるの?」
「そうだな……。まずここを見てくれ」
大輝が魔法を唱える。すると、バルダ語で書かれた文字が浮き上がった。
浮き上がった文字は、そのままルムミア語に翻訳されていく。
「肉を販売したことで、条約違反をした……」
「ああ。これは、強要されていると考えてよさそうだ。パン屋の店主はこの条約の反対派だったんだろう」
「なるほど……」
「次はこっち。これは、捕縛された人の行き先を記録したやつだ」
大輝は文字をまた浮かせる。私はその現象をただ見詰めた。
勉強嫌いだった彼の文字。それは、ものすごく丁寧だった。
書きなれたバルダ語だからかもしれない。
彼の日本語は文字が見えないくらい、文字が崩れていた。
そういえば、漢字がほとんど書けないんだったっけ。
「捕縛された人は、女性はクリスタル漬けに、男性は聖域に運ばれるらしい」
「なんで女性はクリスタル漬けに?」
「ガチなことを言うと、レヴェルは基本女性の血は飲まないんだ。だから、不要な女性はクリスタル漬けにされるんだろ」
「じゃあ、男性は……」
レヴェルへの生贄。そうとしか考えられない。
しかし、大輝が懸念していたのはそこではなかった。
彼は、レヴェルが得ている血の純度が気になるようで……。
「レヴェルが善良の血を得た場合。あいつはどんどんさび付いてしまう」
「さび付くって?」
「あいつもかなりの偏食者でさ。基本はどんなものでもいいが……。気に入らなかった分錆びるんだ」
いやいやいや。そんな分け方は偏食どころの話ではない気が……。
だけど、彼にとっては大至急対処しないといけないらしい。
レヴェルを回復させるには、大輝の血が大量に必要なようで。
サビ取りの量によっては、全てを消費する必要があるのだとか。
「まあ、安心してくれ。血の一滴がなくても問題……」
「なくはありません!」
「ちょ。ミカエラ……」
大輝が問題ないと言っても、身体のことが気になる。
母体はやはり日本人。超人離れした能力は、魔法での上乗せかもしれない。
実はと言うと、彼がそのようなことをした時に合わせて、メウスに頼んでいることがあった。
それは、大輝が異常な能力を発揮した時の魔力量を測るというもの。
「大輝さ。大人数を背負ったりしている時魔法使ってる?」
「いや。使ってないな……」
「メウスはどう思う?」
「うーん。たしかに大輝の意見は正しいね。ぼくが見た限りだと、魔力の検出はなかった」
じゃあ、あのバカ力はどこから来ているのだろうか。
そんな中でも、大輝はただ一人魔法紙に書き込んでいる。
相変わらず絵のような字だったけど、その筆は迷いがない。
ものすごく慣れ親しんでいたんだなと、思ってしまうくらいに。
「よし、場所の特定ができた」
「ほんと?」
「ああ。聖域の場所は、この場所の反対側。そこには小さい森があったはずだ」
大輝による謎の土地勘。嬉しいけど複雑だ。
これは彼から見れば帰郷と言っていいのだろうか。
とても不思議な感覚を感じる。
私たちは大輝と一緒に聖域へ向かうことになった。
「俺はいいから、みんなは朝飯を食べてこい」
「でも……大輝は朝ごはんを……」
「俺はもう食ったぞ?」
「え?」
私は食事をしている彼を見ていない。
だけど、彼は食べ終わっていると言っていた。
なんだか嫌な予感がする。一瞬身震いをしそうになる。
「大輝……何食べたの?」
「ん? 警備員の血。全部食った」
「さ、さいですか……」
結局は、大輝も変質者の中の変態らしい。
しかも取り込んだのは、獣人の血。味の説明はしてもらっているので、想像はできる。
きっと、最悪以上に不味かったのかもしれない。まあ、ここは……。
「ご愁傷様です……」
「どうも」
彼にとっては、大凶より上の極凶だったと思う。
でも、本人が満足したなら大丈夫だとは思うけど。
「そうだ。警備員からのお願いがあるんだが……。メウス。国王がお呼びらしい」
「ぼく?」
「ああ。これはかなりいい方向に向かっている。ミカエラもこの国を救いたいだろ?」
大輝の言う通りだ。ここでメウスはメンバーから外れ、一人王宮要塞へ向かった。
朝食が終わったら聖域へ出発。レヴェルがどんな人か、どんな剣か楽しみになってくる。
きっと大丈夫。そう信じてみよう。
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