第130話 情報収集と危険人物
翌日。この日は何も用事がない。朝食を済ませた私は、一人街を歩いていた。
大輝は食後の運動へ。セリンはゼレスリシアに戻った。
エレンはシリルと一緒に買い物。ライガンは本屋に行っている。
リンダさんも今日は仕事らしい。だから本当に何もない日だった。
メウスは王城に用事が出来たと言っていない。
ティアと零も、留守番をするらしい。
「暇……」
それが率直な感想だった。
ここ数日、大輝と沢山話したけど……。
引っかかる部分も多くて、最優先事項がわからない。
ひとつ目は、大輝はなぜ私が生まれることを予想していたのか。
ふたつ目、ダインとしての記憶はどこまであるのか。
みっつ目、ダインとレヴェルの詳しい関係性。
「最後のひとつは、ダインが書いた本の真相……」
新しい親から推理のコツを教わってきた私。
思考を全体に行き渡らせて考察するのは、慣れていると思っていた。
姉のような決めつけもしない。しっかり根拠を見る。
お父様から褒められた部分。なのに、パズルピースが足りない。
「先にどこから解決していくか。だよね。答えは複数ある」
最終的に残るのはひとつだけ。かなり時間がかかりそうだ。
大輝が求めていそうなことを最優先にしてみる。
大輝に繋がるのは……。
「やっぱり、レヴェルさんだよね……。さんづけした方がいいのかわからないけど……」
レヴェルの正式名称は、ダインレヴェナント。愛称で呼ばれている時点で、人型もある。
大輝がかつて大事にしていた剣。きっと、すぐにでも会いたいはず。
でも、どこにあるのかわからない。
メウスに聞けばわかるのかもしれないけど……。
「はぁあ? また聖域で死者が出ただと!?」
どこかから男性の大きな声。聖域で死者が出ている?
目を向けると、獣人が多いこの国では珍しい人間。
かなり焦っている様子で、頭を抱えていた。
ここで、シリルと大輝の会話を思い出す。
――――――――――――――――――
『たしか、ダインレヴェナントは血を吸う剣でしたよね? 今もその剣が眠っている聖域で死者が多発しているとか』
『ま、マジかよ……。んあー。もう、レヴェルは相変わらずだなぁ……。無尽蔵に殺すものじゃないっての』
――――――――――――――――――
レヴェルがいる聖域は獣人の国にある。
大輝なら知っていると新たな予想が立ったけど、彼が覚えているかは不明。
彼の過去も書かれた本。それには、文章が途切れているところがあった。
だから、わからないことの方が多い。
とりあえず、さっき大声を出していた人に聞いてみよう。
「その……。お話し中失礼します。聖域ってどこに……?」
「は? もしや行くんじゃねぇよな?」
「いえ。ちょっと気になったので……。その聖域で管理されているものに詳しい人が、私の友人にいるんです」
「嘘言え、もうあの剣はヤバイみたいだからな。行ったら殺される」
レヴェルがそんなに危険な剣だなんて……。
きっと大輝にとっては激怒案件。もう少しだけ話を聞こうと考えてみる。
「聖域の剣ってそんなに危ないんですか?」
「危ないも、遺体すら運ばれてこないんだ。きっと骨までいってるんだろうな」
「骨まで……。やっぱり……」
レヴェルは満足できずにいて、血だけでは足りないのだと考えてみる。
そしてレヴェルが不味い血だけを飲まされているということを、大輝は知っている。
その穴を埋めるために、大輝は美味しい血を集めだしたのかもしれない。
真っ先に献上されるのは、やっぱり私だと思う。
「その剣。ダインレヴェナントですよね?」
「いや、名前は知らん。帰還者がいないから特定もできん」
「そうですか……」
やっぱり実例が少ない案件は、情報が集まりづらい。
でも、全ては大輝のため。ダインのため。
しっかりと情報を集めて、特定する必要がある。
「しかし、お嬢ちゃんの友人と、聖域にある問題のアレ。どんな関係があんだよ」
「少し言いづらいのですが……。そのアレの持ち主で……」
「は!?」
「本当です。もっと言いづらいんですけど。ダイン・ルーディス本人で……」
言いづらいことは言いづらい。だけど、男性は興味津々になっている。
「ダインって、あの伝説の殺し屋で剣豪のダインか? 死んだと言われて浮きだっていたが……」
「そうだそうだ。そんな危険なやつはさっさと殺せ!」
「ダインは排除! この世から消え去れ! 世界の癌だ! 消えて魂ごと抹消されろ!」
ヤバイ……。ダインを嫌う人は予想以上に多かった。
これを大輝に知られたら、殺害案件になりかねない。
彼にはもう罪を重ねてほしくない。その気持ちだけが独り歩きする。
「ん? ミカエラ。どうしたんだ?」
「げ!?」
さらにヤバイことになった。大輝が乱入したからだ。
今ここでは、ダインの存在反対運動が繰り広げられている。
何もない日だったはずが、事件を起こしてしまう始末。
「大輝。ごめんなさい……」
「あ、ああ。俺がダインってことを晒しちまっただけだろ?」
どうやら全て聞かれていたらしい。
だけど、ここで周辺の空気が張り詰めた。
「だ、ダイン!? 本人……だと!?」
「さっさと殺ッ!?」
「チェックメイト」
どさり。さっきまで騒ぎ立てていた人たちが全員気絶する。
本当に一瞬だった。そして、大輝の手を見れば赤く染まっている。血だった。
大輝はその血を口に運ぶ。
「はぁ……これもハズレか……」
「もしかして、美味しくなかったの?」
「ああ。やっぱり、レヴェルに紹介できるのはミカエラだけみたいだ」
「そう……」
彼は無言で私の首元に指を押し当てる。
少しだけ痛い。手が離れると、また血がついている。
どうやら口直しをするらしい。いつもの大輝だった。
私は『もっと採っていいよ』と伝える。大輝の表情が明るくなる。
ずっと、こんな兄でいてほしい。日本にいた彼もよかったけど。今も好きになれると思った。
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次回から第4章です。




