第125話 生命の大結晶
◇◇◇ミカエラ目線◇◇◇
戻ってきたエレン。私は少し嬉しかった。
本当は、家の中にいる状態で迎えたかったけど……。
エレンがいない間私たちは何をしていたか。
それは、この獣人の国のエネルギー源を管理している場所の見学だった。
「本当にエレン様を連れて行かなくてよいのですか?」
「うん。きっと今の彼だと聞いてくれないだろうし。どこにいるかもわからないし」
「そうですか……」
この時ライガンは寂しそうな顔をしていた。
私も悪かったかもしれない。解決策は見つかったけど……。
きっと大丈夫。大丈夫。不安な気持ちを押し殺す。
坑道を歩くと、クリスタルの数が増えてきた。
セリンが言うには、この先に生命の大結晶があるとのこと。
「生命の大結晶は、獣人の国全域にマナラインを引いている根源だ。俺はここのやつらと仲がよくてな」
「だから、セリンさんの顔パスで入れたんだね」
「そういうこった」
セリンを先頭に、奥へ奥へと入っていく。
最奥部に着くと、エメラルドグリーンの巨大なクリスタルが出現した。
風が冷たい。明かりもない。だけど、大結晶の光源だけで十分だった。
「すごいね……」
「だねぇ……」
私とメウスは、その大結晶をずっと見ることしかできなかった。
こんな綺麗な場所。私はもったいないことをしたかもしれない。
あの時、私がエレンに合わせるべきだった。
そうすれば、『絶交』なんてされずに済んだ。
もう後戻りはできない。そう考えることしかできない。
これでよかったのだろうか。終わらない自問自答。
私はこの大結晶の場所に来る前のことを思い出す。
――――――――――――――――――
『私、悪いことしたかもしれない……』
『ミカエラさん。そう気を落とさずに』
『わかってる。わかってるけど』
この時私は、心に棘が刺さった感覚に陥っていた。
正しく考えられない。そんな心境。
『エレン……大丈夫かな? どうしよう……』
『ミカエラさん。落ち着いてください』
『だけど、シリルさんもあの時何か言ってくれれば……』
私は無意識に誰かのせいにしようとしていた。
罪を重ねれば重ねるほど、重くなる。
晴らし方が分からなくなっているのに気付いた時には、シリルになすりつけていて……。
『このまま空気が悪いと、エレンも困りますよ。セリンさん。気分転換になる場所ありますか?』
『そうだな……。生命の大結晶を見に行くのはどうだ?』
『ではそうしましょう』
――――――――――――――――――
そうして、私たちはここにいる。
大結晶はとても力をくれた。今なら、エレンを迎えることができる。
岩肌にも負けない、そんな輝きが勇気を与えてくれた気もして……。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだね……長居も悪いかも」
シリルとメウスの提案で、私たちはセリンの家に向かう。
その時、私は来た道の反対側に別の道を見つけたんだけど。
セリンに聞くと、その道は要塞王城と直結しているらしい。
さすがにここの王城とは、関係を持つことはないだろう。
「こっちが近道だ。ついてこい」
「ありがとう、セリン」
「まあな……」
それから数分。無事にセリンの家に着くと、中にはエレンと大輝がいた。
エレンは今にも泣きそうなくらい、目に涙を浮かべている。
そんな彼の背中を大輝がさすっていた。
まるで、弟を見ている時のように……。
エレンは袖で涙を拭うと、涙声で切り出した。
「その……! ミカエラさん!」
「なに?」
「さっきは絶交するなんて言ってすみませんでした……!」
突然謝ってきた彼に、私の身体がピクリと動く。
これには、他のメンバーも驚いたようだった。
そこで私は『なんで謝っているの?』と問いかけると……。
「僕のわがままのせいですよね……。あの時は空腹が耐えきれなくて……」
「わかってたよ。でも、エレンなら寂しがるかなって。私がいないことも、好きなものが食べられないことも……ね?」
「は、はい……!」
私は、出かける前に見つけた大量の小さいパンを渡す。
「これ、騙されたと思って食べてみて」
「でも、これただのパンですよね?」
「うん。多分エレンの期待に応えてくれると思うから、早く食べて」
「わかりました」
エレンはパンを食べ始める。すると、何かに気づいた顔をした。
途端、彼の食べる速度が上がっていく。『肉が入ってます!』と言った時には、三個食べきっていた。
「なんで僕は気が付かなかったんだろう」
「食べ物はね。食べてみないとわからないものだよ。見た目ではわからないからね」
「たしかに……そうれふね……。おいひ……。もう一個!」
エレンはどんどん食べていく。加速は止まらない。
少しすると、家のドアが開いた。そこには、髪をピンクに染めた、犬耳の女性。
「母上!」
「あらまぁ。大所帯ねぇ。セリン元気かい?」
「もちろんだ。母上も連勤お疲れって言いたいところなんだが……」
どうやら、彼女がセリンのお母さんらしいけど……。たしかにこの状況はイレギュラーだった。
とりあえず、テーブルに散らかったパンを整理すると、メウスが椅子を用意。
七人で円を描くように座る。顔がはっきり見える座り方って、なんか嬉しい。
「セリンの母のリンダ・パッシュと言います。息子がよく世話になっているようで嬉しいねぇ……」
「ってわけで、俺の母上だ」
優しいママさん肌のリンダさん。獣人だからか、老けている様子がない。
本で読んだところでは、獣人は最大二百歳まで生きるらしい。
つまり、実際はもっと若いのだろうか。
「ところで、きみたちはどういうご関係なんかねぇ?」
リンダさんは、みんなに質問をする。だけど、誰も答えることができない。
このメンバーは、勇者パーティと言っても形になりきっていない。
だから、はっきり言うことができない。そこを、大輝が裂いた。
「俺は関係ないな……」
「それはどういうことかい?」
「こいつらはこいつらで、ひとチーム。俺はあくまでもソロ。付き添っているだけだからな」
そうだ。私たちと大輝はメンバー証が違う。だから、関係ないという回答になる。
「ということだ。ま、俺はこのメンバーと一緒じゃないと羽目外しそうになって怖いんだが……」
「大輝はそうだよね。なんか、独立したら一人で暴走してそう」
「んなこと言うな……。それよりも、セリン師匠。俺たちはどこで寝ればいいのでしょうか?」
やっぱり、大輝はセリン相手だと敬語になるらしい。
その後、リンダさんが宿屋を用意してくれて、食事だけこの家を使うことになった。
宿屋のベッドは少し狭かったのだが……。
「ミカエラはぼくのものだ!」
「いいえ、僕のものですよ! メウス!」
普段通りの取り合いが始まってしまった……。
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