第128話 仕事体験とルーディスの書
朝食後。私たちはリンダさんに呼ばれ、彼女の仕事場へお邪魔することになった。
リンダさんは、獣人の国の農場で働いているようで、広い農園へ案内される。
ここでは、大輝が気に入って食べていた毒のある果物や、他の国に輸出するものまで。
様々なものが栽培されているとのこと。
簡易的なビニールハウス。この世界にも、これくらいの設備はあるらしい。
そもそも、獣人の国は別名機械都市と呼ばれているらしく、発展速度も早いとのこと。
「今日はここの農場を手伝ってもらおうかねぇ」
案内されたのは、大輝が好んでいる果物の栽培場所だった。
まあ、大輝が勝手に食べなければ問題ないだろうけど。
ここの果物の名前はソリアというらしく、成熟すると毒の力が強くなるとのこと。
しかし、成熟する前に収穫すれば毒素を抑えられるようで。
それはつまり、成熟する前のものを商品にする。
「ソリアは赤くなると成熟した証。成熟前は黄色や緑になっているから、それを取ってくれるとありがたいわぁ」
「『わかりました!』」
参加するメンバーは、私とメウス。エレン。大輝の四人。
セリンとシリルは別の用事があるとのことで、不参加。
私はできるだけ黄色いのを採ることにして、作業を開始する。
ここではソリアを水耕栽培しているようで、水の中には根が張っていた。
「なかなか良さそうなのがないですね……」
「そうだね……」
私はエレンと相談しながら採取する。
先にコツを掴んだらしいメウスは、同じ果物のある別のハウスに行ったようだ。
そして、一番の問題がある大輝はというと……。
「やっぱり美味しいな……」
赤い実だけを採っては食べで、商品にならないものを消してくれている。
本人が気に入っているなら問題ない。彼にはこの毒も効かないから。
そのおかげか、だんだん商品になる果物が顔を出すようになった。
エレンもものすごく楽しそうに、手に持つかごを埋めていく。
対して私は全く作業が進んでなかった。
「でも、まあいいか」
私はリンダさんを呼んで、別の仕事をすることになる。
それは、ソリアの検査と包装の仕事。
ソリアは商品にするサイズが決まっているらしく、規格を下回るものは出回らない。
そんなソリアと、ひたすらにらめっこするんだけど……。
「どれも、同じに見える……」
大きさとかはほとんど変わらない。だけど、重さが微妙に違う。
少しだけ軽いもの。少しだけ重いもの。
三日月型の実の曲がり方が弱いもの、強いもの。
色が少し濃いもの、薄いもの。
本当にどんぐりの背比べみたいで、差がなさすぎる。
「リンダさん」
「いいのいいの。ミカエラさんはただはじいてくれればいいのよぉ」
「と言われましても……」
しばらく果物を見ていると、魔眼が反応する。
果物の内側。そこには、少し赤くなり始めているものがある。
こんな時にも役に立つんだと、少し嬉しかった。
その後は仕事がはかどり、合計数百袋を詰めて出荷。
落ち着いたのでハウスに向かうと、未だに大輝だけが食べていた。
「大輝。ちょっと食べすぎじゃない?」
「ん? そうか?」
本人は自覚がないようで。まあ、それでいいんだけど……。
顔色は悪くなってないようで、安心だけはした。安心だけは。
大輝は赤い実だけをただ食べて、仕事という名の行動は一切なし。
しばらくして、お昼休みになったのだけど……。
約一名、満腹男子が出来上がった。
もちろんその人は、お察しの通りであるんだけど……。
「ミカエラさん」
「あの人はほっといておこうか」
「そうですね」
ここで名前を呼んだら意味がない。
無自覚魔は無視をしろっていうことだ。
今日のお昼は野菜たっぷりの低カロリーメニュー。
この異世界特有の果物ではなく、馴染みのあるレタスとキャベツサラダ。
肉ばかりを欲しがるエレンでも、これなら許せるそうで。
収穫して規格外となった処理済みのソリアを挟んで食べる。
地産地消とは、すなわちこういうことなのだろうか。
なんか違う気もするけど、そんなことは関係ない。
「ミカエラ。もういらないの?」
「うん。朝食べ過ぎたかも」
「そういえば、ミカエラさんは大きいパンを二個も食べてましたもんね」
エレンが言った通り、私は朝にパンを食べた。
まだ胃に残っている感覚がする。それが、お昼に入らない理由。
ちなみに今朝の大量な肉は、ほぼ全てエレンのお腹に消えてった。
彼が野菜だけで済ませられるのは、それもあるのかも。
「私はあっちの方で読書してくるね」
「わかりました」「わかったー」
エレンとメウスがいる場所から少し離れ、静かなところに移動する。
空間の中からルーディス・グランダの本を取り出して、続きを再開。
そういえば、ここ最近読んでなかった。同時に本の厚みが増した気もした。
まあ、気のせいだろうと、読み進める。
「獣人の国……。ルーディスも来てたんだ。でも、ルーディス?」
「お、読書か。いいな」
「大輝。その顔は満足したみたいだね」
「おかげさまでな。ところで、誰の本を読んでいるんだ?」
大輝に聞かれ、私は「ルーディス・グランダ」と答える。
彼も読みたいと言いだしたので渡すと、そのまま一気読みされた。
「懐かしいな……」
「懐かしい?」
大輝の口から出てきた意味深な言葉。
その声が大きかったのか、反対側にいる人が振り向いた。
「ミカエラ。この本の記述に心当たりはないか?」
「え? えーと。サバゲーのところとか?」
「そうだ。これは、俺が前世で書いた未来書。俺の視点で今後起こる可能性が高いものを書いている」
「じゃあ、ルーディス・グランダって……」
「俺のペンネームだ」
つまりルーディス・グランダのルーディスは、ダイン・ルーディスのルーディスということ。
名前を覚えられない彼にとって、都合が良すぎる。
だけど、それくらい分かりやすい方が良いのかもしれない。
大輝はさらに先を開いた。そこには、まだ空白の多いページ。
「俺の描く未来は決して完全とは言い切れない。途中ページは破れているが、そこは前世の俺が今の俺になるまでの空白期間。ことのつまりは、ここから先はどんな方向にも転がる」
「じゃあ、この後の内容は大輝でもわからないの?」
「そうなるな。まあ、レヴェルを再び持つことができれば、少しは変るかもしれない」
そんな不確定なことを言われても困る。
こうしている間に仕事体験は終わり、大輝は赤いソリアを山盛りにして持ち帰ってきた。
もしかしたら、血よりも好きなのかもしれない。少しは悪癖改善できるだろうか。
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