第127話 底のない運動バカ
翌朝。起きると大輝の姿がなかった。
廊下に出ると、そこは少し騒々しい。
「外から?」
私は二階の窓を覗き込む。通りには大勢の人。
その中心にいたのは、大人数を背負う大輝だった。
今日も今日で張り切っている。しかも、乗せている数は十人以上。
どうやって持ち上げているのやら。本当に無茶をする男だ。
急いで一階に降りる。外に出ると見物人が増えていた。
「大輝。無理しすぎじゃない?」
「そうか? まだまだいけるが……」
「それが無理しているってこと」
自覚をしていないのか、次々と乗せていく大輝。
人間離れしているのが、普通になってきた。
「乗せている人を怪我させないでね」
「わかってるって。よし、次行くぞー」
大輝は今乗せている人を全員降ろして、次の人を持ち上げていく。
これはまるでアトラクションのようだった。
いくら怪力男子がいたとしても、異常事態寸前。
「このお方すごいですね……」
「そうですよね……」
隣にいた婦人さんが、話しかけてきたので一言添える。
すると、婦人さんは私に赤いフルーツをくれた。
三日月の形をした果物。初めて見る色。
婦人さんに聞けば、少しだけ毒があり上手く処理しないといけないらしい。
「彼ね。これをそのまま食べたのよ。毒があるのに効かない。一体どんな体質なのでしょうね」
「まあ、大輝なら大丈夫だと思います」
彼は何に拒否反応を示すのかわからない。
もうすでに数百人以上の血を摂取しているので、その属性を引き継いでいるのなら。
そう考えると彼は無敵に近いのかもしれない。
人間ではない。それを改めて知ることになった。
「よっし。今日の分は終わり。みんなありがとな」
乗っている全員を降ろすと、大輝は背伸びをした。
これは明日筋肉痛と思ったけど、もう足の筋肉が限界突破しているので参考にならない。
人の山が空を占領していたのがなくなり、真っ青な世界が広がる。
本当に、大輝は化け物だった。
「ミカエラ。朝飯食べに行くぞ!」
「はーい!」
私は大輝の後ろを歩く。セリンの実家に着くと、大量の肉料理が置かれていた。
ここはビーガン文化だけど、どうやらリンダさんが用意してくれたらしい。
一足先に来ていたエレンたちは、食事の真っ最中。
もちろん、エレンは肉にかぶりついていた。
彼は彼で胃袋が異次元。これは、何度言ってもいい。
「おはおうごひゃいまふ。みはえらさん」
「エレンおはよう」
しかし、メウスの姿がなかった。そこが気になってしまう。
少し遅れてシリルとライガンが姿を現すと、私は質問することにした。
しかし、答えは同じ。二人もメウスを見ていないようで……。
「メウスさんは今朝からいないですね。宿屋の人も知らないみたいです」
「そうですな……。わたくしも周辺を探しましたが、見当たらないですな」
「そうですか……」
まあ、メウスのことだから大丈夫でしょう。
私は席につくと、貰い物のパンを食べる。
大輝はと言うと、唐揚げに似たなにかを頬張っていた。
それでも、数個食べただけで飽きてしまったようで……。
「やっぱり、普通の食事が合わなくなってるな……」
これが、彼の感想だった。血しか求めなくなる原因を作ったのも大輝自身でしょ!
大輝は私の顔を見る。もしや、私の血が欲しいのだろうか。
もちろんそれは想定内。と思っていたんだけど……。
「ミカエラ、さっきおばちゃんから果物もらっただろ?」
「う、うん……」
「それ食べたい」
ということだった。私は彼に例のものを渡す。
すると、大輝はそのままかじりついた。
とても気に入っているらしく、受け取った分全てを腹に入れていく。
「大輝。これ毒があるって聞いたんだけど……」
「おん。あるな……。けど、これくらいなら問題ない。そもそも、この毒素は獣人にしか効果ないしな」
「じゃあ、私が食べても大丈夫?」
「いや、やめた方がいい」
なら大輝も食べないでよ! って言いたくなるが我慢。
その時には全部消えていた。これでようやく満足したみたいで、『走ってくる』と外へ消える。
食後すぐの運動は厳禁。というのは、通用しないらしい。
「大輝さんはすごいですよね……」
「そうだね……。私もあれが自分の兄と思うと、変人にしか見えないかな?」
「変人って……。その通りかもしれないですね……」
エレンと少し会話を挟み。私は食事を再開した。
私の目の前では、シリルが野菜を食べている。その隣ではライガンも朝食中。
こんなバラバラな食卓は、初めてかもしれない。
でもそれでいいんだ。それぞれ事情があるんだから。
「ミカエラさん。大輝さんは、あちらでもあんな感じだったのですか?」
シリルが問いかけてくる。私は前世の記憶を引っ張り出すけど、そこまで酷くなかった。
あくまでも、普通の大学生。体力お化けというわけでもない。
それでも、筋トレは欠かさずやっていた。ジムにも通っていた。
「だけど、あんなに力はなかったかな? 血を飲んだ後から一気に跳ね上がった感じ」
「そうなんですね……。昨日は驚きましたよ。ものすごく重いはずなのに、軽々と持ち上げるのですから」
「僕もそう思います。あれは人間業じゃないですよ。常人離れしすぎです」
エレンも同意の声を上げる。彼も大輝を疑っているらしい。
大輝の普通ではない身体能力。その根源的なものがなにか。
「大輝は、一体何者なの……」
「そうだな……。ホントあのバカ弟子は深淵級に底が見えない」
「セリンさんでもそう思うんですか?」
「ああ。まずまず、彼は五歳にして基礎の打ち方を知っていた。しかも俺より腕が上だった」
大輝の師匠であるセリンでさえ唸らせている。
本当の大輝が知りたい。だけど、記憶が不明瞭で情報も少ない。
昨日も少しの情報しか教えてくれなかった。
深追いするのも悪いと思うけど、はたして吉だったのかはたまた凶なのか。
私は脳内整理するのに必死で、食べたものを味わうことができなかった。
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