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サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第4章 相棒

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第131話 知らない人と知る人と

 大輝の隣で歩く私。さっきから視線が痛い。


 生まれ変わったダイン。それを拒絶しようとする人々。


 それでも、大輝は平然としていた。この状況に慣れているかのように。


 大輝の方に物が投げ込まれる。基本的には食べ物が多い。


 それでも彼は、普通にキャッチしては食べを繰り返していた。


「大輝。本当に大丈夫?」


「問題ない。全て予測済みだ」


「そう。ならいいんだけど……」


 足の方に飛んできたものは、ぶつかる直前で停止する。


 これも魔法なのだろうか。無意識にやっているなら、大輝の魔法はどこまで……。


 その後も、嫌味を言われたり頭突きをされそうになったり。


 全て大輝が未然に防いでいたけど、このままでは魔力不足にもなりかねない。


 偶然見つけたカフェ。中に入ると、そのまま退店させられる。


 どこかで休ませたい。だけど、大輝を嫌う人が多すぎる。


 ダインの名前は広く伝わっている。それも、災厄の人として。


 路地裏に座る。大輝の前に並べられたのは黒く変色したソリア。


「大輝……」


「大丈夫って言ってるだろ。こいつの毒は強そうだ……」


「もしかして、食べるの?」


「もちろんだ」


 大輝は黒いソリアを口に運ぶ。ザクリ、果物とは言えない硬質の音。


 そのまま彼は普通に飲み込んだ。以降も食べ続ける。


「ふぅ……。これで終わりか……」


「体調に変化は?」


「ないな。むしろ元気だ」


 そう言いつつ、大輝はうつ伏せになると腕立て伏せを始めた。


 こんな状況でも筋トレできるのが、彼の凄いところかもしれない。


「大輝。また来たよ」


「次はなんだ?」


「また。黒いソリア……」


「もらう」


 私は腕立て伏せをする大輝の前にソリアを置いた。


 彼は片手で全身を支え、継続したまま食べ始める。


「大輝は……。普通なんだよね?」


「まあな」


「じゃあ、なんで毒が効かないの?」


「さあな」


 路地裏はそれなりに広い。大輝一人と頭ひとつ分の幅。


 両側には建物があり、少し薄暗い。


 また、黒いソリアが投げ込まれる。大輝に聞くと、これが獣人の国だと言われた。


「獣人の国ではな。毒物は悪人が食うっていう風習があるんだ」


「だから、黒いソリアが……」


「だな。ま、俺には効かないけど……」


 それが普通じゃないというんだけど……。


 大輝は何回目かの運動をして、全てのソリアを食べきった。


 本人はものすごく休まったらしく、路地裏から出る。


「んんー! 眩しいな……」


「そりゃ、暗いところに隠れていたからね」


「そうだな……」


 そこから私たちはセリンの家に向かった。


 だけど、家に帰ってきていたらしいリンダさんが、大輝を入れようとしない。


 大輝は一人外で生活することになってしまった。


 彼はそれでも問題ないと言う。それでも、私は心配になる。


 きっと彼は、普通の食事をせずに血と毒で暮らすのかもしれないから。


 大輝としてはいいのかもしれない。だけど、それでは体調を崩してしまう。


 不安になった私は、大輝に付き合うことにした。


「それで、大輝はどこに行くの?」


「決めてない」


「ほんとに?」


「ああ、寝る必要もないしな……。歩いていればどうにかなるだろ」


 大輝はそう言いながら、昼下がりの道を進む。


 再び投げつけが始まった。今度は陶器が加わっている。


 何度かセリンの家の前を通る。それでも、中には入れさせてくれない。


「おかーさん! あそこの家の人、おにく食べてる。わたしも食べたいー!」


 歩き回っている最中。軒下にいる親子を見つけた。


 その親子は獣人で、子供は八歳くらいの男の子。


「ダメよ、あれは人間だから食べられるの。私たちが食べたら、捕まってしまうわ」


「でも食べたい! たーべーたーい!」


 子供が指さしていたのは、セリンの家。


 そう、この軒下は家の真正面にあった。


 窓からエレンが食べる肉が見えるのだ。


 それは、食べたくなるのもわかる。


「ほんと、ここも腐っちまったな……」


「え?」


「昔は……と言っても俺が日本に生まれる前までは、獣人も肉を食べていたんだ」


 つまり、ビーガン文化になったのはつい最近。


 これは、何をきっかけに起きたのか知っている系だろうか。


 大輝は、子供の近くに向かう。そして、空間からパンを出した。


「お腹空いているんだろ? これをくれてやる」


「大輝?」


 大輝が出したのは、小さな肉入りのパン。


 彼に聞くと、パン屋の主人と仲良くなったようで……。


「日本に大豆ミートあるだろ? それを主人に作ってもらったんだ」


「いつの間に?」


「ま、色々あってな。昨日、めちゃくちゃお世話になったんだ」


 これは、いい情報かもしれない。私は子供に『大丈夫』と後押しする。


 子供は無言で食べ始めて、大喜びしてくれた。


 母親は、ずっと大輝の顔を見ている。


 その表情はとても引きつっていて、大輝のことをよく思ってないようだ。


 だけど、無邪気な子供は嘘をつかない。ものすごく嬉しそうに食べる姿は弟のようだった。


「おにいちゃん。おねえちゃん。ありがとう!」


「どういたしまして」


「こちらこそ」


 ことが終わり、私たちがその場を離れようとした。


 しかし、私の服の裾が引っ張られ足止めされる。


 振り向くと、子供が目を輝かせていた。


「なんで、食べさせてくれたの?」


「大輝。私も聞きたい」


「あ、ああ……。俺はいらないからだ。なら、腹減ってるやつの中に入れた方がいいだろ?」


 大輝はそう言って、もうひとつ取り出した。


 もちろん、そのパンも子供に渡す。


「ありがとう!」


「その……あなたたちは?」


「聖女のミカエラです。で、こっちは……」


「工藤大輝。ただの一般人だ」


 ようやく移動が可能になった私たちは、パン屋に向かう。


 そこなら、大輝を入れてくれると判断したから。


 パン屋は、飲食店エリアにあった。


 セリンの家とも比較的距離が近い。


「お邪魔します!」


「おや、大輝じゃないか。最近騒ぎになってるみたいね」


「はい。おかげさまで散々です」


 パン屋の店主は快く引き受けてくれた。


 ここにも噂が届いているようで、恩返しをしたかったらしい。


 こうして大輝は、パン屋で暮らすことになった。


 本当によかった……と言うのは、今日までで……。

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